十三ページ目『海浜公園にて①』
これまでのヒーローの鏡:ついに血雷の事が一般人にバレてしまった……が相手が良かったのか、妄言で片付いたようだ。
今日はいよいよ勝負の日! 告白にはうってつけの良い天気!
今日は日曜日!
ご意見番の圧倒的な助力により、なんとか進を告白させるところまで持ってこれた。
雪里がアポ取りとかすればいいのに……そこは全部ボクに任せだもんな。「私には進君のフォローがあるの! 役割分担よ」とかなんとか言っちゃって!
ボクは今日という日をセッティングするのに、色々倉宮の要求を飲むことに……
苦節二週間! 考えるだけでもゲンナリするような事ばかりだ。敢えて語りはしないがマジで大変だったんよ。
この間に血雷が出なくて本当に良かった。そこだけが救いだった。
昼間は授業と倉宮のアポ取り作業。夜中は想力と戦闘訓練。この二重生活で正直身も心もボドボドだぜ。
……ちょっと白髪増えたかも?
ボク等がいるのは、いつぞや雪里から血雷やマインスイーパーのことを聞いた公園だ。
ボクの辛い気持ちを、知ってか知らずか(まぁ知らないんだろうけど)、進達は仲良さそうに……それこそ彼氏・彼女みたいに倉宮の手作り弁当を突いていた。
ボクと雪里だってお弁当を突いてるぜ。コンビニのだがな!
この前のようにぶちまけたってわけじゃない、食べれる状態だ。しかし、実家のキッチンのテーブルの上に放置プレイだ。今頃、未来さんが食べてるんじゃなかな?
ボク等も端から見たらカップルにでも見えそうなもんなんだが、そんな目で見ている人は居ないだろう……
ボクは普段かけないデカフレームの眼鏡にキャップ、黒のジャージ姿。
そして、雪里はまんまるのグラサンに、ニット帽とマスク、厚手のタートルネックにジーパン。
そして、二人でコンビニ弁当を突っついている。
……雪里のせいでやばい二人組になってしまった。
周りの人は、かなり遠巻きで見てきやがる……いや、相当怪しまれているのか。皆、このエリアから離れていってる……そこまでじゃないと思うんだけどなあ?
それはさておき、進達は予定通りの配置につけた。二人の声が聞こえる距離感でボク達、倉宮、進と直線的な陣取っている。いざという時は、このスケッチブックに指示を書くという寸法さ。余計に変な連中に見られそうだが、倉宮の真後ろに居るので気づかれにくいだろう。今は大丈夫そうだ。
…………にしても、なかなか声が聞こえないな。
進の口が動いているのはわかる。しかし、ヤツの声が予想より小さい、緊張のせいか。
倉宮の声は普通に聞こえる。
そこから推察すると、昨今の料理系の作品についての話題だ。ボクは、この辺り全くわからん、興味なし!
小一時間ほどそのテーマで話していた。しかも、もう帰るみたいなこと言ってますけど?!
雪里の奴はと言うと……いい具合にぽかぽか陽気なので寝てやがる。
何だこいつ?
オイオイオイオイ! 折角ボクが身を削ってアポ取ったってのに、もう終わっちまうのか?
スケッチブックに「告白」とだけ、デカデカと書いて進に見せる。
奴は「困った」みたいな顔を見せる。
ボクはすかさず「勇気見せろ男だろ」と書き、それを見せる。「男」の部分に集中線を描き、強調までして。
片付けをしながらジッと、それを進は見つめていた。
そして、いよいよピクニックエリアを離れようとしていた……
「倉宮さん!」
突然、大声で先を行く倉宮の名前を呼ぶ進。
「どうしたの急に、大きい声出して?」
「ぼ、俺は引っ込み思案だし、少コミの男キャラみたいな事も出来ないから、こんな感じでしか伝えることができないんですけど……」
おぉ、決心着いたか!
「いいぞその調子!!」と、書いたスケッチブックを出す。
「好きです。俺、倉宮先輩の事好きです!」
おぉ! どストレートだな! 度胸あるじゃん、見直したぜ。
「…………あぁ、なるほど。それには答えられない、ごめん」
「え?!」
!!! 何! 倉宮の奴あっさりと!
これは、お前に残された最後のチャンスなんだぞ! ここを逃したら、二度とこんなチャンスないんだ!
「今、好きな人いるんだよねぇ。その人に、ワタシの総てを捧げないといけないから、進ちゃんの気持ちには答えられないんだぁ」
「ないんだぁ」じゃねぇ! もっと、言い方ってもんがあるだろ。
「そ、そんな……」
「別に進ちゃんが嫌いってわけじゃないの。でも、ワタシには王子様が居るのよ」
なんか語りだしたぞ。
「進ちゃんにも話したでしょ『人食いアルマジロの話』」
まさか……!!
「ワタシは、直ぐに気を失っちゃたからアレなんだけど、その時、イカス仮面をつけた殿方が助けてくれたの……ワタシの憧れの方、総てを捧げたい人……仮面の君」
それってボクの事じゃないか!
憧れは、理解から最も遠い感情なんだぞ!
「ワタシ、その人が心の底から好きなの! 愛してるの!! だから、進ちゃんの気持ちには答えられない」
そんな、強めに言わなくても……
ほら進の奴、俯いちゃってるよ……お前はよく頑張った。初めから愛した女が悪かったんだ。
倉宮の奴! さっさと先行っちゃうし、最悪だな。よくもまぁ、この空気で帰れるよ。
そんな倉宮の背中を見ていると、雪里の携帯電話が鳴り響き、彼女が飛び起きた。それと同時に、目の前で落雷音が響き渡った。
只今の天候は晴れ、この音は落雷ではない。踏まれた時に聞こえてくる踏音なのだった。
寝ぼけ眼の雪里に服を引っ張られる。表情は険しい物だった。
「まさか進君が”血雷寄生者だったとはね……」
その時すでに、雪里は鎧装を纏っていた。
「もっと、早く言えよ!」
「わかるわけないでしょ!」
「え? 今の何? ……落雷? 今日、晴れ? え?」
てか、倉宮もいるし、ここで鎧想にはなれないって。
こうしているうちに、進は血雷化していった。
例によって両目は血走り、全身は赤黒い血管の稲妻模様。手は翼に変わり、脚は鉤爪になっていた。その姿はギリシャ神話に登場する「ハーピィ」であった。
「性別まで変わるのかよ!」
顔は進の面影が残るものの、女性に変わっていた。
「何アレ?! ハルピュイア?」
それもハーピィと同じモノを指す。お前はそっちで呼ぶのな……流石、倉宮。普通の女子高生の口から「ハルピュイア」なんて出てこないぞ。
「クルァァァァァァッ!!」
進……基、ハーピィ血雷が鳴く。耳、痛っ!
「あるぅえぇ? そこに居るのは植木鏡君じゃありませんかぁ?」
めんどくせぇ! このタイミングで気づくな! 余計、鎧想出せないじゃないの!
「アレ、ハルピュイアだよね? ね? すご……」
倉宮はボクの方に寄ってくるなり、倒れかかってく。ギリギリで体をキャッチ出来た。あぶねぇ……少しいい匂いが……
そして、目の前には雪里が立っていた。
「安心して下さい、気絶してるだけですよ」
ドヤ顔で軽くチョップをする仕草の雪里。
「まさか、手刀で!? 気絶って安心できないから!」
倉宮、白目向いちゃってるよ……
「彼女は私の任せて、鏡君は血雷をお願い」
「……わかってるよ!」
ボクはとても明るい月代に倉宮を預け、代わりにバスターを賜った。
軽く息を吸い鎧装を思い描く、真紅のマントにイカス仮面……
そして、コンマ数秒でそれらを纏。
「よっし! どわっ」
マントをうまく使い攻撃を凌ぐ。あと一瞬遅ければ、奴の鉤爪の餌食だった。
ったく、変身直後を狙うなんて、お約束のわからんやつだ! それでもP研所属かよ。
クルクルと大鎌を回し、ビシッと構えた!
突如として強風に見舞われ、体制を崩してしまう……折角、決まったのに……
ハーピィ血雷は宙に舞っていた。そして両翼により強烈な風を作り出している。
にしても、この場にボク等以外がいなくてよかったぜ。結果的に怪しい二人組で良かったのかもな。
奴は地上から三メートルの辺りにいる。そして、この風だ。なかなか厄介だな……地上から攻撃を試みるも届かない。
アルマジロ血雷を倒した時の技「壊水撃」(ボクが命名)を試しているのだが、なかなか集中できない。これさえあてれば確一なのに……
ヌレークを使うのは一旦諦め、後退。
「雪里、ヤツの想力は?」
「カテゴリは火ね」
「……なるほど!」
アルマジロ血雷と戦った日の夜、ボクは想力について詳しく聞いたんだ。
× × ×
「え? 自分のカテゴリを知りたい?」
「あぁ、ボクがどのカテゴリに属してるのかって知っておいた方がいいだろ」
前にちょろっと聞いたが、ボクは想力について知らなすぎる。ただ単に「イメージしたことを再現するもの」くらいにしか思っていない。
「まぁ、教えてあげられるけど………………鏡君は、水だね」
あっさりと教えてもらった。
普通の人でも想力を持っているのだが、自らの内にあるその力を行使することができない。と、言うか術がない。
想力を使うには、マインスイーパーになるか、バスターに触れているか、血雷化しなくてはならないからだ。
こうしてチョットずつではあるが、想力の扱いを学び、戦闘の訓練を積んでいった。
想力の扱い方は慣れてきたのだが、想力の見分けはからっきしだ。コレばっかりはマインスイーパーでないと難しいらしい。
そう言えば、雪里は何のカテゴリなんだ?
× × ×
「さて、アイツの想力も解ったし、とっとと片を付けますか!?」
ボクとハーピィ血雷との相性は悪い……コレどうするべ……
そんなことを考えていると、雪里の白い肌に短く赤いラインが入る。
「ん? 切り傷?」
……そのあとボクの手の甲や、腕もパックリ切り裂かれたのだった。




