十二ページ目『保険は大事』
これまでのヒーローの鏡:月代雪里は恋愛相談所を構えていた。光進の依頼をこなす為調査を開始しようとした矢先アルマジロ血雷が現れた。現場に駆けつけようとしたのだが植木鏡はまだ想力をうまく使えないようだった!
「大丈夫だからな! おじさんが守ってやるぞ」
「え、逃げた方が?」
「何、言ってんだ。おじさんはこう見えても――――」
「…………ッ!!」
「ギュピーーーーッ!!」
「い……いや!」
『待てい!』
ボクは飛び込みながらアルマジロ血雷を蹴り飛ばす……さすがに硬い!
アルマジロ血雷は転がりながらダメージも軽減している。
「大丈夫かい? ボクが来たからには安……」
ボクの声をかけた少女は倉宮あかねだった。
あっぶねー! 仮面付けてなかったら完全にばれてたよ!
仮面越しに彼女と目が合うと、パタッと倒れてしまった。
「おい、平気か!?」
「何やってんの鏡君! 来るよ!」
「ん? どあっ!」
転がりながら突進してくるアルマジロ血雷!
避ける暇もないし、倉宮もいる。バスターを構えて受け止める!
「くぅ~きっつい」
何とか受け止める事が出来た。そのまま持ち上げて線路の方へ投げ飛ばす。これでちょっとは時間稼げるはずだ。
「おい! 名前呼ぶなよ! ボクだってばれるだろ!」
「あ、ごめんつい……」
なんの為に仮面付けてると思ってんだよ!
「そんなことよりこの子、倉宮さんじゃない? 気絶してる……」
まぁそうだろうな。目の前でいきなり怪物に襲われて人が死んだんだからさ。
ファンタジーが好きだからって一少女にこれはキツイよ。
背後に殺気!
振り向くとそこには、アルマジロ血雷が立っていた。
「もう戻ってきたのかよ。雪里は倉宮連れて下がってろ」
「ギュルルルルルゥ」
あちらさん、だいぶ怒ってるみたいだな。
深呼吸をして心を落ち着かせる。さっきみたいなことが有ったら、今度はシャレにならないからな……勝つイメージを固める。
「っしゃ! こいや!!」
――――――……
意外に冷静ですな。なかなか攻めてこない。
「えぇい、知らん!」
ボクの方から攻めることにするぜ!
二、三撃くらわせたのだが、ビクともしない。外皮マジでカッタイなぁ! 確か、銃弾も弾くんだっけかぁ?
切り裂くイメージは出来ているのだがなかなか成功しない。
こんな時は……雪里ちゃんにでも頼りますか。
「雪里! あいつのカテゴリ何かわかる?」
カテゴリさえわかれば相性のいいカテゴリでイチコロよ! 雪里がそうやってるのを見てきたからね。
「……あいつは木ね」
「木ってことは…………水で優勢取れるな! サンキュ!」
水、水っと……ってあれ? ボクって何のカテゴリが使えるんだ? 全く考えてもみなかった。やばいどうしよう……
考えている暇を与えてくれるわけはなく、アルマジロ血雷の攻撃が始まった。
基本的には体を丸めて転がってくるというものなのだがたまに爪での攻撃などを絡めてくる。なかなかやるね!
想力ってのはイメージ再現の力だからとにかくイメージしろ。水だから水!
水、水、水…………水
アルマジロ血雷は転がって来ていた。一直線にボクめがけて……あ、こりゃぶつかるな……一か八かやるしか!
「クソが! 出ろやぁ!!」
ボクは破れかぶれで鎌を振った。早すぎたまだ奴は攻撃範囲に入っていなかった。
ガキッっと鈍い音が刃先がコンクリートを少し削る。完全に攻撃失敗だ……
しかし、バスターから伝わる……力の奔流だ。
バスター自体が青く輝き、柄と刃の付け根辺りにその力が集中し始めた。
渦を巻きながら一点に力が集約していく。そして、なお進行を止めないアルマジロ血雷に向かってそれは解放された。
轟音と共に飛び出したのは大量の水だった。
ボクが今回イメージしていたのはダムの放水だ。大量の水が一気に流れ出す。その凄まじさは想像を絶する。かつて、家族で日本一大きいダムを見に行った時があるが、その時の放水は圧巻だった。
水圧の前では生き物は無力なのだ。勿論、血雷にはどうかと思うが、効果がないはずがない。
十数秒続いた放水はやんだ。辺りは水浸しになってしまったが、目の前に居るはずのアルマジロ血雷はいなくなっていた。
「た、倒したのかな?」
雪里は目をまんまるにしてこっちを見ていた。
「うん……うん、ごくろうさま……」
× × ×
「大丈夫? 倉宮さん、目を覚まして」
雪里が未だに目を覚まさない倉宮に呼びかける。すでにボクらは現場から離れた場所にいる。
すでにバスターは解除しいつもの制服姿だ。
「――……んっ……王子それは……」
寝言……
「起きませんね」
「……多分こいつなら大丈夫だろ。とりあえず警察にでも保護してもらおう」
「え!? 血雷見られてるんだよ」
そうか、雪里は倉宮のことそんな知らないんだっけ。
「こいつは妄言が酷くてな、しょっちゅう『ワタシには秘められた力が』とか言うし、この前は『ビックフットを見た!』とか言ってたよ」
無理矢理声色を変えて言う。
「一般生徒どころかP研の奴らも聞き流す始末だしな。そんな奴が、いまさら『アルマジロ見たー』なんて言ったって、なんとも思わないだろ」
「…………あぁ……」
思い当たるフシがあったのだろう。
「そう言うことだから、ボクらはとっとと警察呼んで、ずらかろうぜ」
「ちょっと可哀想だけど、仕方ないか……」
ボクらは近くの交番に駆け込み「女の子が倒れている」とだけ告げ、現場を後にあとにした。
そして、家に帰ってから倉宮のことを執拗に聞かれた。ボクが元彼とかでも勘違いしてるんじゃなかろうか?
確かに奴とは話が合うし、別に容姿は悪くない。寧ろ良い……背筋が凍るぜ。
もし、倉宮が男だったら、ハルカス以上のマブダチになれたんだろうな。
案の定次の日、倉宮は「ワタシは、人より大きいアルマジロを見た」と言って回っていた。
ボクは、見つかったら絡まれると察し、雪里の影に隠れて歩いた。
「おっ! そこに居るのは植木鏡君じゃないかい?」
なんで見つけて来るんだよ!?
「イヤイヤイヤイヤ……君を探していたんだよ。植木鏡!」
薄ら笑いを浮かべて寄ってきた。
「なんだよ倉宮? 挨拶でもしに来たの? 『オハヨー』はい! それじゃ……」
「まぁまぁ待てよ、ホームルームまでまだ時間あるだろ? ワタシの話を聞けって」
あれ? 雪里さん? 先に行っちゃうの?
「ワタシが昨日学校帰りに何を見たと思う?」
一層ニヤつきながら予想通りの話を切り出してきた。
「芸能人でも見たのか?」
人差し指を左右に振って「チッチッチッ」……しかも、両手で……
「ワタシと、植木鏡との仲だろ? そんなことでお前を呼び止めると思うか?」
急に顔からニヤケが取れ、一転神妙な顔になる。これも毎度のパターンだ。
「見てしまったんだよ。『人食いアルマジロ』を……」
ほらな……
「この前は『小さいおっさんが虫食ってた』って言ってなかったか?」
それから倉宮は、延々と昨日の話を続けたのだった。すぐに気絶したくせに、よくもまぁベラベラと……
何故かそこから、今週の少年ジャンプの話に持ってかれたがここでホームルーム開始のチャイムが鳴る。
遅刻じゃん!
正直、少年ジャンプの話しはもう少ししたかったが、ボクはこれ以上怒られるわけにはいかないんだ。
一番盛り上がる話題の「もうすぐ打ち切られる作品の結末予想」に差し掛かるとこだったが、話はぶった切り教室まで踏ん張りダッシュするのだった。
この分なら昨日の一件は「倉宮の妄言」で片がつくな…………
なにはともあれ良かった、良かった!
勿論遅刻が許される事はなかった。せめて雪里さん? 助け舟出してくれてもいいんじゃないかな? 窓の外を見てぼっとしてたし……犬でも迷い込んできてるの?




