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プロローグ

   1st episode『終わりが始まった!』

 

 オレの名前は、キョー。テンプレス学園に通う、花の高校二年生。

 成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗、誰もが羨むこの学園の生徒会長さ。

 今は昼休みの時間で、昼食を摂る為校舎の屋上に来ている。ここは、普段他の生徒が足を踏み入れない、オレの聖域(サンクチュアリ)

 両親は二人ともいないので、もっぱらコンビニ飯だ。弁当を作ってくれる、特別な女の子もいないしね。今日もひとりで、ランチタイム!

「腹減ったぁ」

 ぼやきながらコンビニ袋に手を突っ込み、菓子パンを取り出す。オレの好物、クイニーアマンだ。

 袋を開け一口目を頂こうとした時、下階から愛すべき我が校の生徒の声が、聞こえてきた。

 何事か? と、屋上から校庭を見やる。

 そこには特別、変わったことはなかった。「空耳かな?」と思い、クイニーアマンの続きに戻ろうとした時、校舎の一階が爆発した。

 愛すべき我が学園の校舎は、英語のTの字になっていて、オレが今いるのはT字で言うの縦部の一番下の辺り。そして、爆発したのはT字の横棒の右の部分だ。

 爆発のせいか、校庭には生徒が数人倒れていた。

 爆発したのは昇降口だ。爆発するものなんてあるはずがないのになぜ?

 固まってそこを凝視してると、爆発に巻き込まれなかった生徒が、校庭に走って出てきた。昇降口だった方を、しきりに確認しながら、何かに怯えている風だ。

「何だ、あれは!?」

 逃げ惑う生徒を追うように、黒い塊が爆発跡から姿を現した。

「結構でかいぞ」

 逃げている生徒達よりもはるかに大きかった。騒ぎを聞きつけたのか、愛すべき我が校の教師達がやってきたが、その黒い塊を見た瞬間、生徒達の様に逃げ惑っていた。

 竹刀を持った教師が現れた! しかし、一瞬のうちにやられてしまった。


 ――オレは、駆け出していた。


 落ちるかの如く階段を駆け下りていき、廊下を疾風(しっぷう)の如く疾走した。

 窓から見える校庭では、次々と逃げ惑う生徒と、教師を殺していく黒い塊の姿があった。校庭は鮮血により赤く染まりつつある。

 オレはこの学園の生徒会長だぞ! 生徒が! 教師が! 愛すべき我が校の人々が! 奴に殺されるのを、黙って見てられるか!!

 走力が増す。

 黒い塊の許へたどり着いたが、オレの息はすでに上がっていた。あんなに全力疾走したのは、久しぶりだ。

「……こいつは、でかい」

 そんな単純な感想しか出てこなかった。所謂スライムのような感じだ。明度の違う黒が、体内を流動していた。中には人間の肌のようなものも浮かんでいるのだった。 

 足元には、教師が持っていた竹刀が転がっていた。

 剣道は心得がある。実戦でどれほど役に立つかわわからないが……そっと拾い上げ、竹刀を構える。

 謎の黒いスライムを目の前にして、オレは割と冷静だった。怒りが頂点に達し、恐怖はなくなっているのだろう。

 そんなオレの姿を見たソイツは、ぐちゃぁっと、巨体の中心部が横に裂け、笑ったように思えた。

 次の瞬間、スライム上の巨体が歪に動き始める。

 伸びたり縮んだりを繰り返す。オレは竹刀を強く握り、見守るしかなかった。

 数秒後ただのスライムだったソイツは、人の形に変わっていた。三メートル超の筋骨隆々の巨人。全身に稲妻のような模様が走っていて、その下にはスライムの時の様に、明度の違う黒が流動している。

 手には、金棒のようなものを握っていて、スライムから鬼に変身を遂げた感じだ。

 オレが、混乱しているのを察したのか、金棒を振り回す鬼。

 巨体に似合わず速い! ズルいだろ! 常識的に考えて! こんなでかい奴が、すばやく動くなんて!!

 間一髪、回避に成功。流石にヒヤッと、した。

 地を這い鬼から距離を取る。でかいからリーチも長い。何よりどう考えても、オレは一撃耐えられるかどうかわからない。

 あちらさんもオレに一撃当てればどうにかなると思っているのか、攻撃の手を緩めちゃくれない。


 しばらく鬼とイチャついていると、振り回す棍棒のスピードに慣れ始めてきた。右から来るぞ! 狙いは足元か? ギリギリのところで跳んッ! 

「がっ!?」

 オレは、着地する事なく、ガラスを突き破りながら校舎内にぶち込まれてしまった。

「クソが!」

 金棒の攻撃は囮だったみたいだ。金棒に意識を集めておいて本命の攻撃を当てるってか? 脳筋みたいな成りして、意外に頭使ってんな。空中じゃあ、回避なんか取れないっての!

「ゲホッ!」

 意識はあるが、体中が悲鳴を上げている。左腕は動かなかった……

 あんなに素早く動いていたくせに、こっちに移動してくるのはやけにゆっくりだな。

「ナメやがって」

 あぁ、でも、オレこのまま死ぬのかな?

 鬼の体の中に生徒の顔がチラリと見えた。

 くそ、クソッ! 糞ッッ!!

 オレはこの学園の生徒会長だぞ! 学園を守る責任があるんだ! こんなところで、殺されたら駄目なんだ……

 泣いたのなんて何年ぶりだよ。なんでもいいからオレに力を……


『私の声が、聞こえますか?』


 聞きなれない声がした。クラスの女子や、女教師のものではない。どこか、幼さのある感じだ。

 周りを見るもあるのは瓦礫のみ。


『あなたは、あの怪物を倒したいのですか?』


 当たり前だろ! オレの愛する学園を、めちゃくちゃにされてんだ!


『なら、力を貸しましょう』


 口に出していないのに、返答があった。


『私の声のする方へ、来てください』


 訳が分からなかったが、オレは声の言う通りにすることにした。

 オレの望み通り「力を貸してくれる」と、言っているんだ、悪い奴ではないだろう。残った力を振り絞り、声のする方へ進んでいく。

 鬼もついて来ているんだろうが、気にしてはいられない。今出せる最高速で目的地へ進む。


『そこの扉を開けて』


『階段を降りたら右に』


『突き当りは左』


『その廊下の、五つ目の扉に入って』


『そこに、私がいるわ』


 指示通り進んでいく…………こんな場所がこの学園にあったなんて知らなかった。怪我人をここまで歩かせたんだ「何にもありませんでしたー」では、ただじゃ済まさないぞ。

 指定された扉を開く。

 隙間から煙が漏れ出してきた。中は薄暗く、状況がよくわからない。

 あまり広くはないな。教室の半分くらいのスペースだ。中央には石像のようなものが、置いてあった。

「やっと来てくれましたね」

 誘導してくれた声は、目の前の石像から声が聞こえていた。その石像は、悪魔のようなものがモチーフのものだった。

「この石像が、しゃべっているんだよな?」

「そうです」

 ますますわけが、わかなくなってきた。

「なんで、しゃべっているんだ? ってか、ここは何だ? 」

 部屋が揺れる、どうやら鬼が近くまで来ているようだ。

「ゆっくり話している時間はなさそうです。とにかく、今は私の言う通りにして!」

「……わかったよ! 力を貸してくれるって言ってたけど、何をどうするんだ?」

「私の前に立って。目の前に、手の形をした溝があるのが分かる?」

 確かに手の形をした溝があった。

 右手をそこに押し当ててみる。特にそうしろと、言われたわけではないが、自然に手が動いていた。

 数センチ沈み込む。すると、石像が震えだす。

「な、なんだ?」

 離れようとしたのだが、右手は離れなかった。ピタっと、石像に吸い付いたまま。

「おいおいおい!」

 背後から、爆音が聞こえてきた。首だけを動かし、背後を確認するとそこには鬼が立っていた。

 手は未だに石像から離れない、し……ん?

 石像は姿を消していた。そして、オレは一振りの剣を握っていた。

 鍔の部分がコウモリの羽のようになっているロングソード。コウモリの羽じゃないな石像の悪魔が生やしていた羽だ。

「危ない! しゃがんで!」

 言われるのとほぼ同時に、しゃがむ。

「そのまま剣を一回転させて!」

 時計回りで剣を振る。ズタボロの体であったが、軽々と剣を振ることができた。

 鬼の脛に斬撃が走る。黒い体液を撒きながら、後ろへ倒れていった。

「すごい、切れ味だ」

 初めて鬼に、ダメージを与えることができた。

「油断しないで、まだ倒していないわ」

「あぁ」

 はじめから、この声の主とは知り合いだったかのように、息が合っている。

 オレに語りかけてくるのは、手にした剣だった。

「頭を撥ねないとトドメを刺せないから、注意してね」

 脛を着られ、もがく鬼の頭の近くにオレは立ち、剣を振り上げる。鬼は涙目で何事かを訴えてきたが、気にはしない。

 大方「止めてくれ」とか、そんなところだろう。絶対に止めない。こいつは生徒や、教師がそうやって懇願しても殺したろうよ……

 胴と首を、スパッと切り分けると、鬼は融解していった。


 オレは壊れた建物の中立ち尽くしていた。

「…………ッ! アーーーー!」

 今になって左腕に、電撃が走ったように痛みが襲ってきた。足も震え、その場に倒れてしまった。

 怒りや、意味不明な状況がせき止めていた感情が、今になって決壊したように溢れだした。

「大丈夫? 応急措置だけど治してあげるね」

 それは先程まで聞こえていた幼声。今までは耳に直接聞こえていたり、石像だったり、ロングソードだったが、今はすぐそばに人の気配がする。

「はい、これでオッケー」

 左腕の痛みは消えていた。まだ自由に動かすことは難しいが、何とかなりそうだ。

 治してもらった左腕で涙を拭い、その人物を探す。

「き、君が治してくれたのかい?」

「うん、そうだよ」

 そこには、中学生くらいの少女が立っていた。全身黒尽くめで、小麦色の肌をした少女。

 全身真っ黒だ!

「……君は何者なんだ?」

「私の名前は、ガァ子。さっきの石像に封印されていたの。そして、君がさっきまで振っていた剣♪」

 ハハッ! もう、ここ30分位で、意味のわからないことが山のように起きた。これはもう笑うしかない。

「もう笑ってないでよ。君の名前は?」

「あぁ……腹イテー。スマン、スマン、オレの名前は、キョーだ」

 ガァ子に手を引かれ、立ち上がる。

「そうか、キョーちゃんね。分かった。細かい話は本部に行ってからしましょう」

「本部?」

「そう、私の所属している『バランスキーパー』の本部」

「何じゃそりゃ?」

「今はわからなくて良いよぅ。その話をしに行くんだから」

「そうか。……まぁ、いいや。すまねぇが、肩貸してくれないか?」

「いいですよ」

 オレ達は、えっちらおっちら、そのバランスキーパーとやらの、本部へ向かっていくのだった。


 オレは、この石像だったロングソード少女”ガァ子”と出会い、人の道を外れていくことになるなんてこの時は思ってもみなかった――――――――


 瓦礫の中をゆっくり進む。

 その最中、ボクの背中を誰かがつつく。

 この場にボクらしかいないんだ、そんなはずはない。名前も呼ばれた気がした。シカトだ、シカト!

 怪我のせいか、意識がはっきりとしないし答えないで黙っていよう……


「いつまで夢見てるつもりだっ起きろ! 植木(きょう)!」

 頭を板状の何かでどつかれ、ボクは文字通り飛び起きた。

 視界が定まらず、キョロキョロしていると、クラスメイトの視線がボクに集まっていた。それは、尊敬だったり、憧れへ向ける視線ではない、完全に”蔑み”の視線だ。

 ここは、ボクの通う高校の教室だった。

「お前、俺の授業で居眠りこいているとは、いい度胸だな」

「いっ……いやだなぁ」


 ボクは思うんだ、非現実ファンタジーへの案内人は、常に女の子なんだと……ボクの前にも、いつか現れて、大いなる冒険と、数多の戦いの日々が訪れるんだと……

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