理想への恐怖と無感情な負け犬
俺と言う生き物は、天や地上では一般的に負け犬と呼ばれているそうだ。
負け犬とあるのに、どこを探してもそれとは逆の勝ち犬はない。
それはきっと、人間が一番誇らしく、強いと言いたいからだろう。
自分達が頂点。だから薄汚い犬を卑下する。
俺はそんな人間が嫌いだから、大好きなあの子を人間とは認めない。
あんな奴らと一緒に出来るほど、あの子は汚れていないのだ。
誰よりも可憐で、誰よりも儚い。なのに、絶対に壊れない意志の強さを垣間見せる。
それが俺の助けたい人。例えるなら、世界一美しい蝶の羽を持つ、邪なる者の手で天から堕とされた悲しき天使。
けれど、冗談を飛ばした甘い言葉で、彼女を暗い天から汚れなき空に連れ出した邪なる者は……
きっと俺だろう。
負け犬な俺でも、恋と言う名の魔砲を放てば天を壊せるのだから。
……認識出来ない天が怖くて、ほんの少しの間でも、あの子の傷を癒したかった。ただそれだけで彼女を堕とした。
……だから俺は、自分に新たなレッテルを貼る事にする。
血だらけでそこらを這いずり回る、人間嫌いの負け犬で、
不幸に飢えた醜い英雄(バケモノ)で、
胸に響く弾を撃つ孤独な魔砲使いで……
大好きな人には忠実な、住む世界の壁すらぶち壊す使い魔。
それが俺と言う事にしてやろう。
不名誉揃いのまま、人間共の期待通りに、ただ無心に人生を振り返りながらボロ雑巾みたく死んでやりたい。その一心で。
……と言うのは嘘で、大好きな人の事だけを想って死んだと言う事実を隠したいから。
だからあの子以外の全てに刃向かうのだ。
そして今夜もまた、届かない様な高い所にいるあの子を連れ出したくて吠える俺がいる。
それは俺からすればとても無関心で、本当は怖くて……
__案外、とっても名誉な話だ。




