剣と銃と英雄の話
勇者……綺麗事で人間を堕落させる最大の悪人。
良い人扱いされるために必要な要素が欠けていた。
そもそも俺は、人間として認められるほどの力や心を持っていなかった。
人間として認められていないから、剣は抜けなかった。
剣を抜けなければ最低だと疎まれ、人外のレッテルを貼られて生きる事になる。
それでも、俺は人間に、勇者にはなりたくなかった。
無関心な人間を、救うつもりにはなれないから。
どうでもいい1人の人間を助けて勇者になるよりも、どうでもいい数十人の人間を傷つけて英雄になる方が良い。
だから勇者になる道を捨てて、英雄(バケモノ)になる道を選んだ。
薄汚れた奴らを傷つける事が楽しいと思った。正確に言えば、今までやられた分の八つ当たりが、とても楽しいと感じた。
いつからか魔法が使えなくなった。
語る名は『魔法使い』から『魔砲使い』へと変わったけど、それでも良かった。
どうでもよくないあの子を救えたから、英雄になれて本当に良かったと思えるのだ。
例え独りでも、大切な1人のためになりたい。
だから『皆は1人のために、1人は皆のために』なんて、人間の考えた余計な言葉は蜂の巣にしてやる。
勇者じゃ救えない彼女を救いたい俺が、勇者である必要はない。
負を切り伏せる勇者の剣が抜けないのなら、俺は当たり前を壊す銃を構えるまでだ。
ワンフォーオール、オールフォーワン?そんな当たり前は認めない。
独りの英雄は1人の少女のために。
ただそれだけでいいんだから。




