「魔力」で「四肢切断」は治るか? その2
前話から主題を引き続いてお送りいたします、『「魔力」で「四肢切断」は治るか? その2』になります。
こちらでは前話の内容を踏まえつつ、そちらで書かなかったことを補完してまいります。フローライトの意見に妥当性があるのかどうか、どうぞお付き合いくださいませ。
また、この話では医学などの専門分野が出てまいりますが、私はそれらに関してはほぼ素人です。趣味でいろいろあさってはいますが、師について学んだわけでもなければそれ専門の過程を修了した・修了する予定でもありません。以下に述べる見地につきましては完全に私が聞きかじった半端な知識と私個人の想像にのみよるものであるということをどうぞご理解くださいませ。
さて。では、本題に参りましょう。
前話では、まず「魔力」で「四肢切断」が治せるのは治癒魔法かポーションなどの回復薬だろうと仮定し、ポーションはひとまず脇に置いて治癒魔法についてさらに二つのタイプに分けました。すなわち、
①治癒魔法で対象の自然治癒力を高める場合
そして、
②魔法によって創自体をなかったことにする場合
の、二つのタイプです。
さらに、①では人間に失った部位を生やすような機能がないこと、またヘイフリック限界による細胞老化、さらに無理に細胞分裂を促進すれば細胞のガン化を引き起こすだろうと推測し、こちらの理屈では四肢切断は治癒不可能と結論。
また、②では四肢切断は治癒可能だが、魔法によって創自体をなかったことにするとはすなわち時の巻き戻し、疑似的な不老不死の魔法ではないだろうかと指摘、問題提起をさせていただきました。
ここでまず前回わきに置いたポーションについてなのですが、これもまた前述①、②のどちらかに含まれる回復手段であるので、ポーションにつきましても前話の結論にならう、ということにさせていただきます。
で、ですが。
……実は前回では説明しなかったのですが、①のタイプの治癒魔法でも、四肢切断を再生することができる裏技のような設定、抜け道が二つほどございます。ここではその片方を説明いたします。
ただ、これにつきましては私自身、「本当にできるのか?」と首をかしげています。理屈上は可能なのですが、ファンタジーのご都合主義を使用すれば十分可能ではあるのですが、私自身、詳細に説明できない部分がございますので、前回は説明いたしませんでした。しかし感想でご指摘をいただいたこともございますので、拙いながらもここで説明させていただきます。お付き合いくださいませ。
自然治癒力を喚起させて創を治癒する治癒魔法。普通なら切り落とされた創がふさがることはあっても、切り落とされた腕や足などの部位が再生することはあり得ません。
ですが、ファンタジー的な要素、条件を二つほど加えることにより、失われた四肢の再生は可能になります。
その二つの要素とは、「対象の正常状態の身体の設計図が存在する」ことと「治癒魔法がガン化した細胞を正常細胞に変異させられるものである」ことです。
ここまで言えばぴんときた方もいらっしゃるかもしれません。そう、自然治癒力を向上させる治癒魔法でも四肢欠損を再生できる抜け道の一つ目は、細胞をわざとガン化させることです。
ここで改めて確認。前話で四肢切断が治癒不可能だとしたのは、そもそも人間に失った部位を再生させる機能がない、というのが大きな理由です。それは自然治癒力を高めるタイプの治癒魔法の場合、創で起こっているのは人間本来の治癒活動を高速化しただけのものであり、すなわち人間に本来備わっていない四肢再生は不可能である、と結論されたからです。
また、細胞分裂を促進させる治癒魔法である以上、いずれはヘイフリック限界――細胞分裂の限界数に阻まれ治癒魔法自体が対象への効力を失うかもしれない、ということも言及いたしました。私は一つの細胞が何回分裂可能なのか、詳しい数までは知らないのですが、それでも腕や足を新しく作り出すだけ分裂するのは不可能だと判断したのです。
それに、もし細胞が新たな四肢を作れるだけ分裂したとしてもそれがきっちり四肢の形を成すかと言えば、はなはだ疑問でしたし。……あまり想像したくないのですが、単なる肉塊、みたいなまとまりのないものになるのではないかと思います。人の身体構造を完全に復元できる設計図は存在しないはずですから。
しかし、設計図がもし存在するとしたら。
たとえば、一番簡単な説明は「魂に刻印されている」云々のものでしょう。対象の正常な状態――ここでは四肢を失う前の身体を指します――を記憶していて、それを治癒魔法によって引きだし、対象にフィードバック。さらに細胞分裂を無理やり促進することによってわざとガン化を引き起こし、がん細胞をその設計図に沿う形に増殖。設計図通りにがん細胞が展開した時点でがん細胞を正常細胞に変異させる。これなら「自然治癒力を高める治癒魔法」で四肢切断が再生します。
細胞をわざとガン化させることでどうして少し前に確認した問題点をすべて解決できるのかというと、これにつきます。
がん細胞にはヘイフリック限界が存在しないから。です。
ヘイフリック限界はテロメアという構造が細胞分裂のたびに短くなることで引き起こされ、このテロメアを伸長させる酵素としてテロメラーゼというものがあるということは前話で紹介いたしました。人間の細胞ではほぼ不活性を示すテロメラーゼですが、がん細胞ではせっせと仕事をしています。これががんの怖いところ。つまり、がん細胞は事実上、無限に増殖するのです。
ただ一つ問題があるとすれば、それだけのがん細胞を作り出す栄養をどこから持ってきたことにするのか、ですが……。対象の体内のものを使ったとするのはさすがに無理がありますから、まあ、周りにあるものをもらったとか、魔力で補完したとか、そのあたりの説明が無難でしょうが……。
とにもかくにも、この説明でしたら「自然治癒力を向上させる」治癒魔法でも四肢欠損は再生可能になります。これが抜け道その一です。
抜け道その二に関しましては、「魔力」とは何か? という説明に深く関係してまいりますので、ここでは説明いたしませぬ。また次回を楽しみにお待ちくださいませ。……やれやれ、『「魔力」で「四肢欠損」は治るか?』はその4まで行きそうですね……。がんばります。
さて、前話の繰り返しが多くなってしまった説明ですが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
この話に対しての意見・反論・批評などは随時受け付けております。「ここちょっと変」や、「いやいやこうなんじゃないの?」などのご指摘がございましたらぜひぜひ教えてくださいませ。
また、それらのご指摘は感想をくださった方の承諾なく本編に追加させていただく場合がございます。ネタとして使用されたくない場合はその旨お教えくださいますようお願い申し上げます。
それでは、また。