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キオウへの疑問◇ダウンする

「い…インパス……」

「ありゃまぁキオウ、顔が真っ青」

 嵐が去ってすぐに島を発ったというのに、キオウの顔色は相変わらずだった。

「背筋がぞくぞくする…」

「ねぇキオウ、それ風邪じゃないの?」

「ばぁか。俺はフツーの人間とは違っ…」

 ――ばたっ

「ちょいとー、こんな所で死なないでよー。ここは俺の神聖な厨房(おしろ)なんだからねー、食材が傷んだら困るでしょーが」


 ………。


「…え? あの、ちょっと、え、うわ、ねぇ、マジですかー…?

 どどどどーしようッ? ノーマルキオウがこの手の冗談にキレないよッ? てか、反応すらしてくれないよッ!?

 レーイヴ、早く来てーッ!! キオウがヤバいよ死んじゃうよーッ!!」

 判断基準に性格が表れているインパスであった。

 一方。海図描きのアシスタント中に指名を受けたレイヴは、カイと顔を見合わせる。

「なんか…、珍しいね。キオウがあんなになっちゃうのって」

「よほどの『嫌な感じ』だったのか?」

「うーん…」

 相手は賢者だ。質の悪い時期外れの風邪をひくようなことはない。もしキオウが病気だとしたら、キオウ以前に他の誰かが感染していそうだ。そもそも、キオウは病気らしい病気をこれまでにしたことがない。

 少なくとも――出会ってからは、一度も。

「レイヴーッ! どどどどーしようぅぅぅ~ッ!?」

「はいはい、どうどう」

 厨房ではまたもやチビ化したキオウを抱えたインパスが、この世の終わりかトランスしたイタコかとばかりの奇妙なテンションで錯乱していた。

 イタコなインパスをレイヴは「どうどう」とテキトーにあしらい、肝心のチビキオウを運び出す。…インパスの妙なテンションはいつものことなので、もはや心配する対象にすら入っていない。

 キオウの自室のドアを開け、そ…っとベッドに寝かせる。

「……うー…ん…」

「一体さぁ、何の病気しちゃったんだよ、お前」

 閉まったままの窓を開けつつ、レイヴはやれやれと苦笑した。部屋を駆ける新鮮な風。

 日光が当たる机の上では、まーくんが相変わらずの「の~ん」とした表情でゆらゆらしている。どうやら光合成(おしょくじ)の最中らしい。

「…病気じゃねぇよ」

 低く弱くかすれた声に振り返るレイヴ。

 元の姿に戻ったキオウが左腕を額に押し付け、光を遮断するようにギュッと強く目を閉じている。めまいがするのだろうか。顔色が悪い。

「じゃあ、なに? てかお前、理由はわかってるの?」

「………ああ」

「なら、一体どうすれば治――」

「お前じゃ、ムリ」

 キオウ導師、完全不機嫌モードに突入。

 レイヴはやれやれと肩を落として苦笑する。

「じゃあ誰ならいいのさ? 医者? まじない師? 神官? お坊さん? 神父サマ? いっそのこと、カドリエの大司教サマとか?」

「…」

「カイに頼んでクティに行く? お前のお師匠サマ、クティのどっかにいるんでしょ?」

「……」

「それか、薬?」

「………」

 キオウは無視を決め込んだようだ。

 レイヴはため息をつき、ドアノブに手を掛ける。

「…なら、お粥か何かをインパスに作ってもらうよ。何はともあれ、食べなきゃね。お前もそう思って厨房に行ったんだろ?

 この優しいレイヴさんが持ってくるから、安静にしていてちょうだいな」

 ――…ぱたん…

 途端、静寂が訪れた室内。船の軋みくらいは聞こえるが、そんなものは聞き慣れている。

 キオウは天井をじっと見つめた。

 …こんなに不愉快な感覚は久しぶりだ。

「………。やめた」

 体調の回復を魔法で促そうとしたが…、ダルいし気持ち悪いし面倒だしとすぐに諦めた。

 どーしよう…?

 あと少しショウカから離れれば、内因外因共に影響が薄れて回復はするだろう。が…その前に、仲間に影響が出ないとも限らない。船に張り巡らせている自分の結界が弱まっているのだから。

 だが、どーしよう…。

 皆には言えない。言えるはずがない。

 言えば、絶対に怯える。

「この船になんか嫌〜なモンが入り込んだらしい――、なんてな」

 ならば…、やはり自分が何とかするしかないか…。

 キオウは独特の呼吸法で精神を整え――…、静かに目を閉じた。


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