真剣なんです◇細工は流流
第一段階、両者と接触する。
第二段階、どちらかを仲間に引き込む。
アグナルとウィズジーとの接触を終え、ウィズジーとは完全に手を組んだ。よって、作戦は第三段階目に移行する。
第三段階の作戦ネーム『幽霊騒動大作戦』。――名付けたのはもちろん賢者サマだ。
アゼルスとインパスに、城内の怪談を訊ねてみると…。
「そういえば昔、執事長からこんな話を聞いたなぁ。確か――」
「それから、こんな話も――」
曰わく。
――封鎖された地下牢へ続く階段の前を深夜に通ると、苦しげな子供の泣き声がする。
――月が雲に隠れる夜。東の塔を西の塔から見ると、最上階から飛び降りる姫の幽霊が出る。
――中庭の道をある手順で歩くと、気がつけば別の場所に移動している。
などなど。
ちなみに、これらの事実確認は賢者によって検証済みである。
「地下から聞こえる声の正体は、狂った臣下に地下牢に繋がれて凍死した8代前の王子サマ。
飛び降りる姫だけど、政略結婚が嫌だったんだってさ。
んで。中庭の奇談はー…、あの元同僚の守護霊サンが、生前の宮廷魔術師長時代に作った緊急用脱出路だな。ぶっ壊れているけど」
どれほど恐ろしい怪談や都市伝説であっても、その中身にはその人の物語があったり、きちんとした原因があったりするのである。
しかし、それらを知らない人間は恐怖する。興味本位であえて近づく者もいるだろうが、それでも真の恐怖を知れば魂が震え上がるものだ。
そして――、もしもこの恐怖と不可解な現象が城内外で一気に発生したら…?
城と国を守るべき宮廷魔術師の力量は問われ、うまくすればあの女を追い出せる。
「ショウカの外に追い出せば、俺は思う存分あの女を料理できる!」
「怖い…、嬉々と輝く笑顔が怖い…」
「キオウ。私はお前を信じているよ。だから、あえて、何も言わないよ」
「…。う、うん」
「あ、急にキオウさんがしおらしくなったー」
「今のがダンナ流の説教か…」
「さすがはアゼルス様っ! ご子息との深い深い絆があるからこその――」
「はいはいインパスはこっちでニンジンくわえる練習しましょうねー」
「てか、俺はお前が魔女をフルボッコすんのは構わねーけどよ。天災的な師匠からはケチつけられねーのか?」
「師匠は静観の構えだ。俺の《運命》に関わる《分岐路》だから、殺生しなけりゃ文句は言われないはず」
もしも女がショウカ追放に至らなかったとしても「女こそが全ての元凶では?」と人々に疑念を抱かせられるかもしれない。
そうすれば、あとは簡単だ。
「“すすり泣く地下牢”と“東の塔の姫君”も協力してくれるってさ。成仏させるのが条件で」
「わお」
「そこらでたむろしている魑魅魍魎の皆さんも、面白そうだからって手伝ってくれるみたいだ」
「そ、そこらでたむろしているんだー…」
城の外でも幽霊騒動を起こすことになっているが、そちらはウィズジーの守護霊が全面協力してくれる。キオウはこちらに集中できる。
「そういうワケだから、頼むよ皆」
薄曇りの夜。この場合キオウが言う「皆」とは、ジークとカイとアゼルスを抜いたメンバーである。
全員、お化け屋敷のアルバイターのような出で立ちであった。
「さて、魔法陣を描く前に確認な。お前ら、忘れ物はねぇだろうな? 俺はそう頻回には行ったり来たりできねぇからな、忘れ物があったからって喚んでも無視するぞ」
「オッケーで~す」
「包丁もまーくんも持ったしね」
「ほらほら、ツルハシ。自前だよ」
「ボクはよ〜いしゅ〜と〜だも〜ん」
上のデッキからこの様子を見ているアゼルスは、あと一押し何かが起きれば吹き出す寸前だ。参加を辞退してアゼルスの隣にいるジークは呆れ顔。カイは普段どおりに冷静には見えるが、少し口元がヒクヒクしている。
キオウは虚空から杖を取り出し、光輝く魔法陣を描いていく。吹き始める緑色の風。
参加者全員がそれに飛び込み――。
一瞬で空間を越えた。
「…なんつーか、緊張感ねぇよな」
ミもフタもないことをぼそりと呟くジーク。
「じゃ、俺も行ってくるか」
「キオウや…、お前楽しんでいるだろう? 目が綺麗な弓になっているよ」
「――だ、だってさぁ…!」
ついにこらえきれなくなった賢者。空中で太ももをパシパシと叩きながらゲラゲラと笑い転げた。
「キーシはのっぺらぼうだし、ラティは翼を黒く塗って仮装してるし、まーくんはラティが使った黒い絵の具で縦縞描かれているし、レイヴは意味不明にピエロの格好でツルハシ装備してるんだぜ!?」
そして、極めつけは。
「包丁とニンジンを持って女装したインパス…! 異様なほど似合っていたよなぁ!? なぁ!?」
「アレは口裂け女のつもりだろー…。口裂け女の撃退アイテムといえばべっこう飴だったっけ?
――…まさか、お前…?」
「ほれ、このとーり」
懐から蜜色のそれを取り出して「ほれほれ」と得意げに振ってみせるキオウ。だが、驚かす側のキオウがべっこう飴を装備してどんな意味があるというのか。
昼間に厨房でべっこう飴を作る息子を目撃していたアゼルス閣下、ついに己を忘れて腹を抱えての大爆笑。つられて、いつものポーカーフェイスを崩しかけたカイ。
ジークは偏頭痛にこめかみを押さえた。
「父上、笑い過ぎー」
「ご…っ、ごめ…っ!」
――止まらない。
キオウはニヤッと笑って手を叩いた。
賢者を中心に出現する、緑の光の魔法陣。
「そんじゃ、行ってきまーす」




