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賢者サマのおふね◇キオウのこと  作者: 神代きい


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35/54

本当はいい国◇密会

「…おや、来たな」

 灯かりが点された室内。笑いを含んだ叔父の声に失笑するアゼルス。

「お久しぶりです、叔父上。

 ――我が息子が世話になったようですね」

「私がキオウの存在を知っていたとは思わなんだろう?」

「驚きましたね」

 後ろを振り返るアゼルス。

 キオウは宙であぐらを組み、拗ねた幼子のように口を尖らせている。

「さすがは叔父上、守護霊殿まで一流とは」

「お前も父親思いのいい息子を持ったな」

「今、守護霊殿は?」

「ああ、ここにおるのだが…」

「キオウ、手を貸しておくれ」

「…はいはーい」

 途端、アゼルスにもその姿が視えるようになった。彼女はウィズジーの隣で穏やかに微笑み、やわらかな物腰でゆっくりと頭を下げる。

 驚きの声を漏らすアゼルス。

「おや、これは…。そのお顔立ち、王家の者とお見受けしたが…」

『さようでございます、閣下』

「アゼルス。彼女はな、君の母方の血筋にあたるそうだ」

『肉体が滅びた身ゆえ、名を名乗ることは許されぬ行為。どうか…』

「息子からも聞いております。承知しました」

 守護霊は微笑んで再び頭を下げた。

 客にソファをすすめ、ウィズジーはゆっくりと手を組む。

「さて…。最初に訊きたいことは、あの女のことかな?」

「よもや叔父上が、とは疑ってはおりましたが。民を巻き込まない戦も叔父上らしい」

「誉めておるのか」

 互いに失笑する両者。

「まぁな。私はあの女の顔をまともに見たこともないわ。当初は私と接触しようとしておったようだが…、この彼女の守りは自然体でありながら堅牢でな。あの女は反発する磁石のように私には近づけぬ。代わりに、当方の将軍をそそのかしておる」

「なるほど。

 ――…キオウ、どうした?」

 アゼルスは隣で黙ったままの我が子に目を向けた。深くソファに身を沈めて両腕を組んでいるキオウは、神妙な表情で半透明の彼女を凝視している。

 もう一度名を呼ばれ、ようやく弾かれるように父を見るキオウ。

「どうした?」

「いや…、ん……。

 ――…ちょっと席を外してもいい? そこにいる元同僚さんと、ふたりで話がしたい」

「構わないよ。行っておいで」

 キオウは父に軽く笑み、視線を前に向ける。

 大甥の無言の問いに、ウィズジーもまた優しく目をなごませ、頷く。

「この城は彼女の守りに包まれておる。君が席を外しても、父君に危険が降りかかる危険はない」

「……ん…」

『では…、あの塔の上に行きましょうか? あそこからならば、この部屋の様子がよく見えますからね』

 やわらかな声の提案に、キオウは感謝とともに頷いて応える。

 そして、一瞬で姿を消す両者。

 息子が座っていた場所を優しく見るアゼルスに、ウィズジーもまたあたたかな眼差しを向ける。

「よい子だな…。お前を羨ましく思う」

「――…ずっとあの子と共にいられるのならば、それはどんなに素晴らしいか…」

 我が子のぬくもりが残るソファを撫で…、アゼルスはどこか悲しげに笑う。

「…だが、私はあの子を城に入れるなど絶対にしたくない。

 ――たとえあの子自身が望んだとしても」

「…いいのか?」

 ウィズジーが甥に向けたのは、痛ましいものを見るかのような眼差し。

 アゼルスは静かに目を伏せた。


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