本当はいい国◇密会
「…おや、来たな」
灯かりが点された室内。笑いを含んだ叔父の声に失笑するアゼルス。
「お久しぶりです、叔父上。
――我が息子が世話になったようですね」
「私がキオウの存在を知っていたとは思わなんだろう?」
「驚きましたね」
後ろを振り返るアゼルス。
キオウは宙であぐらを組み、拗ねた幼子のように口を尖らせている。
「さすがは叔父上、守護霊殿まで一流とは」
「お前も父親思いのいい息子を持ったな」
「今、守護霊殿は?」
「ああ、ここにおるのだが…」
「キオウ、手を貸しておくれ」
「…はいはーい」
途端、アゼルスにもその姿が視えるようになった。彼女はウィズジーの隣で穏やかに微笑み、やわらかな物腰でゆっくりと頭を下げる。
驚きの声を漏らすアゼルス。
「おや、これは…。そのお顔立ち、王家の者とお見受けしたが…」
『さようでございます、閣下』
「アゼルス。彼女はな、君の母方の血筋にあたるそうだ」
『肉体が滅びた身ゆえ、名を名乗ることは許されぬ行為。どうか…』
「息子からも聞いております。承知しました」
守護霊は微笑んで再び頭を下げた。
客にソファをすすめ、ウィズジーはゆっくりと手を組む。
「さて…。最初に訊きたいことは、あの女のことかな?」
「よもや叔父上が、とは疑ってはおりましたが。民を巻き込まない戦も叔父上らしい」
「誉めておるのか」
互いに失笑する両者。
「まぁな。私はあの女の顔をまともに見たこともないわ。当初は私と接触しようとしておったようだが…、この彼女の守りは自然体でありながら堅牢でな。あの女は反発する磁石のように私には近づけぬ。代わりに、当方の将軍をそそのかしておる」
「なるほど。
――…キオウ、どうした?」
アゼルスは隣で黙ったままの我が子に目を向けた。深くソファに身を沈めて両腕を組んでいるキオウは、神妙な表情で半透明の彼女を凝視している。
もう一度名を呼ばれ、ようやく弾かれるように父を見るキオウ。
「どうした?」
「いや…、ん……。
――…ちょっと席を外してもいい? そこにいる元同僚さんと、ふたりで話がしたい」
「構わないよ。行っておいで」
キオウは父に軽く笑み、視線を前に向ける。
大甥の無言の問いに、ウィズジーもまた優しく目をなごませ、頷く。
「この城は彼女の守りに包まれておる。君が席を外しても、父君に危険が降りかかる危険はない」
「……ん…」
『では…、あの塔の上に行きましょうか? あそこからならば、この部屋の様子がよく見えますからね』
やわらかな声の提案に、キオウは感謝とともに頷いて応える。
そして、一瞬で姿を消す両者。
息子が座っていた場所を優しく見るアゼルスに、ウィズジーもまたあたたかな眼差しを向ける。
「よい子だな…。お前を羨ましく思う」
「――…ずっとあの子と共にいられるのならば、それはどんなに素晴らしいか…」
我が子のぬくもりが残るソファを撫で…、アゼルスはどこか悲しげに笑う。
「…だが、私はあの子を城に入れるなど絶対にしたくない。
――たとえあの子自身が望んだとしても」
「…いいのか?」
ウィズジーが甥に向けたのは、痛ましいものを見るかのような眼差し。
アゼルスは静かに目を伏せた。




