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賢者サマのおふね◇キオウのこと  作者: 神代きい


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記憶の中にいる人◇開錠

 アゼルスは目を覚ました。

 これまでずっと頭の中を覆っていた霧が、突然現れた強風によって全て払われたのだ。

 そして――――…。



『陛下ーぁ。あの子、邪魔なの。消してくださりません?』


『あ…ああ…――キオウッ!? だ…駄目だッ、死ぬんじゃない…ッ! 死なないでくれッ! キオウ…!!』


『――…旦那様…。若様には…もう…、生きることを強いることは…――酷では、と…』

『…。お前は…あの子を……見殺しにしろ、と言うのか?』

『旦那様…ですが』

『…そうだろうッ!? お前は私にあの子を――息があるあの子を死なせろ、と言うのだろう…ッ!!』


『――…キオウ…、私はな、嬉しいんだ。お前がいてくれることが…、お前が今生きていることが…。

 だから――…なぁキオウ、生きよう? キオウ…、私の大切な坊や…』


『――え? ロクデリアだって?』

『はい、皇太子殿下の御婚礼ですよ。ピョルティス殿下は陛下のご友人でしょう?』

『…あ…ああ、そうだな』

『――御婚礼を、ご存知ありませんでしたか?』

『………。なぁ大臣、使者を立てるだけで済まないかな?』

『陛下?』

『私は今…、国を空けたくない』

『ロクデリアはショウカと友好関係を結ぶ大国、今の関係を維持しなければ――。陛下は以前このように仰いましたが…?』

『…わかっている』

『ならば、何故…?

 ――失礼ですが…、いかがなされたのですか? 最近の陛下は、その…ご様子が……』

『………。いや、なんでもないよ』


『…キオウ、ごめんな。しばらくお前に会えないんだ。本当に、ごめんな…。

 ――…キオウや、このペンダントを持っていておくれ。私も…ほら、いつも持っている。だから、ずっと一緒だから…』

『坊ちゃんのお世話は私が全責任を持って致しますゆえ、旦那様はどうかご心配なく――…どうかご無理をせずに』

『ジャフレ…、すまない。この子のこと、本当に頼む。

 ――…何故だかとても、不安なんだ…』


『……旦那様…』

『な――…ジャフレ? 何故お前が、ここに…』

『ぼ…坊ちゃんが……』

『…キオウが、どうした?』

『………』

『…ジャフレッ!! あの子がどうしたッ!?』

『…お、お屋敷から……お…お姿を……』

『…な…に……?』



「……キオウ…」

 アゼルスの双眸から――涙が、あふれた。




 キオウは甲板で夜風に当たっていた。

 ――今、あの人にかけていた記憶のカギを開けたのだ。

 重い過去の記憶を告白したキオウに、カイはこう言った。


『…いいかキオウ。お前は今、その女と同じことを父親にしているんだぞ?

 お前はこのままでいいのか? いつまでも逃げたままでいいのか?

 アゼルスを――お前が大好きな父親を苦しませたままで、いいのか?』


 そして…キオウは今、待っている。

 ――――父を。

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