記憶の中にいる人◇夕方の会話
「アゼルスさまぁ~、本ッ当に俺がわからないんですかぁ~? 俺が作ったアジのマリネは凄く美味しい、って褒めて下さったじゃないですかぁ~~」
「………すまない」
「そんなああぁぁぁ~」
――確かにキオウとこの人は似ている。レイヴとジークはそう思った。
外見上の推定年齢は40歳半ば。キオウよりも白く淡い色合いの銀髪だが、碧の目は瓜二つ。そして、顔立ちがかなり似ている。
だが、彼は青年キオウよりもずっと穏やかで優しげな雰囲気だ。
「こうして並ぶと、確かに父子に見えるんじゃねーの?」
「つまり、キオウは将来こうなるワケだね」
「そーゆーこったな」
「…何を勝手にぬかしていやがるんだよ、お前らは」
やれやれとため息をつくキオウ。
そのキオウを、ハッと振り返るインパス。
「ほら、キオウですよッ! あなたの息子のッ」
「おいコラ待てぃッ! どさくさにまぎれて、誤情報を植え付けんなッ!」
「誤情報~? またまたご冗談を。アゼルス様の記憶が戻れば、全部バレちゃうのにね~。ふふふ」
「ああ、すべてが誤解だとわかるだろうさッ!」
わめくキオウをじっと見つめた彼は、申し訳なさそうな顔を浮かべる。
「……全然思い出せなくて…」
「気にしないで。無理に思い出そうとしない方がいい」
「うっうっうっ…、お父上を心配しているんだね?」
「お前なぁ…、マジでキレるぞッ」
「インパス、そろそろやめな」
レイヴがやんわりと間に入った。
「それにお前、夕飯の支度はしないの? お客さんにも何か出さなくちゃ。お前さんの『元君主』なんでしょ?」
「あ」
自分の仕事をすっかり忘れていたらしい。
ショウカの元宮廷料理長はすぐさまドアノブをひっつかみ――、一度くるりと振り返って一礼し、猛スピードで厨房へと走っていった。
はぁ…、と重なる3人のため息。
「そんじゃ、俺は釣りに戻るか」
「あっ、俺は漁に使う網を直さなくっちゃ」
レイヴとジークはインパスとは反対に、そっとドアを開閉して退室していく。キオウはもう一度ため息をついて窓を開けた。
夕日と共にさぁ…っと入る風。穏やかな波の音。風に乗り聴こえる調子外れな縦笛の主はラティだ。この演奏ではキーシの苦情の雄叫びが轟くのも時間の問題だろう。
「もう少し休んだら? ウチの連中はうるさいからな、ちゃんと休まないと保たない」
「いい人達ばかりだよ」
「そう思えるのも、今のうち」
言って、小さく笑うキオウ。
そんなキオウを穏やかに見つめる瞳に――…ふいに宿る疑念の色。
「横になって」
…頭痛がするのだろう。
辛そうに手を額へあてる姿に、キオウは立ち上がりながらそう言った。
促されるまま横になった相手の額に手を添え、チカラを使う。ジッ…と熱くなる手のひら。
送り込むのは癒しの波動と――…。
「…ありがとう。気持ちいい」
疑いなく微笑まれ…、キオウは今しがた感じた胸の痛みを密かにしまう。
「このまま休んで」
「…そうさせてもらうね」
そ…っと閉じられる目。
それを見届け、キオウは静かにドアに向かう。
「………キオウ?」
「ん?」
振り返る。
――碧の目が、まっすぐと自分を捉えていた。
「本当に君は…、私とは他人なのかい?」
「…なんで?」
「他人とは思えない」
不安げに言われ、キオウは自分と同じ碧の目を――じっと視て、頷いた。
「…似ているとは俺も思うし、そのせいなのか親近感もある」
「…」
「――でも、違うよ」
悲しげな光が目の前の瞳に宿る。
キオウは背を向け、外に出た。




