キオウへの疑問◇また一難
インパスはますます絶好調であった。
「う〜ん…、やっぱりキオウはアゼルス様の御子なんだ〜」
「え? 本当にそーなの?」
インパスとレイヴのふたりは厨房で話し合って――否、インパスがレイヴに一方的に喋っていた。
「キオウめ、素直じゃないんだからー」
「ねぇ、本物なの?」
「間違いないッ。キオウは…、キオウは……。
はぁ〜…至福だぁぁ〜…」
「そうじゃなくて。あちらさんは本当に本物なの?」
「あちらさん、って…」
憮然としたレイヴが力強く頷く。
「当たり前でしょーがッ。俺は実際に10年以上も面識があるんだからッ」
「じゃあ」
「間違いなく、アゼルス様だよ〜ッ!!」
「でも、なんで王様が」
「元」
「なんで元王様が、こんな所を漂流してるんだよ!?」
「そんなことは知らないよー」
でも。
「キオウがあれだけ構っている。実の父君を大切に思う気持ちは当然でしょーがッ」
「…うーん?」
キオウのあの目は――、はたして本当に父親を見る目だろうか…?
第一発見者のジークと話をしている青年キオウを甲板で見つけ、レイヴは話しかけようとした。
だが。
「キオウーッ!」
インパス登場。
ダッダッダッ、と走ってきたかと思うと、ジークとキオウの間に入り込み、キオウの手を「がしいっ」とひっつかむ。
「ねぇねぇねぇっ。アゼルス様はお目覚めになられたの? ねぇねぇっ」
「………え?」
突然相手を取られたジークの無言の抗議にはまったく気づかないまま、インパスはキオウの手を上下に激しく揺さぶった。頬は熱病のごとく紅潮し、顔は始終ゆるんでいる。
肝心のキオウはというと――、何故かポカンとしていた。青年キオウのここまで素の表情はかなり珍しい。
「やだなぁトボケちゃって。このこのっ」
「あの、肘で『このこのっ』て突然やられても…」
「お前、実は王子サマでしょー?」
一瞬、時間が完全に止まった。
「………へ?」
さっぱりワケがわからない、といったキオウ。何も知らないジークもポカンとして、インパスとキオウを何度も交互に見ている。
「俺が、おーじさま…。レイヴ、何がどーなっていやがる?」
赤髪をわしわしと掻きつつやってきたレイヴに助けを求めるキオウ。
レイヴはひょいと肩をすくませ、事の次第を説明する。
「…は?」
「だからお前は、王子サマ」
「………」
「で、アゼルス様は〜? お久しぶりだから、何とお声をおかけすれば――」
「待て」
キオウがストップをかけた。
指を鳴らして喚んだ冷水をぶっかけ、インパスを黙らせる。
「俺が王子だってのは、まぁヨシとする」
「あ、認めちゃったねっ?」
「王子と呼ばれりゃ、誰だって悪い気分にはならねーからな」
「………」
「んで、何? あの人マジで王家の人間? 確かにショウカ王家の紋章が入ったペンダントを持ってはいたけど――」
「待て」
今度はレイヴがストップをかけた。
「話が全然わからないんですけど…。イチから説明し――あ、質問するから答えて」
「どーぞ」
よし…、とレイヴは深呼吸する。
「第1問、あの人は目を覚ましたの?」
「覚ましたけど、また寝ちまった」
「第2問、キオウはあの人と話はしたの?」
「したにはした」
「第3問、あの人は自分が何者なのか言ったの?」
「言ってない」
ふふふ…、と笑うインパス。
「インパスは騙されませんよーだっ。実の我が子にそんなこと言う必要ないでしょーがッ」
「イ〜ン〜パ〜ス〜ぅ? ちょこーっと黙っていてくれるかな〜ぁ?」
「レ、レイヴ…。お願いだから、俺に向かってツルハシを構えながらそんな怖いスマイルしないで…」
「第4問、どうしてこの海域を漂っていたのかは言ってた?」
「言ってない」
「えっと、他には――…って、やっぱりこれじゃあ何もわからないよ。
キオウ、一体何の話をしたの?」
いやぁ…、と何故かキオウも困惑した様子で失笑する。
「どう言えばいいんだろうなぁ…?」
そしてとりあえず、結論だけを言った。
「あの人、カンペキに記憶喪失な。キーシよりも重症」
……………は?
「「きおくそーしつ、だってッ!?」」
レイヴとインパスが同時に叫んだ。先に聞いていたジークはため息をつく。
うん、とキオウは頷いた。
「自分の名前、住んでいた場所、こうなった経緯、綺麗さっぱり一切覚えてない」
「「………」」
――…裏でこの会話を聞いていたカイは、思案顔でその場に立ち尽くしていた。
キオウが弱っていた間に思い出した、忘れていたこと。
確かにあのとき、キオウの襟には――…。




