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賢者サマのおふね◇キオウのこと  作者: 神代きい


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キオウへの疑問◇一難去って

「うわぁぁんっ、ジークがぶったーっ」

「ぶってないぶってないッ! 振り返ったらたまたまお前の頭が――」

「何しやがんだよこのヤローッ!」

「うおッ、デカキオウ! またなんちゅーモンを出しやがるんだよ〜〜ッ!?」

 キオウ、復活。

 今日も元気に7本足の巨大牡牛をジークにけしかけているキオウを眺めつつ、デッキではレイヴとカイが平和に茶を啜っている。

「う〜ん…、これだなぁ」

「そうだな」

「キオウがああじゃないと、デスティニィ号じゃないよなぁ」

「そうだな」

「やっぱり、キオウあってのデスティニィ号だなぁ」

 見張り台ではキーシとラティがおやつを食べている。

 実に平和な昼下がりであった。

 だが…、何かが違う。

「…」

 ミョーな熱視線を感じて後ろを振り返るキオウ。

 物陰からジーッと自分を観察しているインパスが見える。

「イ、インパス…?」

 声をかけると、すぅ…っと引っ込む料理人。

 キオウは背筋が寒くなった。

「カイ、一体アレは何?」

 キオウを哀れみつつも、謎の行動をするインパスには興味津々なレイヴ。カイがインパスの勘違いを大まかに伝えると、傍観者レイヴは笑いながら視線を再びキオウへと戻した。

「キオウ〜、これ食べる〜ぅ?」

 再登場したインパスは、ジャムやクリームや色とりどりのフルーツを綺麗に添えたクレープの大皿を装備していた。レイヴはそれが『超簡単にできる美味しい王宮のおやつレシピ』に載っていたモノだと気がつく。

 インパスは…、一度ひとつのことに熱を上げるとなかなか冷却しないという――…ある意味では熱心な、ある意味でははた迷惑極まりない性格の持ち主であった。

 小さい姿になったキオウがクレープに飛びつく。この賢者サマは単に素直でないだけである。

「きーちゃん、美味しい?」

「うんっ」

 柔和なほっぺにクリームをくっつけて、元気いっぱい頷くチビキオウ。

「ねぇねぇきーちゃん? きーちゃんは、自分のおうちでこんなおやつを食べたことってなぁい? とゆーか、コレそのものを食べたことってなぁい?」

「なーい」

 即答。

「そ…、そんなことはないでしょ~お?」

「だって僕、小さい頃はバナナがキライだったもーん。だからおやつにバナナは出なかったもーん」

 ありゃりゃ、と笑う傍観者レイヴ。完全に面白がっている。

 ステキなおやつにすっかりはしゃいだキオウが「お茶飲みたーいっ」と左手をフリフリしてニコニコと叫んだ。キラキラと煌めく左手の軌跡。

 すると、レイヴ達のテーブルにあったティーセットが足を生やして小さな賢者へと走っていくではないか。

 もはや完全な理解不能ワールドの中、やってきたティーセットを「おりこーさんだねっ」と撫でる賢者サマ。

 インパスが次の作戦へ移行した。

「ねぇ、きーちゃん。きーちゃんのお父さんってどんな人なのかなー? 知りたいなー」

「? 父上?」

 父上!

 ということは、やはりいい所の生まれなのだ…!

 少しトーンダウンして茶を啜っているキオウとは反し、興奮したインパスはついつい小躍りをした。

 しまった。顔がニヤけてしまう。

「で、きーちゃんのお父上はどんなお方なのかなー?」

 ずばり。

「いい人だよー?」

「………。あの、あのねぇ? そーゆーことじゃなくってさぁ…」

「なら、どーゆーこと~…?」

 どーゆー、って…。それを言わせようとしているのにぃ~…。

 だが、それからのキオウはインパスが何を話しかけても応えようとしない。

 機嫌を損ねたな…。

 レイヴとカイは同時にそう思った。

 結局は無言でクレープを食べ残したキオウが、お利口なカップとポットを置き去りにレイヴ達の元へと走ってきた。それをうらめしそうに見つめるインパス。キオウの異変になど微塵も気がついていない。

「…カイー、それって冷たいお茶ー?」

「ああ」

「飲ませてー」

「ああ、構わない」

 キオウは当然のようにカイの膝によじ登って座ると、またもや当然のようにカイのコップに口を付けた。そしてカイに寄りかかり、ちびちびと茶を飲んでいる。

 カイとキオウが出会ったのは約12年前、キオウが9歳になったばかりの頃だ。その後キオウが師の元で修行をしていた約2年を除き、カイはキオウと一緒にいる存在――すなわち育ての親だ。チビキオウが甘えるのも自然である。

 しかし、レイヴ達がいる前でこれほどカイに甘えるチビキオウは珍しい。

「うおぉぉう…、きーちゃあぁぁん……」

「インパス、ストップ。キオウ拗ねてる」

「…へ?」

 素早くインパスに耳打ちするレイヴ。

「今はきーちゃんだからまだいいけど…。元のキオウに戻ったら、お前…死ぬかもよ?」

「そ、そんなにご機嫌ななめッ? あのきーちゃんがッ?」

「うん」

「ひいいぃぃぃッ!!」

 元気のない仕草で甘えているキオウ。それにそっけないながらも応えるカイは、不器用ながらも父親である。

「…はにゃ?」

 何かをキャッチしたのか、うつむいていたキオウが顔を上げた。

「どうした?」

「う〜ん…。

 ねぇカイ…、人が住める空き部屋ってまだあるよね?」

「ああ。それが、どうかしたのか?」

「――ほら」

 キオウは慌てた様子でこちらに走ってくるジークを指さした。




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