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賢者サマのおふね◇キオウのこと  作者: 神代きい


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キオウへの疑問◇捜索隊、ピエロ氏と接触

「見張ってて」

「おう」

 レイヴの鍵開け技術は素晴らしい。カチャカチャ…ピン! だけで終わってしまう。

 素早く室内へと滑り込む。

 ほんのりと感じる柑橘の香り。貯めた小遣いで買ったらしいカントリー調の人形や小物。壁に飾られた自作のタペストリーもどき。今人気の冒険恋愛推理童話シリーズ『パタクロの雨』の最新刊を枕元で発見。気丈なキーシとはいえ、少女らしい部屋である。

 だが。

 窓辺にあるピエロ人形が――…あからさまに怪しい気配を発していた。

 レイヴが無言のまま鈴をかざすと、鈴は軽やかな音色であっさりとアタリを告げる。

 目標『なんか嫌なモノ』発見。

 ふたりは顔を見合わせた。

「………。コレですか?」

「らしいな」

「…誰が袋に入れるの?」

「つーか、手に持っても呪われたりとかはしねぇのか?」

「袋に入れちゃえば大丈夫じゃねっ?」

「なら、お前がやるか?」

「ジークがやってよ。俺は袋の口をデッカく開けててやるから」

「あ、ズルくねーか?」

「天下の“真空のジーク”がこんなモンにビビってどーするんだよ?」

「“探求のレイヴェイ・グレイド”が変なモンに不慣れとは笑止だな」

 しばし視線がぶつかり合う。互いに必死であった。

 すると、レイヴがあっさり視線を外した。そして「あはは」と何度も何度も何度も頷く。

「うんうん、不慣れ不慣れ。だからお願いするよ。

 ――まさか、ジークはイヤとは言わないよな? あの“真空のジーク”が」

 ジークの性格を逆手にとる作戦に変更したようだ。セコい奴だ…、とジークは引きつって笑う。

 別に、怖いワケではない。ただ単にこのピエロがキモチワルイだけで――…、つまりは少女が毛虫を無条件に嫌うのと同じ原理なワケで。

 今さらこんなモンに恐怖するほど俺はガキじゃねぇ。――と、本人は思う。

「なんつーか…、予想していたモンと実物が噛み合わねぇんだが」

「だよねー…」

 自分達はこのピエロ氏を捜して奔走していたのだろうか。

 そう思うと、少しだけ頭がイタイ。

 かさかさかさかさかさかさかさ

「…かさかさ?」

「あ」

 ひとりでにピエロが動きだしたのだ。

 ぎょっとしてフリーズするレイヴとジーク。

 そして、リンゴの置物に飛び乗って玉乗りを始めたピエロを無言で見つめる。

「「………」」

 大道芸を披露されても反応に困る。

 どーしよう…、とふたりは思った。

「…ジ、ジーク。ほらほらっ」

「うっ」

 やっぱり俺か。

 裏の世界で恐れられる自分が、何故にリンゴの玉乗りをするピエロを捕獲せねばならんのだ。ジークはちょっぴり泣きたくなった。

 行儀よく野次のない観客にピエロは上機嫌らしい。

 ひょうきんな仕草でリンゴからピョンと飛び降りたピエロ。テケテケと机上の小物入れまで移動したかと思うと、お次は取り出したビー玉でお手玉を開始する。

「「………」」

「な…なんか…、調子狂うね…」

「…ああ」

 ゴロゴロと宙を舞うカラフルなビー玉。

 そのまま再びリンゴに飛び乗ると、玉乗りをしながらのお手玉という高等技を披露し始める。

「「………」」

 微妙な空気。

「ジ、ジーク。ほらほらっ」

「…。レイヴ」

「ん?」

「正直に告白する。俺は、アレに、触りたくない」

「…ゴメン。意地悪した俺も悪かった」

「「………」」

 またもや、微妙な空気。

 ふたりとも漢方薬を口に含んだような苦い表情であった。

「…で、どーする?」

「どーしよう…」

 困った。

 かなり困った…。

「…き、斬ってみるか?」

「ジークの剣で?」

「カナヅチだと壊せねぇだろ…?」

「ぬ、布製だもんね…」

「だ、だろ?」

「でも…、斬るとしても袋に入れてからだと思うよ…?」

 それもそうだ。

 腰の剣にかけた左手を退け、ジークは眉をこれ以上なく寄せた苦吟の表情を浮かべる。

 ――――と。

 ずぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ!

「「うわあああああああッ!?」」

 突如として憎悪の形相で飛びかかってきたピエロにあがる絶叫。ジークは反射的に剣を抜き、目をギュッと閉じたレイヴは麻袋を無意味にぶんぶん振り回す。

 ごいん!

 ピエロは麻袋にクリティカルヒットし叩き落とされ、床にベタリとへばりついた。

 頭がグリンと180°回転し、こちらを見た赤鼻の顔が怪しく「にや~~~っ」と笑う。

「~ッ! レイヴッ、袋かぶせろッ!」

「うりゃッ!!」

 袋を開けてピエロにガバッと飛びかかったレイヴ。すぐさま袋のヒモを引いて口を閉じ、捕獲成功。

 ボコボコと暴れ狂う麻袋の中身。腕をいっぱいに伸ばして自分から袋を遠ざけるレイヴ。ジークがそれを斬ろうと構え――、何故かふいに動きを止めた。

「はははやくしてよジーク~~ッ!」

「…いや、あのさぁ」

「ななななにぃっ?」

「袋も斬れるから、ピエロ出てこねぇか…?」

「うっ」

 考えみれば当然である。

 故に、賢者はわざわざカナヅチを指定したのだと理解した。

 理解はしたが…、実行はしたくない。

「な、なら燃やしちまおうっ」

「そそそっ、そーだねっ! 御札は左のポケットに入って――左だってば左ッ、反対反対ッ!」

「これだなっ?」

 ――ぼっ!

「うわあぁぁぁっ!」

「あちちっ! 俺ごと燃やす気ですかアナターッ!? てか、それで役割終わりですか御札ーッ!」

「つ、ついやっちまった…!」

 ふたりは顔を見合わせ――。

 ダッシュした。

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