表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/54

キオウへの疑問◇捜索隊、潜入

「――よし、残りは皆の部屋だけだね」

「俺とお前の部屋はパスだな」

「キオウの部屋もね」

 言って、船の見取り図に指を置くレイヴ。ジークはふむふむと頷き、そこにバツ印をつけた。

 厨房や倉庫などには全てバツがついている。残りは仲間達の部屋だけだ。

「うーん…」

 レイヴは唸って空を睨んだ。

 白い雲が青い空を流れていく。

「やっぱ、全員の部屋をチェックするしかないのかなぁ…。人の部屋に無断で入るのって気が進まないや」

「だからって、本人達に交渉なんざぁできねぇだろーが」

「まぁね…。事情を説明するワケにもいかないし」

「だろ?」

 ジークも重いため息をつく。

 しばし沈黙が降り――。

「んで、“真空のジーク”は人の気配を探るのはもちろん得意だよね?」

「お前、トレジャーハンターなら鍵開けはもちろん得意なんだろうな?」

 ふたり同時に尋ね合った。

 そして一瞬間を置き、ふたりはまた同時に口を開く。

「「とーぜんだろ」」



 まずは、カイの部屋に侵入成功。

 机には制作途中の海図。本棚にはこれまでの航海日誌がズラリと並んでいる。カイらしく整理された部屋だ。

 感心したところで、本来の目的に移る。

 机に棚にベッド。それらにキオウお手製“なんか嫌なモノ探知鈴”を向けるが…、反応がない。

「…あ」

 小さな声を漏らしたレイヴに、ジークは何事かと顔を向けた。その視線は棚と壁との僅かな隙間へと注がれている。

 ジークもよく見えるようにと片目を閉じて覗き込むと、その奥に一冊の本が見えた。手首がようやく入る程度の隙間しかないので、ジークは愛剣の鞘を突っ込んで本を引き出す。

 出てきた本のタイトルは『航海術のノウハウ』。著者はカイグス・カテライト――つまりカイ自身である。

「本なんか出していたんだー…。さすが伝説の航海士」

「で、どうする? 俺らが入ったってバレないためにも、また隙間に戻すか?」

「そうだね。カイが自分で隙間に入れたのかもしれないし」

 本を隙間へと戻して部屋を出た。ジークが慎重に辺りの様子を窺い、その間にレイヴが仕事道具で鍵を締める。

 次は、デスティニィ号専属コックと化したインパスの部屋である。

 本棚にはやはりズラリと料理の本。分厚い栄養学の本や薬草の辞書もあるようだ。ちゃんと仲間の体調を考えてくれているらしい。

「お、ここでも発見」

 本棚を見ていたジークが「ほら」と顎をしゃくって本を示した。

 本のタイトルは『宮殿晩餐のご馳走ワールド』。著者はもちろん、インパス・パティカだ。さらにはズラリと彼の著書が並んでいる。

「『パーティーのメニューはこれでバッチリ』『ひと味違うアウトドア料理』『お手軽ごはん』『超簡単に出来る美味しい王宮のおやつレシピ』『私は奥さまの味方です』…なんだこりゃ?

 他にはー…『魚介料理入門~フジツボ編~』――っておい、このシリーズは7巻までありやがるぞッ」

「さすがは料理の申し子インパス、出版業界にモテモテだ。でも、よく仕事と執筆が両立できたなぁ」

 …だから彼はこの船に留まっているのだろうか。

 ただただ純粋に自分の料理を喜んでくれる仲間がいる、この船に――。

 結局はインパスの部屋もシロだった。次はラティの部屋である。

 子供の部屋だというのに、意外にも室内は片づいている。ベッドに鎮座したペンギンのぬいぐるみ。本棚や枕元には鳥と天使の本。引き出しを開けると、ラティのご自慢の笛コレクションを発見した。

 レイヴは枕元の鳥の本を広げてみた。癖がついていたページを開くと、見開きいっぱいに見事な大鷹の挿し絵。

 ――と。

「………」

 ぎこちなく後ずさったジークが、反射的にレイヴの腕をつかんだ。

 ベッドの下に置かれていた――…、何故かもっこりと柔らかく膨らんでいる謎の布袋を見つけたためだろう。

 念のために“なんか嫌なモノ探知鈴”を向けるが…、鈴はウンともスンともチリンとも反応しない。

 おもいきって、開けてみた。

「…げっ」

「えっ?」

 羽毛100パーセント。

 ――…これ、ラティ本人の…?

 つい見合わせた互いの顔には、同じ疑問が浮かんでいた。

 ふかふかのふわふわ。上質な羽毛ばかりが袋いっぱいに詰まっている。大きく開けては羽毛が室内に爆発しかねないので、ジークは早々と袋の口を閉じた。

 それにしても、何故ラティは自分の羽毛を…?

「羽毛のクッションでもこしらえるつもりかよ…?」

「あっ! それ、アタリかも。ほらほら、カバーも縫ってるっぽい」

 同じくベッド下から引き出した木箱を開けて「ほらほら」とレイヴ。ヒヨコちゃん模様のハギレを前に、ジークは一瞬フリーズする。

「「うーん…」」

 何故にラティは自身の羽毛でクッションを…?

 ――悩んだ結果、ふたりは何も見なかったことにした。

 色々とあったラティの部屋ではあったが、結局はここもシロだった。

 と、いうことは…?

「あの小娘め…、一体何を拾いやがった…?」

 すでに疲れ果てた気配のジークをポンポンと慰めるレイヴ。

 作戦を立てるべく、ふたりは一度キオウの部屋へと引きあげた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ