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何を言えばいいのか分からずに俯いてしまった私は、それでも何か言わなきゃと口を開くと草間くんの視線に止められた。
「……え」
おかしい。
怒ってなかったっけ?
私を見るその顔は、なにやら楽しそうだ。
感じた事のない悪寒が、背中を走る。
なんとなく、危険な感じ、が、する。
「深山、さん」
「はいっ」
逃げ腰になる私の腕を、草間くんが掴んだ。
「どうして、俺宛のラブレターで、具合悪くなったのか聞いていい?」
「……っ」
目を見開くと、楽しそうに草間くんの目が細まる。
「嘘は聞かない。答えは分かってるから」
「っ、な……なんでいきなりそんな強気……」
目を細めたまま苦笑する草間くんは、ハッキリ言って怖いです!
「そりゃ、これだけ恥かけば? もう、これ以上ない気がするし? ね、勘違いの原因である深山さん」
「そっ、そんな! 大本の原因は、草間くんじゃない」
その手紙をさっさと私にくれていれば、こんなに悩むことなかったのに!!
「数学と一緒だよ、深山さん。答えは一つだから。苦手な君でも答えられるだろう?」
「そんなっ、数学とこれは違う……っ」
「早く、答えて」
身を乗り出してきた草間くんに、至近距離で聞かれて思わず目を瞑る。
うっうぁぁぁぁっ!
ちょっ、どんな体勢!?
これ、どんな体勢!!
ばくばくと高鳴る鼓動が、頭に響き渡る。
「こたえ」
すぐ傍で聞こえた声に、思わず口が開いた。
「す……好き、だ、からっ」
ごくり、と息を飲む音がする。
「よかった……。でも……」
ちっとも嬉しそうじゃない声が、言葉を続けた。
「この状態で、目を瞑られるのは……色々とマズイ……」
「……っ」
反射的に開けた目に映ったのは、ドアップな草間くんの顔で。
見た事もない強い視線に、体が固まる。
こっ、これはっ!
これって……!
緊張が最高点に到達した、その時だった。
「おにーちゃん、何の用!!?」
ドアを思い切り開ける音と共に、可愛らしい声が部室に響いた。




