表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

――深山 沙奈さま




 


       好きです

 






            草間 和仁――







「……え?」


頭が真っ白になった。


深山……沙奈? 私?


思い込んでいたものじゃない名前が、その手紙には書いてあって。

意味が分からないまま、草間くんを見る。

彼は首の後ろを押さえながら、苦笑した。


「いや……その、書いてみたかっただけなんだ。渡すつもりはなくて……」

「え?」


ちょっと、待って。


「でも、そんな体調崩すくらい断るのに悩まれるって知ったら、ここは砕けとこうと。悪かったな、ホント」

はは、と笑う彼の口調は重い。


「これ……、佳奈子ちゃん……」

が、差出人じゃ……

そう呟くと、草間くんがため息をつく。

「少し前に部屋で書いてたのを見つかってさ、隠しておいたんだけど。佳奈子の奴、人の部屋漁った上に机に入れやがって」

「漁る……?」

「そう。だからホント朝は焦った。分かってたら、深山さんに取ってなんていわなかったのに」


え、どういうこと?




「佳奈子ちゃんから、草間くんへの手紙……じゃない、の?」


「……は? なんで佳奈子から、俺?」


呆気に取られたような表情で問いかけてくる草間くんを、じっと見つめる。


「朝、見えたんだろ? 俺から深山さんへの……その……って」

言い難そうに誤魔化す草間くんの言葉に、頭を横に振った。

「好きですって、一言だけ……」

「は?」

「好きです、しか見えなかった。名前までは……」



「――はぁ!?」



大きな声を上げて立ち上がった草間くんに驚いて、びくりと肩を揺らす。

草間くんは気付かないのか、立ち上がったまま私を見下ろしていて。

「え? じゃぁ、どうやって断ろうか悩んで具合悪くしたとかじゃ……」

「……ない」


ぶわっと、草間くんの顔が真っ赤に変わった。

そのまま力尽きたように、ソファに沈んでいく。


「え?」


その変化に、私の方が呆気に取られた。


両手で顔を押さえたその指の隙間から、草間くんが私を見た。


「なんだよ、じゃあ……俺、恥かいただけ……?」

「え? うぇっ……」

「この手紙の所為じゃなかったら、今、当たって砕けなくてもよかったわけだよな……」

「いや、その、手紙の所為って言うか。その……っ」



口籠る。

便箋には、確かに私の名前。


もしかして、私。物凄い勘違いをしていたんじゃ……



「その。佳奈子ちゃんが……」

そこまで言って、やっぱり口籠る。

もし……ていうか、確実、間違ってたよね。

物凄い、恥ずかしい勘違い。

草間くんは両手を降ろして、私を見つめた。

「あのさ。さっきから、佳奈子の名前が出てくるけど。あいつがどうかしたのか? なんか言われた?」

言われたって……

慌ててその言葉に、頭を横に振る。

「……いや、その……。佳奈子ちゃんが、朝、机に何か入れてたの思い出して……」

「それで?」


なんか、怒ったような声に変わったと思うのは、私の聞き間違いでしょうか――




「佳奈子ちゃんから、その……草間くん宛て……か、と」




静まり返る。


それは、一瞬。


「妹なんだけど」

う、声、怖い。

「っと、だから……その……血が繋がってないとか……」

「実の兄妹だけど。ていうか、どんなドラマだよ、それ」

「もしくは、名前を書かないで気持ちだけ伝えたいとか……」



どんどん声が小さくなっていくのは、草間くんの顔が怖いから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ