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しばらくそれを見上げていたら、視線を感じて隣を見た。
草間くんと目が合って、意味もなく鼓動がはねる。
だって、微笑ましく見られてる、そんな感じだから。
「少しは、元気になった?」
「……え?」
赤くなりそうな頬を隠そうと右手でそこを押さえていたら、草間くんに問いかけられてはずした視線を戻す。
「顔、青かったし。何か、悩み事? いつも迷惑掛けてるし、聞くよ? 役には立たないかもしれないけど」
「え。なや……み……」
ラブレター、どうしたの?
差出人は、佳奈子、ちゃん?
一番聞きたいことが思い浮かんで、頭をぶんぶんと振る。
聞けない。
それは、聞けない。
「深山さん? また顔色が……」
「やっ……」
いきなり触れられた手を払うように、立ち上がる。
目を見開いた草間くんの顔を見ていたくなくて、俯いた。
「大丈夫だから。だから……」
「深山さん? どうした? なんか、いつもの君らしくない……」
「っ、なんでもないってば!」
草間くんの視線から逃れるように、ドアから飛び出した。
「深山さん!?」
懸命に足を動かして、その声から逃げる。
けれど階段から一番離れている場所だったからか、本当に具合が悪くなっていたのか、足がもつれてなかなか階段までたどり着けない。
「深山さん!」
追いかけてきた草間くんに、腕を引かれて立ち止まる。
「本当に、何があった? いつも俺を叱り飛ばしてる深山さんが、こんなに弱るなんて」
「別に、何もな……」
「なくないだろ!? 何? 俺じゃ、言えない?」
「く……さま……」
「――頼りないのは分かってるけど」
「ちがっ……!だって、朝の……っ」
思わず言ってしまった言葉に自分が驚いて、掴まれていない手で口を塞ぐ。
草間くんは目を見開いたまま、私を見下ろしていて。
「朝、の?」
「なんでもない、その……」
腕を離してと続けようとした言葉は、草間くんに遮られた。
「部室戻ってて。鍵預けとくから、絶対にいろよ」
「え?」
手のひらに押し付けられた鍵。
それに視線を落とした瞬間、目の前にいた草間くんが物凄い勢いで走り去っていった。
「なんなの……?」
呟いた声は、誰にも聞かれることなく静かな廊下に消えた。




