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静かな廊下を、草間くんに手を引かれて歩く。

ドアの向こうでは皆がいて、先生が授業をやっているなんて分からないほど静か。

草間くんは、手を離してくれない。

あれだけ悩んでいたのに、触れていることに嬉しさを感じる私っておかしいよね。

佳奈子ちゃんの笑顔が、ちらついて思わず目を瞑った。



「草間くん、本当に大丈夫だから……」

足を止めて小声でそう伝えると、草間くんが振り返る。

「顔、真っ青。いつも世話掛けてるんだから、たまには返させて」

「でも、大丈夫だし……」

具合が悪いわけでもないのに、厚生室でなんて言えばいいのか……

誤魔化せばいいのに、そこまで頭が回らなかった。


草間くんは眉を顰めて私を見下ろしていたけれど、ため息をついてまた歩き出す。

一階の厚生室を通り過ぎて、校舎を出た。

「どこ行くの?」

「いいから」

そう言っても、止まらない。





そのまま部室棟まで来ると、最上階の一番奥のドアを開ける。



――地学部



そう書いてある札を見て、草間くんが部長をしている地学部の部室だと気付く。


「どうぞ」

促されるまま中に入ると、十畳くらいのスペースにソファと本棚、なぜかポットが置いてあった。

草間くんはさっさとドアを閉めると、ソファに腰を降ろす。

「座って」

ぽんぽん、と草間くんが腰掛けた隣を手で叩かれた。


――え。となり、に?


傍によるのを躊躇していたら、手を掴まれてソファに座らされた。

草間くんから少し離れて座ったけれど、それでも緊張する。


「深山さん、上、見て」

「え?」

俯いて手元を見ていた私に、草間くんの声が掛かる。

問い返しながら草間くんを見ると、深くソファにもたれながら彼を上を見ていた。

「上」

再び掛かる声に、私は彼と同じ様に上を向いた。

天井に向けた視線に、キラキラとした光が映る。


「……うわ……」


そこは一面、引き伸ばされた天体写真が貼ってあった。


キラキラと、小さな星が光ってる。


「凄いだろ? 去年卒業した先輩の、ある意味卒業制作」

「卒業制作?」

「そう。光って見える星、全部スワロフスキー……だっけ? あれ、貼ってある」


……


「えぇっ?!」


びっくりして、立ち上がる。

目を凝らしてみると、確かにデコ用のクリスタルが貼り付けてあるのが見えた。


「その先輩が二年の時に撮った写真を引き伸ばして、時間と金を使いまくってこつこつやってた。ま、俺たちも手伝ったけど」

「……すごいね……」

そう言って、ゆっくりとソファに座る。


いくつにも分割して拡大しただろう、天体写真。

それに一粒一粒、星に見立てたクリスタルを貼り付けていく。

壮大で、気の遠くなる作業。


「女の先輩だからこその、発想なんだろうけど。俺達じゃぁ、こんなこと考え付かない」

「へぇ……、ロマンチストな先輩だね」

「その代わり、とても静かな部活時間が続いたけどな」

「だろうね」


カニを食べる時と一緒だよね。

夢中になると、皆、無言。


その部活風景を想像できて、思わず口元が緩んだ。


「夜見たら、キラキラしてもっと綺麗だろうな」

「そうだなぁ。これ夜中まで貼ってた時があったけど、確かに綺麗だった」



本物の宇宙みたいに、目に映りそう。




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