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その後一限目をサボった草間くんは、真っ赤な顔を真っ青にして帰ってきた。
「……どうしたの?」
なんとなく朝とリンクするような言葉を、草間くんにかけてみる。
草間くんは、なんでもないと二限目の教科書を鞄から出す。
それは数Ⅱ。脇坂先生の担当教科。
授業の鐘が鳴って、脇坂先生が入ってくる。
文系の私にとって、頭がこんがらがる時間。
ため息をついて、シャーペンを手に取った。
本当は、聞きたい。
さっきのラブレターの返事、どうするの?
「ねー、沙奈。なんだったの、朝」
被服室の隣にある手芸部の部室。
そこで同じ部活の子と、昼ごはんを食べようとやってきた。
一緒に食べるのは、同じクラスの子が三人と他クラスの子が二人。
故に、朝の草間くんとのやり取りを見られているわけで。
「んー、なんかよく分からない」
でも、ラブレターを貰っていたなんて事、他の人に言っていいことじゃないだろうから。
おにぎりを食べようとしていた他クラスの子が、何々? と興味津々な目を向けてきて。
なぜか私じゃなく、同じクラスの子がそれに答えていた。
「でも、真っ赤な顔の草間って初めて見たね」
「なんか進展あったのかと思ったのに」
にやにやと私のわき腹をつついてくる子から、身体を反らす。
「特に何もないわよ」
「えー、どう見たって二人とも仲いいのに」
「それは、そーいう意味じゃなくて。なんとなく、世話やいてるっていうか」
やっきになって言い返せばそうするほど、彼女達が囃し立てると分かっているのに止められない。
「草間って、頭いいくせに日常生活浮世離れしてるもんね。美術の授業に書道の道具を持ってきた奴、初めて見たし」
「あれは、妹さんのバッグと間違えたって……」
「で、一年の妹が沙奈に美術バッグ渡して? 沙奈が、美術室に走って?」
「おかーさんよね、もう、ホント。悪いけどクラスではほぼ公認だから、あんたらカップル」
きゃはは、と高い声で笑う彼女達に、もう何も言うまいと私は口をつぐんだ。
草間くんの妹の佳奈子ちゃんは、一つ下の一年生。
浮世離れした兄の為に、いろいろ苦労してる。
お弁当を渡しに来るのは、いつもの事で。
ジャージとか今言ってた美術バッグとか、その他いろいろなもの持ってくるから、必然的に話す機会が増えた。
草間くんと違って、イマドキの子らしく明るくて可愛い。
今日も、いつもの如くお弁当を持ってきてた。
「……あれ?」
そう言えば、何か机に入れていた気が……
そこまで考えて、顔から血の気が引いた。
もしかしてさっきのラブレター、佳奈子ちゃん……?
だって、もし友達からの預かりものなら名前書くよね……?
え、おにーちゃんを好きってこと?
え、嘘。え、え?
「どうしたの、沙奈。顔、真っ青」
「うぇ?」
いきなり現実に引き戻されて、おかしな声が上がる。
一緒にご飯を食べていた皆は、怪訝そうに私を見ていた。
言えない、こればっかりは言えない……
私はばたばたとお弁当を片付けると、皆の視線から逃れるように部室を後にした。