表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

10

「ごめんなさい、深山先輩」

目の前でしょぼくれる佳奈子ちゃんに、もういいよと笑顔を向ける。



あの後大声を出して部室から飛び出そうとした佳奈子ちゃんを、すんでの差で草間くんが捕まえて。

そして朝のラブレターのことを、謝られた。

説明させる為に、さっき教室戻った際、佳奈子ちゃんにメールしたんだったと草間くんが言ったのはその後。

頼むから、もっと早く思い出して!

あんな恥ずかしい場面、見られたくなかったわ!



で、現在に至る。


「だって、おにーちゃんてばレトロにラブレターなんて書いちゃってさー。さっさと渡しちゃえってけしかけても、まったく聞きゃしないんだもん。だから、机に入れといてやれば、渡す勇気が出るかと思ったんだけど」


「お前は、もっと女性らしく振舞えないのか」

少し離れた椅子に座っていた草間くんは、少し不機嫌そう。

佳奈子ちゃんは、同じ様に不機嫌そうな視線を草間くんに向けた。

「おにーちゃんは、もっと男っぽくなった方がいいんじゃないのー。邪魔されたからって、怒っちゃってさー。顔に似合わず、ロマンチストでウザい」

「佳奈子!」

草間くんの声に、佳奈子ちゃんはソファから立ち上がってドアノブにしがみついた。

「お邪魔虫は退散しますーっ! 本当にすみませんでした、深山先輩」

「俺には!」

「おにーちゃんの、へたれー!」

「佳奈子!」


ぎゃはは、と笑い声を上げて、佳奈子ちゃんは去っていった。






ぐったりと肩を落とした草間くんは、さっきまで佳奈子ちゃんが座っていた私の隣に腰を降ろす。


「兄妹以外の、何者でもないだろ」

「確かに」

苦笑しか、出来ない。



草間くんは大きく息を吐き出すと、天井に視線を向けた。


「今日、部活休みなんだよね」

「……うん?」

いきなり話が変わって、なんだろうと聞き返す。

草間くんは、じっと上を見ていて。

「これ、暗い中で見てみたくない?」

「え?」

これ?

草間くんの視線を辿る。


そこには、さっきも見上げていた天体写真。

キラキラと、星が光ってる。


「さっき、深山さん言ってただろ? 夜見たら、キラキラしてもっと綺麗だろうなって」

「あ、うん」


壁掛け時計は、まだ六限中を指していて。

少なくとも、あと三時間はここにいる事になる。


嬉しいような、恥ずかしいような。


「いや、何もしないから。さっきは……ちょっと流されたというかなんというか。誰か来たら嫌だから、鍵は閉めるけど」

「鍵?」

「いや、ほら。早退したはずの深山さんがここにいるのばれたら、何言われるか分からないし」


いつもはあまり見ない焦った表情に、思わず噴出してしまった。

口元を手で押さえても止められない。


草間くんは少し不貞腐れたような顔で、私を見ている。

「なんで笑うかな」

そう言われて止めようとは思うんだけど、どうしても笑いが漏れる。

「だって、いつもの草間くんじゃないんだもの」

クラスの子の言葉じゃないけど、あんまり喜怒哀楽を表に出さない人なのに。

今日は、全部見れた気がする。


「深山さんは、すっかりいつもの君だね」

「ごめんなさい」

笑いながら謝っても、まったく意味はないだろうけど。



私はまだ機嫌の直っていない草間くんの袖を引っ張って、天井じゃなくて窓の向こうを指差した。

「暗くなるの待ってる間、聞きたいことがあるんだけど」

「何?」

草間くんは外じゃなくて私を見る。


私はさっき聞いてみようと思った、彼の好きな分野の問いを口にする。


「どうして季節ごとに、雲の雰囲気が変わるの?」

「え?」

聞き返す彼に、ほら……と指を揺らす。

それを辿るように、草間くんの視線が窓の向こうに向いた。


「秋とか冬の曇って、薄くてかすれてるじゃない。どうして?」

「ん? あぁ、それは……」


怪訝そうにしていた顔が、いきなりいつもの顔に戻る。


数学の挑戦状をといている時みたいな、淡々としているのに目だけは楽しそうな。

この目を知っている人は、何人くらいいるのかな、とか思う。

草間くんは私の疑問に、すらすらと答えていて。


思わず、目を細める。


「ね、草間くん」


すらすらと話していた草間くんが、ん? と口を噤む。






「好き」






「……っ」



今のトコ、この顔は私だけのもの、かな?





今日一日振り回された手紙を手に持ったまま、一気に真っ赤に変わっていく顔を私は満面の笑みで見つめた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ