1
「……これは、なんだろう……」
朝、遅刻気味の隣人が、HR開始ぎりぎりに走りこんで席に着いた途端、ぼそりと呟いた。
その手は、机の中に突っ込まれたままで。
反対の手は鞄を机の横に、掛けようとしているところで。
そこには、朝、妹の佳奈子ちゃんが持ってきたお弁当バッグが掛けられていた。
「いつものように、佳奈子ちゃんがお弁当置いていってくれてたよ?」
いつもの事なのに何を疑問に思ってるんだろうと、一限目の教科書を机に出していた私は、隣人、草間くんに聞いてみた。
「草間くん、お弁当要らないの?」
草間くんは眉を顰めたまま私の方を向くと、ぎこちなく口を開いた。
「おはよう、深山さん」
「おはよう、草間くん。……じゃなくて」
間の抜けた挨拶に少し苦笑する。
草間くんは視線を机に戻してから、もう一度私を見た。
「なんか、知らないものが中に入ってる、……気がする」
「お弁当のことじゃないのね。ていうか……、気がするってどういう事?」
「薄い紙みたいな、なんかそんなものが入ってる」
「……紙?」
隣人、草間くんは周りが太鼓判を押すぐらい頭はいいけど変わってる人。
朝が弱いらしくて、遅刻気味。
理数系が大好きで、常に学年一位。
けど、古文だけ十位。
十位でも凄いと思うんだけど。
ま、それくらい頭がいい人。
故に、私では考えられないけれど毎日机の中を空にして帰る。
ロッカーの中身も少ないらしい。
まぁ、自宅から歩いて五分という好立地にある高校に通っているから出来る技だと思うけど。
私なんてテスト前くらいしか教科書持ってかえらな……
そこまで考えて、すぐに意識を現実に戻す。
目の前の草間くんは、若干うろたえ気味のままじっと私を見ていた。
「あ、ごめん。毎日机を空にするのに、確かにおかしいね。とりあえず出してみたら?」
「……また、数学教師の挑戦状だったら面倒だと……」
「……ははは。それは先週やったばかりだから、さすがにないでしょ」
隣人、草間くんは周りが太鼓判を押すぐらい頭はいいけど変わってる人。
頭はいいけど、浮世離れした日常を送っている。
お昼にご飯を食べずに本を読んで終わってしまったり、気付いたら上履きで体育を受けてたり。
ちなみにバスケでシュートしようとしたら靴が脱げて、そこで上履きを履いているってことが判明したらしい。
気付こうよ……。
そんな彼の大好きなのは部活動で、所属は地学部。
部長もやっている彼は、部活の副顧問でもある数学教師、脇坂先生からたまに挑戦状を受ける。
大学とかで習う数学らしいけど、私にはまったく分からない。
私が愛するのは日本史……
そこまで考えて、再び意識を現実に戻した。
目の前には、さっきと同じく私を見ている草間くんの姿。