-99- 明日の糧(かて)
誰もが生きるために明日の糧を求めて懸命に働いている。文明社会ではよくしたもので、直接、食べ物を作らなくても通貨によって明日の糧を得られる仕組みとなっている。得た通貨で食べ物を買えば事足りる仕組みです。理想は明日の糧を求めなくても、アレが食べたい…と思っただけで、自然とその食べ物が湧いて出てくるという夢のような世界なんですが…。^^
池辺は、ひょんな運命の悪戯で銀行本店・副頭取の地位を失い、遠方の支店長に左遷された。そして、異動の辞令が下りた三日後、池辺は茫然自失のまま赴先へと向かった。池辺にすれば、なぜ自分が…という納得できない左遷理由だった。だが、明日の糧を得るためには、下された辞令は甘受しなければならない。よくよく考えれば、銀行の管理者椅子に座っていただけで食べられるという社会システムが池辺には今一、分からなかったのである。入行以前、大学時代で経済を学んだ池辺にとって、第一次産業で生産物を作らない者が食べられる・・という矛盾がどうしても理解出来なかったのである。貨幣に明日の糧となる食べ物が手に入れられるそれだけの価値が本当にあるのか? という馬鹿げた疑問だった。そう思いながら副頭取まで出世した池辺は、深層心理の影響からか副頭取の地位を失ったのだった。
その五年後、池辺は銀行を退職し、農作物を作っていた。
『フフフ…紛れもなく、これは食べられるっ!』
ニンマリと笑いながら、池辺は明日の糧となる自前の米で作ったお結びを美味そうにパクついた。
それにしても食べ物を作る人が明日の糧が得られない・・という産業構造の矛盾は、つくづく嫌になりますよね。理想は明日の糧を生産する人々が安心して暮らせる社会構造なんですが…。中央政界の方々、なんとかなりませんかっ!^^
完




