-85- 勇み足
大相撲には勇み足という決まり技がある。まあ、相手が勢い余って土俵の外へ足を出す訳ですから、技と言えるかどうかは分かりませんが、とにかく勇み足をすれば負けとなります。相撲に限らず、勇み足は私達が暮らす社会ではよく起こりがちです。理想は勇み足をしないように心がけることですが、なかなかそうはいきません。^^
平凡な一サラリーマンとして役場勤めをする鳥鍋は、よく勇み足をする男だった。昨日もそうで、昇進祝いの二次会のあと、財布をスナックへ忘れ、帰宅したミスがあった。
「次長、これをお渡しして下さいと…」
課長の平林が財布を次長席の上へ静かに置いた。目の前に夜探ししていた財布が突然、現れた鳥鍋は、よくぞ帰ってきたっ! …とばかり、目がしらを、ぅぅぅ…と潤ませなくてもいいのに潤ませた。^^
「誰が届けてくれたんだ、平林君?」
「スナック駝鳥のママです…」
それを聞いたとき、鳥鍋の脳裏に、昨夜、スナック駝鳥で酔いしれたときの残像が微かに浮かんだ。平林は酔いの勢いに任せ、何やら呟きながらカウンターへ財布を置いて店を出たのである。そのとき何を言ったかの記憶は、鳥鍋の脳裏から完全に消えていた。
「そうか、有難う…」
「支払い分は差し引いておいたそうです…」
「ああ、そらそうだろ…」
鳥鍋は少し有頂天になり、他の者にいいところを見せようと、酔いに任せて勇み足をしたのだった。
人である以上、勇み足は誰もがしやすいものです。理想は神様や仏様のような心境になってしないことですが、なかなかそうはいきません。私なんか、特にそうです。^^; 力士の皆さんも心しましょう。^^
完




