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-84- もの忘れ

 老いれば、いくら頭のいい人でももの忘れするようになる。理想は記憶力が衰えないことですが、これだけは無理なようです。悲しい現実ですねぇ~。^^

 今年で白寿の山を越え、晴れて百歳になった恭之介は最近、記憶力の衰えを感じるようになった。

 湧水家の離れである。

「お義父さま、お茶を淹れましたわ…」

 恭一の嫁、未知子が手盆に菓子鉢と湯飲みを乗せ、静かに現れた。

「おお、これはこれは未知子さん! すみませんなぁ~」

 いつもの言い馴れた言葉が、スイスイと恭之介の口から飛び出した。

「いいえ…」

 未知子は軽い笑顔で座ると、畳の上へ手盆を置いた。

「最近、すっかりもの忘れするようになりましてねぇ~」

「それは、いけませんわね。認知症にはお気をつけて下さいましな…」

「はあ、食い気はいっこうに衰えんのですがな、ははは…」

「ほほほ…」

 こうして息子、恭一のいない昼間、離れに二人の笑い声が響いた。

「じいちゃん!!」

 そのとき、孫の正也が不意に現れた。

「如何された、正也殿! かような昼どきに?」

「じいちゃん、今日は学校の創立記念日で昼までだったんだっ!」

 正也は快活に返した。

「さようでござったか…。では、ごゆるりとなされよ」

「ははっ! 有難きお言葉、痛み入りまするぅ~~」

 いつの間にか二人は、武家言葉で会話すようになっていた。

「正也っ! 宿題は忘れないうちに、やってしまいなさいよっ!!」

 未知子の鋭いひと声が二人の会話に割って入り、離れの隠居部屋で(こだま)した。

「はいっ!!」

 時代劇から現実に戻された正也は、素直な返事をした。出来のいい正也だったが、時折り、宿題を忘れるのが玉に(きず)だったのである。

 誰でも、もの忘れはしますが、理想は当然、しないことです。とはいえ、もの忘れをしてしまいますから、激しくなれば注意しましょう。正也君は大丈夫ですが…。^^


 ※ ご存じ、風景シリーズから、お三方に特別出演をして戴きました。^^


                   完

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