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-54- 悪夢

 悪夢に(うな)されるくらいなら夢など見れない方がいいだろう。理想は楽しかったり、いい夢ばかり見られることですが…。^^

 田坂は最近、悪夢に魘される夜が多くなり、悩んでいた。そこで、一念発起、気分を一新しようと知り合いの友人、古島に相談してみた。

「そりゃ、難儀な話だな…。俺の知り合いに小堀錦州(こぼりきんしゅう)という祈祷師がいるから、そいつに祈祷してもらったらどうだ?」

「小堀錦州か…」

 田坂は小堀錦州と聞き、安土桃山時代から江戸時代に生きた小堀遠州みたいだなぁ~…と、朧気(おぼろげ)に思った。

「ああ、よろしく頼む…」

「アポが取れたら、連絡するから…」

「分かった…」

 そんな遣り取りがあった二日後、田坂の携帯に古島から連絡が入った。

『いつでも、いいそうだ…。勤め帰りに寄ってくれ。今日は居るから…』

「ああ…」

 数日して、田坂は紙に書かれた地図を手にし、小堀錦州の(いおり)を訪れた。

「あの…」

「ああ、田坂殿でござったか…。話は聞き及んでおり申す。湯茶などの接待もせず恐縮じゃが、さっそく占って進ぜよう…」

 そう言うが早いか、祈祷師、小堀錦州は、なにやら怪しげな呪文を唱えながら手にした数珠(じゅず)を振り(かざ)し、ふたたび両の手に取ると両眼を深く閉ざした。

「出ました…」

 何が出たのか分からないまま、田坂は恐る恐る小堀錦州を(うかが)った。

「毎朝、熱い湯茶の中に梅干を一粒入れてお飲みなされればよい。さすれば、悪夢は退散するでござろう…」

「分かりました…。ご祈祷料は?」

「ははは…すでに古島殿から頂戴しておりまする。お気遣いはご無用に…」

「有難うございました…」

 田坂は深々と一礼すると小堀錦州の庵をあとにした。

 梅干入りの茶を毎朝、飲用するようになってからというもの、憑きものが落ちたように田坂は悪夢に魘されることがなくなったのである。

 理想としては梅干入りの湯茶を飲まなくても悪夢を見なくなることですが、^^ まあ、それにしても田坂さん、よかった、よかった!^^


                   完

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