-35- 当選確実
最近の選挙では当選確実が報じられるのが余りにも早いのには驚かされる。これもまあ、よく考えれば電子技術によるメディア情報の伝達が早まったから・・と捉えれば、なるほどっ! と得心もいく訳ですが…。^^
とある町は町長選挙の真っただ中である。響いてきた声に、有名小説家の藍藻川原は自宅の二の書斎でふと、ペンを握る手を止めた。
「駄目那でございます。駄目那 政治でございますっ! 最後の、最後のお願いに参っておりますっ! 明日の、明日の投票日には、何卒、この駄目那、駄目那に清きご一票を賜りますようお願い申し上げますっ!!」
駄目那候補が選挙カーの中から熱弁をふるっている。しばらくすると、また別の選挙カーの声がした。
「槍手、槍手でございますっ! 槍手ございますっ! 何卒、この…」
その声は別の道を通ったのか、遠ざかって聞こえなくなった。
『こりゃ、あとの方だな…』
藍藻は、なんとなくそう感じた。
選挙日がやってきた。夕方の投票締め切りが終わったその小一時間後の藍藻の自宅である。
『開票速報です。駄目那候補に当選確実が出ましたっ!』
テレビの開票速報を観ていた藍藻は、当選確実の早さと意外さに愕然とした。
当選確実が早く出るのは理想ですが、余り早すぎても興が削がれますよね。^^
完




