-31- 多忙
生活が多忙だと心身ともに疲れる。理想は、一年を通じて物事に追われることなく、ゆったりと暮らせる・・といった日常生活ですが、車が飛び交うこれだけ小忙しい世の中ですと、諸事の多忙に追い回され、そうもいかないのが困りものです。^^
小袋は日々の雑事に追い回されていた。ここ数十年、ゆとりという言葉を忘れるほど多忙が幅を利かせていた。だが、多忙を嫌って放っておけば益々、多忙に攻められることは分かっていた。だから仕方なく諸事を処理していかねばならなかったのである。
そんなある日、小袋は全てを忘れ、旅にでも出てみよう…と思い立った。日常の多忙が解消された訳ではなかったが、このままでは心身ともに疲れ果ててしまう…という危機感が深層心理として働いていたということもある。ただ、旅に出る目的地は皆無だった。
『なろうと、ままよ…』
そう決意した小袋は不自由しないだけの額を財布に入れ、家を飛び出した。すると、上手くしたもので、入場券だけを買って改札を抜け、飛び乗った列車の車内掲示板が目についた。その掲示板には、[馬と鹿の展示会]
というとある有名美術館の広告記事が掲示されていた。小袋は車掌に乗り越し料金とその美術館に近い最寄りの駅までの運賃を支払って向かった。不思議なことに、今までの多忙に追い回されていた気分は全て消え去り、理想のゆったりとした感覚が小袋の心身を包み込み始めたのである。
多忙に追い回され、理想の暮らしが追いやられたときは、ブラァ~っと旅に出るのがいいようです。^^
完




