当てずっぽうで決めた婚約者は、ピンチをチャンスに変えてくれました
「ふんふーん」
「ルリカ、そなた上機嫌ではないか」
「上機嫌だね。あたしヒビャクへ行くのは初めてなんだ」
宗主国であるミル・ヘルベシュ帝国から我がヒビャク王国への帰り道。
ガタゴトと揺れる装飾馬車の中だ。
ルリカが悪いわけではない。
が、どうしてこんなことになったのか。
自分の愚かさを呪いたい。
「装飾馬車なんてのはここに要人が乗ってるぞーって知らせるだけのものだから、あんまりよろしくないんじゃないかと思ってたんだ。今日までは」
「む。そうか?」
「でも乗合馬車とはクッションが全然違うわ。まるで別物だわ。馬車に乗りたくないがために飛行魔法による移動をマスターしたあたしに、発想の転換を強いるわ」
「乗合馬車、か。はあ……」
「どしたの王子。悩み多き年頃?」
「まあな」
国民に、また僕を支持してくれている者達に何と告げればよいものか。
ヒビャク王国第一王子の僕が帝国の都を訪れたのは、帝国の数多い皇女の中から婚約者を迎えるためだった。
ヒビャクのような弱小国ではありがちなことだ。
言い方は悪いが、帝国にとってもムダな皇女を有効活用できるだろうと思った。
『ほう、嫁が欲しいか』
『はい。いかがなものでしょうか?』
『ふむ。嫁ぎ先の決まっていない皇女は一一人いる。選べ』
『えっ?』
僕が選んでいいのか?
であれば少しでも有力者の家系の母を持つ皇女がいい。
と思ったら少し意味合いが違った。
『一一人の娘を壇上に立たせよう。オーリン殿が第一印象で決める、という趣向はどうだ?』
皇帝陛下がニヤニヤしてたわ。
面白い見世物だと思ったんだろうなあ。
当たり外れあるとは思ったが、元々嫁き遅れを押しつけられるんじゃないかと考えていたのだ。
僕の好みで選んでいいなら、少なくとも生理的にダメな皇女で苦労を抱え込むことはなくなる。
いいんじゃないかと思った。
『よろしくお願いします』
『事後の変更は認めんぞ』
僕が選んだのは、第一六皇女ルリカだった。
可愛らしい、それ以上に好奇心一杯の瞳が印象的だったから。
もっと印象的だったのは、僕がルリカを選んだ時の皇帝陛下の顔だ。
獲物がかかった、って表情だと思う。
しかし第一六皇女ルリカは唯一平民の子だった。
つまり母方の実家の助力は期待できないということだ。
僕の後ろ盾として、少しでも有力者との繋がりが欲しかったのに。
あっと思ったが、自分が選んだのでは文句も言えない。
「何を悩んでるのよ。婚約者のあたしに言ってみなさい。ほれほれ」
「ルリカは明るいし、優しいな」
「えへへー。あたしを選んでくれた愛しのダーリンのために力になりたいからね」
本心なんだろうな。
ルリカが善性を持つ皇女であることは間違いない。
言っても仕方のないことだが……。
「……ミル・ヘルベシュに比べれば我がヒビャク王国は小さな国だ」
「人口規模で言えばねえ。可能性の大きい国だと思うけど」
「ふむ?」
ルリカはどの辺を可能性が大きいと見ているんだろうな?
おそらくは面積か。
魔物が多い国のため、人間の居住域は狭いのだが。
「小さい国なりに揉め事もあってな」
「要するに次代の王を巡る争いがあるって理解でいい?」
ズバッと言われて正直驚いた。
最も情報を得られない立場であろうと思われる、母親が平民の皇女なのにどうして?
ルリカは相当聡いのか?
「殿下の母ちゃんはお亡くなりになったんでしょ? 母方の実家は実力者だけど、宮廷にあんまり影響力がないから、王太子争いは側妃腹の王子達と結構激烈って聞いた」
「ちなみに誰に聞いたのだ?」
「父ちゃんだよ」
「皇帝陛下に? どうして?」
「父ちゃん、王子は多分あたしを選ぶからって言ってたぞ?」
皇帝陛下の見る目すごい。
皇帝陛下は、バカめ引っかかったとでも思っているんだろうなあ。
でもルリカは一番輝いて見えたんだ。
「もっとも帝国に嫁探しに来るんじゃ、バックになってくれって言ってるようなもんじゃん? 王子が次の王になるの難しいんだろうなあ、くらいのことは、予備知識なしでもわかるよ」
ぐうの音もでない。
なのに唯一母方親族を期待できない皇女を選んでしまうとは。
まったく何をやっているんだか。
僕を推してくれている面々に合わせる顔がない。
「何で王子はあたしを選んでくれたん?」
「可愛らしいってこともあったが……とにかく存在感が一番だったな」
「王子は見る目あるなー」
その見る目を自分で疑っているんだが。
いや、でも最も目を引きつけられる皇女なのは事実なんだよなあ。
喋りやすいし、気が合う感じがするし。
ただルリカは皇帝陛下と普通に話せるくらいの皇女ではあるようだ。
母が平民であるからと言って、捨て置かれていたわけではない?
口調はぞんざいだけれども。
全くの失敗というわけではあるまい。
最初の目論見とちょっと違っただけ。
やり直しは利かないのだ。
前向きに捉えるべきだな。
「ルリカの母君はどんな方だったんだ?」
ルリカは母親とともに暮らし、市井で育ったと聞いた。
母親の死とともに皇宮に引き取られたと。
「豪快な人だったよ。魔物ハンターをしててさ」
「ほう、女性の魔物ハンターか」
「だからあたしも元々はハンターしてたんだよ」
「何と」
ルリカは魔物ハンターだったのか。
ではヒビャクへ来ても魔物に驚いたりはしないな。
少し安心材料ができた。
「まーでも母ちゃん病気には勝てなくてさ。母ちゃんが亡くなったらすぐに皇宮に引き取られたわ。あたしはハンターで自分の食い扶持くらい稼げるのに。どえらい迷惑」
「あれ?」
イメージと違うぞ?
普通は平民から皇女なんて、大喜びなのではないのか?
いや、いきなり皇宮に放り込まれては肩身が狭いし、人間関係がややこしいか。
でもルリカは卑屈とは全然無縁に見えるしな?
堂々としていて目立つ皇女だ。
ちょっとわけがわからん。
「多分父ちゃん、母ちゃんに見張りをつけてたんだと思う。母ちゃんの死後、あっという間に帝都行きになったわ」
「それが気に入らんと?」
「だって帝都には魔物いないしさ」
そりゃいないだろう。
我がヒビャクだって都には魔物なんかさすがに出ない。
「だから最近暴れたくてしょうがないの。今日はストレス発散できそうだから楽しみで」
「どういう意味だ?」
「国境を越えてヒビャク領内に入ったでしょ、って意味」
えっ?
ルリカは何を言っているんだろう?
「殿下」
む? 護衛隊長か。
「どうした?」
「前方に敵です!」
「何だと!」
のんびりルリカが言う。
「王子を亡き者にしたいやつらがいるとするじゃん? ヒビャクの王都から遠い位置、つまり国境付近で仕掛けるに決まってるでしょ。常識で考えて。この辺森の中の一本道だし、数が多い方が勝つと敵さんは思ってるんじゃないの?」
「殿下、ルリカ様の仰る通りです。盗賊や野伏の類がこの規模の護衛を持つ隊を襲うとは考えられません」
「要するに弟達の誰かの手の者に襲撃されるということか」
「とは限らんけど、王子が生きてちゃ都合の悪い人がいるわけよ。も一つ言うと、王子がどの程度の護衛を引き連れてミル・ヘルベシュ帝国に行ったか、バレてるわけじゃん?」
「確実に我らを仕留めるだけの陣容だと思われます」
「……引き返した方がいいか?」
「こっち装飾馬車だぞ? 騎馬兵に追っかけられて逃げ切れると思う?」
「くっ……」
何てことだ!
八方塞がりじゃないか!
「ルリカすまん。そなたを巻き込んでしまった」
「王子はいい人だな。でも謝る必要はないよ。この展開を予想したからついて来たんだもん」
「は?」
いや、暴れたくてしょうがないだの、今日はストレス発散できそうだの言ってたか?
「ルリカ、そなた襲撃者と戦うつもりなのか?」
「つもりだね」
「どうやって!」
「正面に見えてるのも結構な数なんだけどさ。あれ囮なの」
「見てないのにわかるのか?」
「感知魔法でわかるんだってば。ちょっと行ったところの道の両脇に伏せてある兵が本命」
わざと負けたふりで引き込み、包囲するつもりだったのか。
しかし後ろに逃げられないなら、突っ込むしか方法がない。
「隊長さん、護衛兵全部集めて殿下とこの馬車守ってくれる? 飛び道具にも耐えられる程度の結界張っとくから。あたしが戻るまで結界から出ないでね」
「ルリカ様、乱戦にせねば勝機がないのでは?」
「いいよ。敵さんは全部で一〇〇人もいない。それを囮、右、左の三隊に分けてるじゃん? あたしが各個撃破しちゃうわ」
「そなた一人で? 無謀だ!」
「まーあたしの戦い方を見たことないと無謀だと思うのもムリはないな。でも場合によっては大技が必要になるから、結界から出ると却って危ないんだよ」
大技?
ルリカは何をするつもりなんだ?
「ルリカ様は魔法の使い手なので?」
「魔法も使うね。一発撃ってみせようか」
「む? うむ」
「エアファングキャノン!」
ものすごい魔力の高まり!
圧縮風魔法か?
「ど、どうなったのだ?」
「正面に展開してた囮部隊は吹っ飛ばした。ま、生きてはいるだろうけど、交戦能力はもうないね。三分の一は片付きました」
「何という……」
「向こうさんもわけわからん攻撃受けたから、混乱するはずだよ。もうあたしの敵じゃないから行ってくる。隊長さんは結界内に味方を集合させといてね」
◇
結局ルリカ一人で敵軍を制圧してきた。
呆れたものだ。
これほどの魔法の使い手だったとは。
「地形がよかったね。敵がいるところは決まってるし、あたしはいくらでも隠れられるし」
「恐れ入った。感謝する」
「愛しのダーリンに感謝されちゃったわ」
アハハ。
捕虜を尋問する。
「近衛兵ケイン。申し開きがあるなら釈明するがいい」
「いえ、特には。オーリン殿下。申し訳ありませんでした」
兵を率いていたのは近衛兵だった。
ケインは忠義に篤い者なのだが。
裏切られたのはショックだ。
「商務大臣ウラガン閣下の命令でした。家族を人質に取られ、いかんともできませず……」
「率いてきたのも皆近衛兵ってわけじゃないよね?」
「違います。一般の兵士です。兵達は殿下を襲撃すると知りませんでした。どうかお慈悲を……ところでお嬢さんはどなたで?」
「あたしはミル・ヘルベシュ帝国第一六皇女ルリカだよ。このたびオーリン殿下の婚約者になりました。えへへー」
「帝国の皇女殿下? 凄腕の暗殺者とか魔人とかではなく?」
「おいこら、魔人って何だ。どうしてそう思った!」
いや、この鮮やかな手並みを見てしまうとな?
僕もちょっと疑ってる。
「ルリカは市井の育ちでな。魔物ハンターをしていたそうなのだ」
「そうそう。同じく魔物ハンターをしていた母ちゃんが父ちゃんと出会い、恋に落ち、あたしが生まれたのでしたちゃんちゃん」
「帝国のハンターとは驚くべきものですな」
「いや、母ちゃんがS級ハンターだったの。マリカっていう名前だけど」
「マリカ? まさか『神歩神速』のマリカ?」
「ピンポーン! 大正解です」
護衛隊長とケインが驚いている。
二つ名持ちの有名なハンターらしい。
「まーあたしはS級に昇格できるような機会には恵まれなかったけどさ。実力は母ちゃんと互角くらいだったとは思ってるわ。身体強化魔法の熟練度では負けるけど、魔力量はあたしの方が上」
「『神歩神速』のマリカと互角……。かつ、帝国の皇女ですか。なるほど、殿下はこの上ない婚約者を得られた」
「えへへー。さっき魔人って言ったことは許したるわ。ところでケインさんの処遇はどうすんの?」
護衛隊長と顔を見合わせる。
王族である僕に弓引いた者だ。
処分するしかないと思うが。
「あたしはさ。その人の身体に流れる魔力の流れで信用できる人かどうか、大体わかるんだよ。ケインさんは揺るぎない信念を持つ、信用できる人。こういう人は味方にした方がお得なんだけど」
「助命せよということか。……不可能ではないか?」
ケインが骨のある男だということは知っている。
できれば僕も味方につけたい。
今ここで見逃すのは容易だが、結局家族を握られているのであれば、商務大臣ウラガンの手から逃れられぬのではないか?
「王子の命を奪ったとして、その証拠として持ってくものって何かな?」
「印璽だろうな。常に首にかけて所持しているものだ」
「じゃあその判子をケインさんに渡して、王子の殺害に成功しましたって急いで報告させるでしょ? 一人で」
「一人? 軍勢は?」
「王子が率いてゆっくり帰ればいいじゃん。一人で帰ってきたケインさんを見て、黒幕のホニャララ大臣はどう考えると思う?」
「……なるほど」
商務大臣ウラガンは、ケインがわざと軍を残してきたと考える。
ケインが戻ってこなければ、ウラガンの命令で僕を亡き者にしたと兵士が触れ回る、と思い込むわけか。
ケインに交渉の余地が生まれる!
「そーするとホニャララ大臣もある程度譲歩せざるを得ないと考えるから、家族を取り返せるんじゃないの?」
「名案です!」
「うまくいくかはわかんないぞ? ケインさんの機転に期待する」
「うむ、ケイン。一時僕の印璽を預けおく。必ず戻ってこいよ」
「あ、ありがたき幸せ!」
「実際のところ、ホニャララ大臣が判子を取り上げるか、それとも判子をケインさんに処分しとけって命ずるかはわからんな。もし取り上げられたら、大臣が僕の判子を盗んだという密告があったのだーって、憲兵率いて押し入ればいいよ」
「乱暴であろう?」
「あっちは殺しに来てるんだぞ? ホニャララ大臣の方が乱暴だわ。判子が出てくれば大臣の命運は王子が握ったも同然」
商務大臣ウラガンの娘は、異母弟の第二王子ダグラスの実母だ。
ダグラスは後継者レースから脱落になる、か?
「出てこなかったらどうするのです?」
「失敬失敬、でもあんたが僕を殺そうとしたという証人は一〇〇人近くいるからね。大人しくしといた方が身のためだぞ。娘や孫にまで被害を及ぼしたくなかったらね、って言っときゃいい」
「ひどい」
「つまり兵士も皆僕が抱え込めということか」
「構わんでしょ。オーリン殿下は諸君を許そうと仰ってるぞ! 今後は命を懸けて殿下に仕えよ! いいなっ!」
「「「「「「「「おう!」」」」」」」」
「ね?」
降った兵も皆味方か。
物事が驚くほどトントンと進む。
絶体絶命のピンチだったことがウソのようだ。
ルリカはすごい。
「できればホニャララ大臣も仲間にしときゃいいよ。今度背いたらわかってるなって言い聞かせて」
「実に傲慢だなあ」
「王には清濁併せ呑む器量が必要でしょ。じゃあケインさん。健闘を祈る」
◇
――――――――――一年後。
結論から言うと全ての物事がうまい方向に動いている。
ケインはじめ近衛兵はすぐ僕の側につき、噂レベルだが商務大臣ウラガンの悪行は知れ渡った。
やつの首が繋がっているのは、ルリカの意見に従い僕が笑って許しているからに他ならない。
異母弟ダグラスが王位に就く目はまずなくなったが……。
「まー次期王になりたいなら、ライバルを蹴落とすんじゃなくて、自分の実績を挙げることだわ」
ルリカの言う通りだ。
弟達をどうにかしたところで、民の支持が広がるわけじゃない。
ではどうする?
「あたしの得意技でいこうよ。王子の婚約者であるあたしの実力を見せつけておくことも必要だから」
もっともなことだ。
つまり魔物退治か。
支持を得やすいと思う。
ヒビャク王国は魔物被害に苦しむ国であるから。
地図を出して説明する。
「赤い斜線の部分が魔物優勢の地域だ」
「ふーん。話には聞いてたけど、マジで海岸部にしか人が住んでないんだな。開発の余地が大きいわ」
「どうする?」
「この辺から手をつけようか。比較的王都に近いから、魔物を駆逐して穀倉地帯にできたら恩恵が大きい。功績もパッと広がりそう」
なるほどと思っている内に、ルリカはハンターギルドの面々を指揮してあっという間に問題のエリアを制圧した。
「いやあ、王子の婚約者だとゆー話題性は大きかったわ。参加してくれる人多かった。おかげですぐ終わったし、あたしの実力もわかってもらえた。万々歳」
「人件費タダじゃないか」
「実質タダだね。魔物由来の剥ぎ取り素材を売れば儲かるから。また手伝ってよって言ったら全員オーケーしてくれたぞ?」
S級ハンター『神歩神速』のマリカの娘ルリカの名は、いっぺんにハンター界隈で有名になった。
同時にルリカが帝国の皇女であり、僕の婚約者であることも。
うまい方に転がり始めると加速がつく。
「ダメだ。ヒビャクの魔物除けは貧弱だわ。このままじゃ占領地の耕地化が難しい。やっとれん」
「どうする?」
「帝国の魔物除けを輸入しよう。あたしが平民だった時に住んでた辺境に、いい魔物除けがあるんだ」
「ぼったくられないか?」
「あたしが間に入るから大丈夫だとゆーのに」
帝国産の魔物除けの導入で耕地面積は飛躍的に増大した。
副次的に帝国との貿易も盛んになり、ヒビャクの景気はよくなった。
実績を示した僕とルリカに支持が集まる。
僕は満場一致で王太子に指名された。
「よかったねえ」
「ルリカのおかげだ」
本当にルリカのおかげ。
とんとん拍子にうまくいく。
異母弟達のことはライバルだと思っていたけど、今では僕に一目どころか何目も置いてくれているもんな。
やはり実績と支持が大事なんだと実感した。
ちなみに商務大臣ウラガンは一時期隠居すると縮こまっていたが、結局ルリカがおっちゃんおっちゃんとおだてながら有効活用している。
ノウハウを持ってる者がいると開発の進行が早いからと。
ウラガンは味方ならば信用できるやつなんだそうな。
ルリカの人を見る目を信用して任せよう。
「皇帝陛下が好意的だと感じるのだ」
「父ちゃんが?」
「何がよかっただろうか?」
「だって王子はあたしを大事にしてくれてるじゃん? あたしはほら、父ちゃんの最も愛する娘だから」
「そうなのか?」
「そりゃそーだ。他の皇女は政略で結ばれた結果できた娘じゃん。あたしは愛する女との間に生まれた娘だぞ?」
「あっ!」
平民との間に生まれたルリカ。
それはつまり何の打算もない、愛の結晶ということなのか。
僕は知らず知らずの内に大正解を掴んでいたんだ。
というか先入観なしに選んだルリカが、僕の見る目とともに認められたような気がして、ちょっと気恥ずかしい気もする。
「父ちゃんと母ちゃんの馴れ初めは知らんのだけどさ。母ちゃんは父ちゃんのこといい男って言ってたし、父ちゃんも母ちゃんのこといい女って言ってた。あたしはそれで十分なんだ」
「帝国で僕がルリカを選んだ時、皇帝陛下が獰猛な顔をしてたなあと思ったんだ」
「複雑な気分だったんじゃないかな。よくぞ可愛い娘を選んだって思いと。よくも可愛い娘をかっさらいやがってという恨みと」
「ええ?」
あれはそういう顔だったのか。
僕はまだまだ甘いなあ。
「どしたん王子。ぼんやりしちゃって」
「いや、僕は甘いなあと思って」
「どうせならあたしに甘くしなよ」
「ハハッ、その通りだな」
ルリカを抱きしめる。
ルリカを選んだ僕の第一印象は全然間違いなんかじゃなかった。
自分が誇らしい。
「あたしも王子が好きだよ」
「ありがとう」
「皇宮では不自由こそなかったけど、メッチャ退屈でさあ。連れ出してくれた王子には感謝してる。ヒビャクの方がよっぽどエキサイティングだわ」
「そんな理由なのか」
アハハと笑い合う。
月が奇麗な夜だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
どう思われたか↓の★~★★★★★の段階で評価していただけると、励みにも参考にもなります。
よろしくお願いいたします。