幽霊に
AとBが河原で会話している。
見知らぬ景色に困惑するBにAがお願いをしている。
A「あの幽霊に向かって誓ってくれ」
B「どうやって?」
A「どのようにでも」
B「そんなの、見えないものに向かって誓えるか。ましてやよく分からないものになんて」
A「いつもやっているじゃないか」
B「参拝のことか。あれとは全然違うよ。」
A「なにが」
B「あれはあの場所で願うから良いんだよ。」
A「さして違わないさ。さあ、ほら」
B「ちょっと待ってくれ。どこに向かって祈ればいいんだ」
A「そこ」
B「どこ」
A「あそこ」
B「さっきと指してる場所が違うじゃないか」
A「そういうものだ」
B「どういうものだよ」
A「気まぐれなんだ」
B「はぁ」
A「分かってもらえたようで何より」
B「それで何を誓えばいいんだ」
A「・・・」
B「おい、聞いてるか」
A「サンタクロースって知っているか。」
B「知ってるけど、それが何か」
A「それだ。それと全く同じようにやるんだ」
B「子供の頃にサンタにお願いしたようにってことか」
A「そうそう」
B「そんなこと、出来るかな」
A「きっと出来るさ」
B「まあやっては見るけどさ、心の準備ってものが」
A「よし、準備はできたか」
B「待て待て待て。幽霊ってのはどんな感じなんだ」
A「どんな感じとは」
B「見た目だよ。見た目」
A「ああ、それはえーっと丸っこくて、きれいで、輝いていて」
B「輝いている?聞いたことないな」
A「それでいてごつごつしていて、凸凹で、暗いんだ」
B「よく分からないな。何の話だ」
A「幽霊」
B「それはそうなんだろうけど、全然イメージが湧かないな、一言で表すとなんだ」
A「そこの石」
B「はぁ?なんでそうなるんだ、幽霊の話だろ」
A「そう」
B「それが石と何のつながりがあるんだ」
A「うーん、ピンと来ないか。じゃああそこの太陽ならどう」
B「太陽なんて見えてないだろ」
A「じゃあ水面に映る月」
B「月も出てないだろ」
A「えー、参ったな、もうストックがないよ」
B「参りたいのはこっちだよ」
A「分かった。回り道しないで、簡潔に行こう。」
B「おう、はじめからそうしてくれ」
A「あれはあれで必要だったんだ。まあいい。君は幽霊だ」
B「えっ、そんなわけないだろ。影だってついているし」
A「そりゃそうだろ。影だって幽霊だし。」
B「うん?」
A「君は迷子になっている、そうだね」
B「ああ、突然訳の分からないことをまくしたてられりゃ誰でもこうなるって」
A「それでいい、そうでなくちゃならない」
B「これは褒められているのか」
A「君がそう思うならね」
B「頭が痛くなって来た」
A「もう終わる。あと1つ、2つだけ言い残したことがあった。目をつぶり過ぎてはいけないよ。十秒くらいなら構わないけどね。」
B「よく分からんが、とりあえず目を開けときゃいいんだろ。」
A「そうだ。それと幽霊のごとく聞け」
B「???」
A「良し。では君の影へ誓いたまえ。さあ、足元を見て。」
B「分かった」
言われるがままに足元に目を落とした。
影はひとつだけ。ひとつ。ヒトツ。
Aの足元に影はなかった。
Bはばっと顔を上げた。
Aと目が合った。
Aは楽しそうな笑みを浮かべつつ
「サンタによろしく」
と言った。
その瞬間川の向こう岸から眩い光が溢れ出てきた。
それは目も開けていられない程であった。
Bは思わず目をつぶった。
Bは目を開けるとそこには見知った木々が並んでいた。
隣には誰もいなかった。そう、誰も。誰かいたとしても、それは風の妖精のいたずらだろう。
冷たい風が頬をなでる。