第98話 ……………好き!
◆ルナの視点
なんとなくは分かってはいるの。私が意固地になっているのを、彼は無謀で無鉄砲にな行動をして注意するべきところはあるけども私達はすでに2度も助けられている。これは認められるべき事実、なのにどうしても私は彼を認めることが出来ない。もしかしたら不甲斐ない自分を認めたくないそう言う思いが邪魔をしているのかもしれない。
私はどうするべきなのでしょうか………一つだけ言えるのは、私が正しいと思うことをする。それしかない。
「それでは頂くわね」
彼の料理、正直毒なんて入っていないと思っている。でもだからと言って部外者が作った物をそのまま聖女様に食べさせるのは間違っている。それは私が正しいと思うこと、それでは頂きます!
まずはスプーンでにんじんをすくう。……う〜ん具材が浸された白いスープ、私が知る限りでは見たことがない、初めての物にはやや抵抗感があるけれど、いい匂い。これなら大丈夫。
私はスプーンを口に持っていった。
「あ!……美味しい……」
濃厚な旨味が口の中に広がり幸せでいっぱいになる。この白くてとろみのあるスープが野菜や鶏肉とよく合う。一口一口が楽しみで仕方がない。
「ねぇーそろそろ食べさせてよ!団長」※アーチ
「ルナお姉ちゃん一人でずるいなの!」※アイリス
「え!?」私いつの間に半分以上食べてる。
「ごめんなさい、大丈夫みたいだから食べて良いわよ」
「わーいなの!頂きま〜す」※アイリス
「やったー!頂きま〜す」※アーチ
みんなそれぞれ料理に手をつける。誰もが美味しいと驚いているのが分かった。
「タクト、これ美味しいなの〜にんじんさんが甘いなの!」
にんじんさんってアイリスはかわいいな〜。
「そうだろ。奮発したからな。いつもなら絶対買わないにんじんさんだ!」
「タマネギさんも甘々なの!」
「そうだな、タマネギさんも美味しい、あ!これさ〜パンにつけても美味しいぞ!ちょっと浸す感じで食べてみてよ」
「わーい分かったなの〜!……モグモグ……!?美味しいなの〜なのなの〜!」
アイリスが大喜び、ちなみになのなのって何なの?
アイリスが食べている姿を見たみんなはそれを真似して美味しい美味しいと声が聞こえた。
これをパンに浸す……はしたない。私はセドリック家の娘、貴族としての振る舞いを幼い頃から指導されこの様な食べ方をしないよう言われて来た。そう!ダメなのだ、しかし私の手にはパンが握られていた。私はこれをどうするつもり。
「ルナさんどうですか?ホワイトシチューはお口に合いましたかね」
彼は不安そうに私に声をかける。
「ええ、なかなか美味しいわね」
本当はすごく美味しいけど、素直に言えなかった。
「パンにつけると硬いパンもふやけて食べやすいですよ。あ!でもルナさんは貴族様だからそう言う食べ方はダメですかね」
「そんなことないわよ!私は聖騎士団に入って今みたいに野外で食事をすることもあるし干し肉をかじって済ませることもあるのよ!スープをパンに浸けるくらいなんてこともないわよ」
「あ!本当ですか、良かった。美味しいんで是非やってみて下さい」
私ってなんでこうダメなの!全然素直に言えてない。はぁ〜ため息でちゃうわ。でもスープに漬けてパンが食べられる。………パクッ…!?
(う〜ん美味しい!!アイリスの歓喜表現なのなの
の気持ちが分かるー)
「良かった!美味しいみたいですね」
彼は突然何を言っているの?
「なんであなたにそんなこと分かるのですか!」
「団長!そんなにニヤニヤしてたら誰でも分かりますよ〜、嘘つくの下手ですもんね」
えー嘘!顔に出てるの!
私は手を両頬にあてて隠す。
「あ〜もう〜アーチ、団長をからかったわね!処罰を与えるんだから〜」
「そんなのズルいよ!団長」
私は感情に任せてアーチとじゃれ合ってしまった。恥ずかしい……はぁ〜もう恥ずかしいついでに言っちゃおう。
私は彼と向き合う。
「あのさ〜君……うん違うわね。タクトくん私達それに聖女様を守ってくれてありがとう。もしも君が居なかったらアーチやレアリーを失っていたかもしれない。そうすれば私も正常ではいられなかっただろう。タクトくん君には感謝しても感謝しきれない恩が出来た。騎士としてこの恩、必ずいつかお返しします」
私の言葉にアーチやレアリー、そして他の団員も頭を下げ礼を述べた。
「うっ…良かったです。少しはお役に立てたのですね。正直その言葉を頂いただけで胸がいっぱいに感激でございます!」
(やったーやっと優しい言葉をかけてくれたぞ!これであのピリピリした視線を受けなくてすむぞ!苦労したけど頑張ったかいがあった。感動!!!)
なぜかしらタクトくんの反応が少し変だけどだけど、すごく感激してくれているわ。
「ええ、そんな風に思ってくれて嬉しいわ。あなたの力はとても貴重よ!正しき行いをするよう切に願うわ」
タクトくんもしもあなたが聖騎士団に入隊するのであればその時は私が面倒を見てあげてもいいわね!
「分かりました!自分の正義を貫きます」
うん、私の言葉がしっかりと伝わったようね。人って見る角度によって違うって言うけど、良いヤツじゃない。アイリスの件は注意するけど悪くないわ。
「そうだ!何かボク嬉しくなっちゃたから、特別にデザートも出しちゃいま~す!」
デザート?こんな森の中で?果物か何かかしら……
そんなことを考えながら、さっきの料理を思い出し期待が膨れ上がっている私が居た。
「ちょっと良いところのやつにしよ〜っと、これに決めた!チーズガー◯ン堂の濃厚ベイクドチーズケーキだ!」
綺麗なお皿に乗った……ケーキ?
白いクリームがまだ塗られていないのかしら?
聞いてみたのだがこれが完成、少し味気ない気がするけど、これも美味しいのかしら?
私はおもむろにケーキを口に入れた。
◆タクトの視点
さっきまで嫌われた態度をされていたところから考えれば大躍進を達成した俺は少々調子に乗っていた。あまり良く考えずタブレットを使い、自らデザートを出し、そして奮発して高級ケーキを出してしまった。
やらかした感は否めないが悪い方向に行くことはないはず、おっ!ルナさんがケーキを食べるぞ!どんな顔をするのかな。
……え!?
ルナさんは少し頬を赤くして呆けている。
……ん?
ルナさんは立ち上がるが足がおぼつかない。
……あ!危ない。
ルナさんは倒れそうになり俺は抱き止める。
「大丈夫ですか!ルナさん」
「タクト……(ケーキ)……好き!」
「うぇーーー!?」
好感度上がりまくりですかーー。
この後周りの人達は大騒ぎ、堅物団長がとうとうだの独り身返上だの、好き勝手なことを言っていた。その後覚醒したルナさんに制裁を受ける。主にアーチさんが………
その時、木の上から俺達を狙った恐ろしい者達が降りて来た。