第95話 死の森の主
死の森と言われる深い森、魔物が多く生息し、そこを敢えて通る者はいない。しかし流石はイリス教聖騎士団のエリート達、魔物を物ともせず排除していった。このペースで進むことが出来れば一日、二日でこの森を抜けることが出来るらしい。
「それにしても助かりました!帰り道が分からなくて適当歩いていたので、しかもあの時ボクって帰る方向と逆に歩いていたみたいで……ルナさん達に会えて本当に運が良かったです」
「あんたバカなのですか?帰り道が分からなくなるくらいなら、こんな森に入るんじゃありません」
「はい、すんません……」
俺はルナさんにコミュニケーションを取ろうと話しかけている。でも上手くいきませ〜ん!ほとんど「あんたバカなの?」で返され罵倒される。溝は深まるばかり……
「もう〜団長はもっと優しく出来ないんですか〜それになんかいつもより大分トゲトゲしいですよ?」
アーチさんがフォローを入れてくれた。
「な!何を言っているんだ。アーチ、私はいつも通りよ!変な勘違いしないで!」
「えーホントですか〜、団長日頃は冷静沈着なのに妹さんのことになるとすぐに我を忘れるじゃないですか〜、今回の任務だって妹さんとこれからはずっと一緒に居れる!ヤッホーイってスキップしている姿が何人もの団員に目撃されているんですからね」
「な、な、な、……そんなことはしていないぞ!それは団員の勘違いかアーチの聞き間違いよ!」
「そんな訳ないでしょうが、まったくこの団長は…」
こうやって団員と話をするのルナさんを見ると思っていたよりずっと堅くないじゃないか、これならまだ親密度アップは可能か!ただそれは一度置いといて、気になる一言があったな。聞いてみようかな。
「あの〜アイリスはルナさんと一緒に住まわれるのですか?」
「う〜ん、ちょっと違うよ!アイリスちゃんがセドリック家を出て教会に入ることになったから、これからはぐっと会いに行きやすくなるわけよ」
「え!?ちょっと待って下さい!アイリスがなんで?……わざわざ家を出なくてもイリス教には入れるし、それにマルクトには大きな教会もあるから働きたかったらそこで十分じゃ……」
「う〜ん、それがそうもいかないの、アイリスちゃんは聖女になるための修行を受けないといけないからそれはどこでもいいってことはないの。暫くは見習いとして聖女様の付き人をすることになるのかしら?」
ん?聖女になるための修行、それをアイリスが受ける。つまりそれはいずれアイリスが聖女様になるってことか!?
「あの〜アイリスは次代の聖女様なのですか?」
「うんとね!そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない!」
どう言うこと?アーチさんの説明は結構まどろっこしい。
そこにレアリーさんが横から口を出す。
「もう〜アーチ、焦らすような言い方は止めなさい」
「え〜普通に説明してるよ〜」
不満げなアーチさん。
「タクトくん、アイリスちゃんは聖女候補の一人なの、だから正確には聖女になるのは決まってないのよ」
「あ〜なるほど、そう言うことですか」
「アイリスちゃんは聖女としての資質があると聖女様は判断された。あとはアイリスちゃん以外に居る候補二人とこの後出て来る聖女候補の中で女神イリス様が決めることになるわね!どう分かったタクトくん」
「はい!ご説明ありがとうございます!レアリーさん、それとアーチさん」
俺はお礼の挨拶をする。
「でもそれならルナさんは機嫌が良いのでわ?」
「嫉妬ね!」
「嫉妬よ!」
「何を言う!アイリスがこんな男になびくわけ無いでしょ。私のかわいい!かわいい!妹だぞ!万が一そんなことがあれば………法の下に裁こう」
それは法の下じゃないです。ただの嫉妬です。
「団長、団体さんがいらっしゃいましたよ」
レアリーさんが魔物の大群がこちらに向かって来るのをスキルで察知、一分後に魔物が次々と現れ襲って来た。
かなりの数ではあったがルナさん達は陣形をしっかりと取り馬車を守り、的確な指示のもとで対応、着実に倒していったのだから一匹だけ見たことのない魔物がいた。
「あれってまさか!この森の主じゃない、見た目が情報と一致するんだけど」
その魔物にいち早く気がついたのはアーチさんそしてその瞬間、何かがアーチさんを貫いた。
「アーチー!」
レアリーさんはアーチさんの下に走る。
「レアリー!左!」
ルナさんの声に反応し盾を構える。
何かが光った。そう思った時には盾を貫き腹部を貫いたレーザーの様なものが見えた。
「レアリー、くっ」
一瞬駆け寄ろうとしたがルナさんは足を止める。
仲間に駆け寄りたいが、助けたいならまずはアイツを倒さないと、敵は一体、さっきのアーチさんの一言から推測するに森の主と言われるだけあって強いんだろうけど。見た目はヒョロっとしたオーガ、オーガと言えば筋骨隆々のイメージなんだけど近接タイプではないも言うことか!
「団長!あいつから絶対に目を離さないでー…うっ」
良かったーアーチさん死んでなかった。
腹部から出血をしているようだが、致命傷ではなかったようだ。良く見るとレアリーさんも、だけどこのまま出血したら命に関わる。急いで治療をしないと。
俺はヘルメットと手袋を装着、もしものことを考えて常に自分とオーガの間に空間障壁張って、これで安全だね!
俺はそそくさとアーチの下に行く。
「ダメだよ!タクトくん来ないでー!」
アーチさんの声に反応したのか、またピカッと光った。でも特に痛くもないし問題なさそうだ。早くアーチさんの治療をしないと。
傍まで行くとなぜかアーチさんが唖然としていた。
「タクトくんあなた……」
「アーチさん喋らないで、今治療しますんで、傷口を見せて下さい」
「え!でも…」
「アーチさん早くして下さい」
「タクトくんって案外強引なんだね〜」
アーチさんはおもむろに上着を捲り傷口を見せてくれたのだが、結構際どい位置で少し下の方もズラしてくれた。ダメだぞオレ!やらしいこと考えている暇はないだろうが、俺は自分を律して治療にあたる。ま〜治療と言っても絆創膏を貼るだけなんだけどね。
「はい!これで取り敢えず大丈夫」
「うん、ありがとう、でもこの紙なに?」
「ま〜気にしないで下さい。それにしてもピカピカ
してウザいですね」
アーチさんの治療をしている間にずっと光っていたけど、目がチカチカするって〜の!
「ちょっと!?タクトくんヤバい!」
え?何が?、俺はアーチさんの視線を見て後ろを振り向くとそこにはガリガリオークが口をピカピカさせて空間障壁に張り付いていた。
「うわぁ!?…なんだコイツ、何してるんだ!」
俺は驚き尻もちをついた。アイテテテ〜。
それにしても何してるんだ。こいつは……口をピカピカさせてるけど、まさか攻撃を口から出していたのか?攻撃が速くてよく見えていなかったけど、なるほど空間障壁を破れないんだな。
「フッ…お前如きの攻撃など効かんわ!
破れるもんなら破ってみろ〜アッハッハ〜」
笑って挑発してやったわ〜
悔しかってる。悔しがってる。
「あのさ〜タクトくん」
「はい、なんです?一応取り込み中ですけど」
「でも大丈夫そうだよね〜」
「ま〜そうですね。それで何ですか?」
「その魔物なんだけど、この森の主って言われて恐れられてるの」
うん、さっきアーチさんが教えてくれたよね。
「それでね。なんでそんなに恐れられているかって言うと防げないのよ。そいつの攻撃……」
う、うん……なるほど……防げないのね。
「そいつの名はホワイトオーガ、光を収束させどんな頑丈な盾をも貫く高速の光で数々の冒険者を殺してきた。『光の角を持つオーガ』と恐れられているんだけど……」
あ〜道理でガタイの割に角が大きいと思った。確かによ〜く見ていると角がたま〜に光ってる。あそこで光を集めているのかな〜
「だからね。タクトくんみたいに角を観察する余裕なんてないのよ」
あ!すいません、気になっちゃって……
その瞬間!「うわぁーー!」
俺の叫び声が木霊した。
あービックリした〜。だって突然オーガの首が飛んだんだもん!驚くでしょ。
「あなた達何をしてるのよ」
オーガが倒れて現れたのは、呆れた顔をしたルナさんだった。これは怒られるヤツか?
続く……