第83話 俺の勘がそう言っている
◆タクトの視点
おっしゃー間に合った!
敵はどこだ!こっちは準備万端だぞ!
俺と警備隊の人達は魔物の大群を探し回っていた。しかし一向に見つかる気配がない。まさか!?相手は高度な潜伏能力を持った魔物なのか!もしもそうであればこれ程危険なことはない!慎重に行動しないと、それから暫く歩くと俺がゴーレムに襲われた地点に戻って来ていた。
あ!あそこに居るのはイグニスさん、良かった〜木のばあさんは倒したのか、流石は勇者だ。
警備隊長のラスタウルさんや警備隊の人達が騒いでいた。
「何だこれは!?こいつらが魔物!確かに凄まじい数、しかもゴーレムだと!………こんな魔物が押し寄せていたら…………」
ん?………魔物?何のことだろう。
周りを見回しても石がたくさん転がっているだけでこれはゴーレムの残骸でまも…の?……考えてみるとゴーレムも魔物だぞ!しかもここにあるのは砕いたからもう良くわからないけど、三百回くらいハンマーで殴って倒した気が………あ!もしかして。
俺の身体からダラダラと汗が流れる。
やっばー……やらかした。
その時、警備隊長のラスタウルさんがイグニスさんと話をしている。
「……………そのありがとう御座います。なんと感謝すれば良いのか、流石は勇者様です!」
あ!そっか、ここにイグニスさんが居て魔物が倒されていたら普通イグニスさんが倒したと思うよな。………待てよ!と言うことはこれを殺ったのがイグニスさんであればなんの違和感もない。
俺はこの話に乗っかることにした。
「流石はイグニスさん強い!こんなにたくさんのゴーレムを倒すなんて!」
すごいすごいと子どものように騒いで褒めまくる。
クックック、これで上手くいったぞ!これで安心安心っと!
ガシッ………あれ?
俺はなぜかイグニスさんに首根っこ掴まれて持ち上げられている。
「タクト話がある。飯でも食べながら話をしような!」
イグニスさんは警備隊に一言挨拶して俺を連れて別の場所に移動した。
「ここまでこれば大丈夫だろう。ほれ〜」
俺はぽ〜いと投げられた。
なんでこんなところに連れてこられたんだ?
「ほらよ!」
イグニスさんはポイッと何かを投げ、それを俺は受け止めた。中を見ると干し肉が入っている。……まさかこれが食事ですか?
イグニスさんは豪快にブチブチと噛みちぎり食べている。俺も真似をして噛んだが……固い。味は悪くないけどアゴが痛くなりそうだ。
「タクトお前が魔物を殺ったか!」
干し肉を食べながら俺を見る。
「イグニスさん、子どものボクが倒せるのはゴブリンくらいですよ。あんな大きなゴーレムは倒せません」
「そうか、あまり言いたくないのか」
「いや、そうじゃ……」
俺が否定しようとした時、俺の首に向かって横薙ぎに剣がくり出される。俺は手袋の空間障壁の力で受け止めた。
「ガキーン」っと音がする。
「何のつもりですか?……危ないんですけど」
俺はイグニスさんに真意を聞きたかった。
「どうやって止めたか分からないが、タクト、それがお前の力か?」
「ま〜スキルの一部ですよ!それよりもなんでこんなことをするんですか!」
「しっかりと確かめたくてな。お前の実力を、もちろんこれだけでは判かりはしない。だけど予測は出来る。………タクトお前はまだまだ未熟だなそれであのハイ・ゴーレムの集団を倒せたとは思えない」
「それならボクじゃないで良いじゃないですか!」
「それがそうもいかない。何故なら………俺の勘がそう言っているから……」
そんな根拠のないこと言われても知らん!
俺は呆れた顔をしていた。
「ま〜そんな顔すんなって!俺の勘は意外と合ってる。それに今回の件で俺からはとやかく言うつもりはない。だが一つだけで聞かせてくれ」
「あ…はいなんでしょうか?」
「なんで魔物を倒したことを名乗り出ない。出ればお前は町の英雄として敬われるんだぞ。そうなりたいとは思わないのか?」
「う〜ん……なりたくない訳じゃないと思うんですけど、どっちかって言うと静かに平穏な日々を過ごしたいと言いますか、つまり面倒くさいです………」
「…………クッ……クッハハハ……そうか英雄は面倒くさいか!」
イグニスさんがメッチャ笑ってるけど、さっきの言い方……勘違いされてないか?
「イグニスさん、ボクは別に英雄になりたくないとは言ってないですからね!英雄は凄いんですから!」
俺は勘違いされたと思い弁解する。
「わるいわるい……別に怒ってねえよ!昔を思い出した。かつてそれと同じことを言ってたくだらない男のことをな!」
イグニスさんは何が面白かったのか、その後、何度か思い出し笑いをしてご機嫌だった。
それから町に戻り着いたと思ったらノルンに捕まり魔物騒動について細かく追求された。
………………▽
◆イグニスの視点
魔物討伐を終えた俺はバロンの屋敷に戻ると、
「帰ったかイグニス」
「バロン……もう帰ってたのか?」
「さっさと帰って来たさ、興味はないからな、イグニス……良い酒を買ってきた一杯どうだ」
「いいな〜一杯と言わずいっぱいくれ〜」
「ハハハ……お前にいっぱい飲ませたら、この町の酒がなくなる。行くぞイグニス」
俺はバロンと執務室に向う。
「バロンこんなところで飲むのかよ!仕事でもしながら飲むのか〜」
「仕事はしないさ……ま〜完全には間違ってないがな」
バロンは少し強めのウイスキーの様なお酒を俺に渡すと自分のグラスに酒を注ぎ一気に飲み干した。
「おいおい、どうした!お前らしくない飲み方が、それは俺の飲み方だぞ!」
俺もグイッとグラスの酒を一気に飲み干した。
「ぷはぁ〜……うめぇー………どうしたそんなにイラついて……呼び出された件か?」
「あ〜そうだ!」
バロンはグラスを握りしめる。……怒ってるな。
「イグニス、まだ礼を言ってなかったな。この町を救ってくれてありがとうな!本当に助かった」
バロンは頭を下げるが止めてくれとすぐに俺は止めされる。そもそも俺は大したことはしていない、本当ならタクトに言ってやってくれと言いたいところだが、ここでの俺がバラすのはマズイだろう。
「それで何があった?確かどこぞの貴族に呼び出されたんだよな!」
「……あいつら、ノルンを差し出せと言いやがった!」