第81話 急げ!走れ!助けを呼ぶんだ!
ドスンドスンと大きな音を立てて飛び上がり襲って来たゴーレム、その巨体からは考えられない跳躍をして拳を叩きつける。
「なんだよこいつは!ゴーレムとか普通ダンジョンとかから出て来ないだろう!邪魔すんな!」
俺の急いでいたためイライラする。
そのゴーレムは突進してくる。俺は即座にヘルメットと手袋をつけて戦闘態勢に入った。
ドスンっと重い音が衝突する音が響く。
俺は空間障壁でゴーレムを受け止め、隙をつきハンマーで叩き空間圧縮して倒す。
「たくっ…邪魔すんな!こっちは急いでいるんだよ!」
ドスン、ドスン、ドスン、ドスン、ドスン、ドスン、ドスン、ドスン、ドスン、ドスン、ドスン
げっ……ワラワラとゴーレムが落ちてきたぞ!何なんたよこいつは!ふざけんな!
俺はそれから空間障壁と地の精霊魔法で壁を作りながらゴーレムの攻撃を躱し、ハンマーでモグラ叩きが如く叩きまくった!
「ふぅ〜……やっと終わった!大分ロスした、急いで町の人を呼ばないと!」
俺は再び町に向かって走り出す。
後ろには約三百体のゴーレムの残骸と魔石を残したことを気にせずに………
俺はノルンを呼びに屋敷に向かう。
「すいませんーー!ノルンどこだ〜」
俺は屋敷に入ると慌ててたせいもあり大分騒いで呼びかけてしまい。人が集まる。
「タクトくん、ダメじゃないか、ここはバロン男爵のお屋敷でありますよ。あなたはここの従業員としてそれで良いと思いますか?」
しまった……慌てすぎた。
すいません……でも……俺は行かなければ行けないんだ!
「すいません!ボク行きます!」
「コラ!待ちなさいタクトくん」
俺は執事長を振り切りノルンを探す。
居た!ノルンだ!
ノルンはスカーレット様に連れられて廊下を歩いているところを見つけた。
「ノルン〜やった!ちょっと来て!」
俺の視界は本当に狭まっていたと後で考えて思う。
俺はノルンの腕を掴み。スカーレット様から攫うように連れて行ってしまった。
この後スカーレット様から地獄の説教を受けることになるが、それは少し先の話である。
俺はノルンを屋敷から連れ出し走る。
「マッマッテヨ!タクト…急に…なによ」
なんとなくしどろもどろなノルン。
しかし今はそんなことを気にしてはいられない。そのまま引っ張って連れて行く。
着いたのは警備部隊が詰めている警備塔、ここに今警備隊長の居られるはずだ。
そうだ、入り前ににノルンに説明しておかないと訳が分からなくなる。
「ノルン、話がある!」
俺は真剣な顔でノルンに話しかける。
「ナッナニヨ……急に…連れ出して…何のつもり〜」
ノルンの顔が少し赤い、ずっと走りっぱなしだったから疲れさせてしまったか、すまないノルン、でも我慢してくれ、時間がないんだ!
「ノルン、実は………」
それから魔物の件、イグニスさんの件、そしてノルンにお願いしたい件を説明した。
ノルンは終始黙って聞いていたが、表情がどんどんと変わり、なんとなく怒っている?
「そう……分かったわ!それは急がないとね」
「協力してくれるかノルン、ありがとう」
「ええ、どういたしまして、でも後で殴るわ!」
「え!?なんで!」
何故か殴られることになってしまったが、それを含めても後回し、今はこの町の防衛が重要だ!……でも殴られるんだ……ガックリ。
ノルンと共に警備塔に入る。
「大変よ!魔物が町を襲いに来ているわ!ラスタウル隊長を呼んで!」
「何だって!!」
書類を作っている者、武器を手入れしている者、寝てサボっている者、全員がビクッと反応し、ノルンの前になり飛び出して来た。
そしてその中の一人が頭をポリポリとかきながら出て来る。
「ノルンお嬢様、あんまり騒がれると困るんですけどね〜みんなびっくりしてますよ」
「あ〜来たわねラスタウル、魔物が大群でこちらに向かっているわ!出撃よ!もちろん私も行くわ!」
ラスタウル隊長は、はぁ〜と大きなため息をつく。
「ノルンお嬢様、いい加減なことを言われては困ります。我々を混乱させないで下さい。もう子供ではありませんよね」
「なんですってー!ラスタウル私が嘘をついているとでも言うつもりーこっちは急いでいるのだから早くしなさい」
「いや、そう言われましても、未確認情報では我々は動けません!」
ビシッと言い切られノルンの怒りが頂点に達しようとしたので、後ろから羽交い締めにして止める。多分飛びかかると思ったから……
「ちょっと放しなさいよタクト!」
「落ち着けノルン、確かにこの人の言う通りだ。こっちには何の証拠もない。そのままついて来いじゃ聞いてくれないよ!ボクがもう少し説明するから待って!」
「う〜……分かったわよ!早くね!」
「はいはい、分かったよ!」
ノルンは仕方がないとなんとか落ち着き、下がってくれた。
「ラスタウル警備隊長、ボクの方から説明しますので聞いて下さい」
それからイグニス様を含めて説明をやや誇張して話したのだが……
「う〜んタクトくんが言ったことは分かったけど、悪いが兵は出せない」
「なんでですか!イグニス様が言っているんですよ!急がないと大変なんです!」
俺は必死に説得をする。
「確かにそうなんだが、それだけの規模の魔物を相手にするってことは、こちらの全戦力をもって当たらなければならない。しかしそうなったら、この町はその間どうなる?もしかしたら賊や別の魔物が攻めてくるかもしれない。だからどちらにしても動くことは出来ない」
「そ、そんな〜」
俺はガックリと肩を落とし膝をついて自分の無力さに嘆く。
「ちょっとタクトをイジメるようなことしないで!もう良いわよ!私達で魔物を討伐してやるんだから!」
「ちょ、ちょっと待って下さい!そんなことをされては困ります!もしもノルンお嬢様に何かあればバロン様に叱られます」
「そんなこと知ったこっちゃないわよ!さ〜……行きましょうタクト、全員私がぶった斬ってやるんだから!」
確かに最悪俺がそいつらを倒せば……ノルンを呼んだのは失敗だったな。でももう遅い。一緒に戦って貰うか……絶対にノルンは俺が守る。
俺は魔物の大群を相手にすることを決意する。
「分かったノルン行こう!」
俺とノルンが部屋を出ようとすると、兵士達が俺達を囲む様に行き先を塞ぐ。
「どう言うつもりラスタウル」
「ノルンお嬢様勝手な行動は止めて頂きたい」
「もうあなた達に用はないわ!勝手にやらせて貰う。もう手伝ってなんて言ってないでしょ!全員退きなさい!」
ノルンは怒鳴るように言葉を発し、何人かはビクついている。だけど退くものはいなかった。
「聞き分けがありませんな!あなたにもしものことがあれば大問題になります。ここは大人しくして頂きます!」
ラスタウル警備隊長の言葉を聞いたノルンは完全にキレた……もう止められない。
そこで突然部屋のドアが勢いよく開き一人の女性が入って来た。
「お!……お母様……」
ノルンの顔が引きつっていた。