第79話 説得までの道のり
俺は朝一からバロン様に魔物の大群が押し寄せて来ることを知らせる為、屋敷に向かったのだが……
マジかよ!……思い通りにいかないな〜
屋敷に着きバロン様を訪ねたのだが、突然昨日ある貴族の方に呼び出され町を出てしまったらしい。
こうなると少々面倒なことになった。魔物が押し寄せてくることを伝えてまともに取り合ってくれる人はバロン様しかいない。町の警備隊長や冒険者のみんなが耳を貸さないとは言わないが、それを鵜呑みにして大人数の人を集めてはくれないだろう。これは困ったぞ〜。
「お!よ〜ノルンの彼氏くんか、どうした?何かあったのか?……なんて聞くまでもないか、ノルンなら奥にいるぞ。呼んでやろうか」
火の勇者イグニス様が声をかけてくれた。なんともフレンドリーな人だけど、彼氏くんはやめて欲しい。ノルンに聞かれたらしばかれる。
………ちょっと待てよ!この件イグニス様に相談すれば良いのではないのか。
「イグニス様お話があります。少しお時間を頂けないでしょうか」
俺は真剣な顔で頭を下げお願いをする。
「おい!なんだよ。そんな固くなるなって、良いぜ。聞いてやる。話してみろ」
良し!離しを聞いてくれる。
俺は密かに拳でガッツポーズを取った。
「ほ〜う、なるほどな、それは一大事だが、バロンのヤツは居ないからな、どうすっかな!」
イグニス様は頭をボリボリとかきながら考えている。
「あの〜イグニス様が警備隊長に口添えして頂ければ……」
「いや、それは無理だろ。だってよ!俺はそいつを知らないんだぜ。どうやって信用させるんだよ」
「それはイグニス様の勇者の肩書があれば……」
「俺、そう言うの好きじゃないんだわ。それにお前が言ったことを俺も鵜呑みにはしてないからな、もちろん嘘をついているとも思っちゃういねぞ!」
やっぱりそうなるか、結局この情報の手どころがイリスにあることが問題なんだよな。女神の言葉なら誰もが疑わず信じるだろうけど、俺の言葉が又聞きになってしまうと一気に信用度が落ちる。
チッ……くそ!
俺は悔しそうな顔になっていた。
「ま〜そんな顔すんなよ!まずは俺達で偵察にでも行こうぜ!そしたらよ!俺が無理矢理にでもみんなを動かしてやる。だからな!……大丈夫だよ」
「イグニス様………」
「様は要らないぜ!タクト、そんじゃ〜ノルンに一言言っていくか」
「あ!ちょっと待って下さい」
俺はイグニスの腕を掴み止める。
「あ?どうした」
「出来ればノルンには黙って行きたいんです」
「あ?なんでだよ!あいつも着いて行きたいって絶対に言うぞ!」
「分かってます。だからですよ。ノルンにはあまり危険なことに突っ込んで欲しくないんです。いつも無謀なことをして危険な目にあうんですから」
イグニスはニンマリと顔をさせる。
「お〜お〜分かるぜ!好きな女には危険な目に合って欲しくない。男だぜタクト!俺には分かる。よっしゃ、執事の人に出掛けることだけ言ってさっさと行くぞタクト」
「はい、ありがとうございます。行くましょう」
何か勘違いをされているが、このまま黙っている方が話が早いので俺は何も言わなかった。
………………▽
それからイリスに言われた場所に向かい、その場所に大分近づいた頃だった、イグニスさんが突然止まった。
「タクトお前の言う通りだな。結構な数がいやがる」
イグニスさんが言った意味がよく分からなかった。なぜなら俺には周りにある木しか見えなかったからだ。
「イグニスさん……魔物が居るんですか?」
イグニスは僅かに顔を動かし肯定する。
「まったく分からんのかタクトよ!地の精霊に聞いてみよ。かなりの足音が聞こえる。それも音からして人ではない」
なるほどその手があったか!
ついでにニキの方を見ると、鼻を前足で触れており、どうやら匂いでニキも分かっている様子。
良かった!……いや良くはないんだけど。これでイグニスさんに町の人達を説得して貰える。
「イグニスさんそれじゃ〜戻りましょうか」
「いや……ダメだ!既に補足されている」
イグニスさんは剣を抜いた。
俺には分からないが近くに敵がいるのか?
周りが急に静かになり空気が変わった。
「まさかこのような場所に勇者が居るとは私もつくづくついていないものだ」
声は聞こえる。だけど姿は見えない。
「さっさと出て来い。消し炭にするぞ!」
イグニスさんは剣を目の前の木に向ける。
「オッホホ……バレておりましたか、やはり油断は出来ませんな〜」
木の木目の部分が少しずつ歪みそれが人の顔に変わっている。
「げぇ!?木の化け物!」
何か分からないが木が喋ってる〜
しかも……魔女みたいなばあさんだ!
「ケッ…口の聞き方がなってないクソガキだ〜後で食ってやるよ」
しわがれた声で狂気の一言を放ちより禍々しい顔つきに変わる。
こいつ前は戦った悪魔と同じような魔力を感じる。もしかしてこいつもゴエティアのメンバーか!
「おいばあさん!何しに来たか知らないが消し炭にされたくなかったら魔物を連れて帰りな」
ボッと剣に炎が灯る。触れるだけで大火傷を負うほどの熱量だ!
「ホッホッホ、熱い熱い止めておくれ、この歳には堪える。儂は木なんでね。燃えちまいそうだ」
木の根がもりあがり襲ってくる。それをイグニスさんは一振りで消し炭にした。
「木が火に勝てると思うなよ!」
イグニスさんは剣を構え前傾姿勢になっている。突撃するつもりだ!
「ヘッヘッヘ、良いよいくらでも燃やしてみな」
さっきとはまるで違う規模の量の木の根が現れた。
「ん!……これは少し面倒になりそうだな!タクト頼みがある」
「なんですか?」
「俺がこいつを抑える。急ぎ戻りこのことを町の者に伝えろ」
「いや、でも俺の言葉じゃ……」
「分かってはいる。それでも何とかしろ!俺の名を使えば蔑ろにはされんはずだ!俺のことはノルンに説明させれば聞くはずだ、被害を少しでも減らせ!」
イグニスさんのいつものあっけらかんとしたのりではなく真剣な話だ!これは行くしかない!
「イグニスさん、ボク……絶対に何とかしてみせます」
「お!その意気だ!いけーー」
俺は後ろに向き直し町に向かって走った。