第75話 少し強めって……人それぞれだね!
「それにしても物足りなくなっちゃた」
ノルンがつまらなさそうに剣を振る。
言いたいことはなんとなく分かる。
俺達はあれからさらに奥へと向かい。魔物を倒していたのだが、それぞれ慣れたことと確認していないがレベルが上がったことで、この森の魔物をあっさりと倒せるようになっていた。
「ノルン、お前はやっぱ違うぜ!俺も負けてられないぜ!」
タンクさんは楽しそう。魔物を次々と倒せてテンションが上がっているのか、ノルンと居られてテンションが上がっているのかは分からないが……
「そうね〜、私…あなた達を見くびってたわ。想像以上の成長スピードね!どうしましょうか〜もっと奥に行けば手頃なのいるかしら?」
ジェーさんは頬に手を当てに悩ましい顔をして考え始めた。
「ふ〜……ある程度レベルは上がったろうし、帰っても良いと思うんだけど、このまま帰るとノルンのことだから不完全に燃焼で帰ってあとが面倒くさいし……どうするかな……」
俺がボソッと漏らした声を聞いてかニキが、小さな声で話しかけて来た。
「な〜タクト少し強めの魔物が欲しいのだ?」
「ん?ま〜そうだな、あんまりここの森に強い魔物がいなくってさ、つまんないんだとさ」
「ふ〜ん…そうなのだ?なら呼ぼうか?少し強めの魔物」
「呼ぶ?……ニキは呼べるのか?」
俺はニキが言っている意味が良く分からなかったけど、このまま歩くのもしんどいしお願いした。
「ワァーーン」
ニキはワイルドな雄叫びをあげる。
もしかしたら魔物を呼び寄せる効果があるのかもしれない。つまり大量の魔物がここに向かっていると言うこと……これは気合を入れないとな。
……それから15分後
(なんでこうなったー!?)
俺達は全力で走って逃げていた。後ろからは凶暴な魔物の雄叫びが聞こえる。
(うわ〜助けてーー!)
……今から5分前
バサバサ、バサバサ、バサバサ…ドンドンドン。
…………みんなあまりにも非現実的なことが起きると反応出来ないと言うが、まさにそれが今起こっている。
「な〜ニキ、もしかしてだけどさ〜これを呼んだのか?」
「そうなのだ!前にタクトが戦ったヤツと同じ個体なのだ!物足りないと思ってこちらの人数と合わせて3匹にしておいたのだ!」
「そっか〜気を使ってくれたのか……」
本当はありがとうと言ってあげたいのだが、目の前の状況を考えるとどうしても言えなかった。
「みんな、無闇に動くんじゃないわよ!相手を刺激してはダメ、一瞬で消し炭にされるわ」
ジェーさんはゆっくりと剣を構える。
顔には恐怖からか汗が滲み出ているが、決して尻込みはせず戦う意思を感じさせていた。流石はドラゴンバスターの二つ名を持つ男。
でもきっと………3匹のドラゴンを同時に相手をしたことないだろうな〜
俺達の前に降り立った3匹の火竜は、ギロリとこちらを見て、餌の品定めでもしているのだろうか、動こうとはしない。
「みんな、良いかしら、私がなんとか囮になって注意を引くからその間に逃げなさい」
「師匠!?そんなことを言わないで下さい」
タンクさんの悲痛な言葉を聞き、ジェーさんは
「いいのあなたは生きなさい」と感動的なやり取りが始まる。
そんなことやってないで、何かいい方法を考えてほしい。
ん?……ノルンがおかしな動きをしている。
「ノルン、バカなことは考えていないだろうな〜」
ノルンの顔つきが変わっている。これは戦士の顔つきだ!
「仕方ないでしょ、こんなのどうにもならないわ。それならせめて一太刀でも良いからあいつに刻んでやるんだから!」
身体を震わせながらなんてことを言ってるんだよ。怖い時くらいは、もう少しそう言う顔をすれば良いのに、ノルンは剣士しなることを夢見ているけど、俺としてはノルンには安全な場所で平穏に暮らして欲しいと思っているから複雑な気分になる。
「ダメだ!全員逃げるぞ!ボクに任せて!」
俺は敢えて余裕を持った表情で言った。
………▽
「みんな……俺が走れって言ったら全力で後ろを振り向いて走るんだぞ!」
「タクト…お前本当に大丈夫なんだろうな〜」
タンクさんは不安で一杯と言った感じか、それも仕方ない、頼むから邪魔だけはしないでくれよな。
「…………みんなー走れーー……」
俺以外のみんなは振り返り走って逃げる。
俺は地の精霊に力を借り、砂を舞い上がらせドラゴンの視界を遮る。しかし当然の如くそれを翼を使い風を起こし吹き飛ばしに来た。
ま〜それは予想通りだ!
俺はプラスドライバーでビスを飛ばしドラゴンを空間固定した!
しかし……(やべー……1匹逃がした。)
上空を逃げたドラゴンはノルン達目掛けて急降下!ノルン達が危ない!
(くっそ〜間に合ってくれーー)
俺はヘルメットをかぶり走る。
ドラゴンがこちらに飛んでくることにいち早く気がついたジェーは、飛び上がりドラゴンを迎え打つ!
「はぁーー」
気合を入れた斬撃はドラゴンの肩口を斬り裂いだが完全には止まらず、ジェー目掛けて尻尾を振り回し、それをジェーは剣で受け止めるも吹き飛ばされてしまった。
「ししょ〜う!!」
涙を流しタンクは叫ぶ、そしてその横をノルンが通り抜けて行った。
「もう、戦うしかない!」
ノルンは数発ファイアボールを放ち、ドラゴンを牽制しつつ接近を試みるが、その考えは甘すぎた。
ドラゴンは火を吐き、ファイアボールを飲み込み、そのままノルンすらも消し炭にしようとしていた。
「い、いや………」
ノルンは死を覚悟した。
でもそこに一人の男が間に合った、
「あぶねー……間に合った〜」
少し気の抜けたその男はドラゴンの炎を難なく受け止めた。
「タクト……」
「いや〜ごめん……失敗しちゃった」
「何が……失敗しちゃったーよ!バカ!」
「ノルンさん、ちょっと待って、まだドラゴンの炎を受け止めてる最中だから」
やや萎れていたノルンは一転真っ赤な顔で怒り出し、俺に蹴りを入れてくる。
周りの状況を見てから行動して下さい!
かなり危険な状況には変わらないが、一匹くらいならドラゴンと言えど倒す自信があった俺は冷静に相手の姿を見ていた。
だけど、そこて思いもしない出来事が起こった。
ドラゴンが真っ二つに斬られ倒れていく。
そして、その後ろには一人の男が立っていた。
この男、一体何者なんだ!?