第61話 平穏な一日
「ふっ…はぁ〜あ……平穏な1日がは始まるぞ!」
俺は上半身を起こし大きく背伸びをする。
マルクトから戻り、ゆっくりと実家で過ごして最初の朝だ!なんと清々しいことか、俺は平穏を噛み締めていた。
俺はベッドから立ち上がるとニキが起きていたので散歩に誘う。
「お母さん、ニキと散歩に行ってくるね〜」
「気をつけて行ってくるのよ」
母さんは台所で料理を作りながら手を振って見送ってくれた。
散歩をしていると色んな人が声をかけてくれる。ニキはいつの間にかご近所さんの人気者、来るのが分かっておやつを準備して待っている人までいる。
「うみゃうみゃ、うまいのだ!」
ニキはニキでご満悦。良いことだ!
家に帰るとまずは植木鉢に刺さって寝ている先生を起こす。
先生は寝起きがあまり良くないので大概すぐに起きない。
「ローム先生朝ですよ〜起きてください」
「……………ぐぅ〜」
相変わらずことなので起こすのは手慣れたもの、まずに植木鉢に水を注ぐ、これは普通の人からすると布団を剥がされるようなもの、土(布団)を剥がされた先生はモジモジと身体を動かし、そのタイミングで引き抜くのだ。まだ寝ぼけている先生を手で持ちながら居間に向かうと、父さんと母さんが楽しそうに喋りながら料理をテーブルに置いていた。
「あ!ごめん遅くなっちゃた!」
しまった!いつより遅くなって手伝えなかった!
「ん?良いぞ、そんなことは気にするな」
「そうよ〜タクちゃんはゆっくりすれば良いの
これは母さんのお仕事よ!」
二人は優しく微笑み、許してくれた。
俺は母さんに言われるがまま椅子に座ると、
朝御飯を次々と置かれる。パンに目玉焼きにハム添え、それにサラダ、とっても美味しそう。
おっと!まずは先生を起こさないと、俺は先生をハムが乗っている皿の前に降ろす。すると……
「おー!ご飯なのじゃ〜美味しそう……ジュル……」
先生は今にも飛びつきそうになっているのだが、ここは意外としっかりしている。決してボク達より先に食べようとはしない。挨拶をするまでは我慢するのだ。ふふっと内心笑いながら、下ではニキが待った状態なので、さっさと朝御飯を食べますか!
「頂きます!」
先生とニキはガツガツと美味しそうにご飯を食べ、俺は父さんと母さんと和気あいあいと楽しく喋りながら食事をする。あ〜これこそ平穏だ〜とまたしても噛みしめる俺だった。
さ〜仕事だ!仕事、前世ではイヤイヤやっていた仕事だけど今は違う。バロン様の屋敷での仕事は雑用が主な仕事だったけど、なぜかイヤではない。何が違うのかを考えたこともあったけど未だに分からない。
「タクト、しっかり働きなさい!私のためにね!」
ノルンが偉そうに腕を組み現れる。
「…………はい、ノルンお嬢様……それでは失礼します」
俺は無表情で頭を下げて仕事に戻る。
「あ〜ちょっと待って!私が思っていたのと違うー」
ノルンは俺の首にしがみつく。
「お嬢様お戯れをよして下さい。仕事に戻りたいので」
「タクトこの喋り方を止めなさい!首絞めるわよ!」
「うぐぅ!」
首が締まってきた。クッ苦しい〜
俺はノルンの腕を叩きキブアップした。
「はぁ〜はぁ〜だいたいノルンは定期的にそう言う態度を取るけど、何がしたいの?」
「うぅ〜タクトが悪いのよ!私が思っているのと違う行動ばっかりするから〜」
ノルンがむくれて怒っているけど、こっちからすれば意味が分からない。1〜2ヶ月に1回くらいのペースで上から目線発言をする。実際ノルンは貴族様なので問題ないように思えるが、俺が貴族扱いすると怒るのだ!どっちだよ〜と叫びたくなる。
仕事の途中父さんからお使いを頼まれた。内容は神父さまのところに行って聖水で清められた薬草を頂いて来ること、すでに料金は支払ってあるので持って帰るだけだ。
俺は教会に向かった。
「神父さま〜居られませんか〜」
教会に着き中に入ると誰も居なかった。マルクトに比べると納屋くらい小さく感じるこの教会ではあるが、俺が生まれてから大変お世話になった場所、いつもなら何人かがイリス様に祈りを捧げて居るんだけどなんで誰も居ないんだろう?
「おい!うるさいぞ協会では静かにしろ!」
現れたのは神父さま息子のアポロンくん、タクトの幼馴染だ。
「あ!ごめんよアポロン、大声出して」
俺は素直に謝る。
「はぁ〜まぁ良い。親父は少し出ている。悪いがしばらく待っててくれ〜」
「あ!ちょっと待って神父さまじゃなくても良いんだ!薬草を取りに行く話を聞いていないかな〜」
「ん?……あ〜そう言えば朝親父が言ってたな。確か準備してあるから着いて来いよ!」
俺はアポロンに言われるがまま着いて行くと小部屋くらいの広さの部屋にたくさんの薬草が植えられていた。そしてその中央にはイリス様の石像が立ってまるで薬草を見守っているようだ。
「ここら辺のが収穫時期だな」
アポロンは薬草を抜き丁寧に箱に詰めていく。
「アポロンここってとっても清々しい空気が
流れているんだね」
「お!タクトにも分かるか、ここは親父が魔力を込めてイリス様に祈りを捧げることで特別に作った空間、聖なる力で満ちてるのさ」
「へー凄いや!流石は神父さま、もしかしてアポロンも出来るの?」
「ウグッ、………ま…まだだよ俺はまだ修行の身だ!」
アポロンは少しイラッとしている。聞いたらマズイ内容だったみたい。
アポロンは薬草を詰めるとそれを渡してくれた。
「ありがとうアポロン、それじゃ〜行くね!」
俺は屋敷に帰ろうと振り返るとガシッと肩を掴まれる。
「おいタクト……まさか教会に来てイリス様に祈りを捧げないなんてことはねぇ〜よな〜」
アポロンは凄まじい威圧をかけて俺を止める。そうだった!アポロンはイリス様のスーパー信者だった。これは断れん……
俺はアポロンに引っ張られ教会内の祭壇がある部屋に連れて行かれた。
「ほら、せっかく出し俺もイリス様に祈る。良いかタクト、全身全霊でイリス様に祈れ!」
イヤイヤ……そんなに強く祈る人なんてそんなにいないよ!そう思ったがアポロンはすでに全身全霊を持って祈りを捧げていた。ダメだきっとアポロンに言っても意味がない。俺は言われた通り膝を地面に着き祈りを捧げた。
イリス様どうか………祈りって何すれば良いんだ?あれかな?安全健康にとか祈っておけば良いかな〜それとも彼女が出来ますようにとか?いや、なんか煩悩丸だしじゃん。何にしようかな〜
(まずは神に感謝したら……)
(あ〜確かに、でも俺って神とか見たことないし否定はしないけど、不確かな物に頼るのはどうかと思うんだけどな〜)
(あら…神様は案外あなたのことを見守っているわよ!面白そうだしね!)
(え〜それはそれで恥ずかしいな〜……それに面白いってどう言うことよ?)
なんとなく声が聞こえたので心の中で呟いていたら、ついついツッコミを入れていた。
目を開けるとまたゴスロリ少女が椅子に座って見下ろしていた。
「やっと正面玄関から入って来たわね!」
ニコリと笑うその姿は神秘的に見えた。