第57話 子供の説得は大変です!
「タクトお帰りなの!」
「あ、うん…ただいま、もしかして待っててくれたの」
領主邸に戻るとアイリスとタリアさんが出迎えてくれた。
「この度はアイリス様をお救いして頂きありがとう御座います。私が不甲斐ないばかりにタクト殿やアイリス様には大変ご迷惑をお掛けしました。本当に申し訳御座いませんでした」
深々と頭を下げるタリアさん。
「や、やめて下さい!タリアさん。ボク達は無事に助かりましたし、それよりもタリアさんの方こそ大丈夫なんですか?かなり吹き飛ばされていたと思うんですけど」
確か俺の記憶では車にぶつかった時よりも激しくぶっ飛び方をしていたと思ったのだが……
「騎士として鍛えているからな!あのくらいどうと言うことはありません」
タリアさんは二の腕を出し力こぶを作る。女性にしてはかなりの大きなだ!
「うわーすごいですね。ボクなんてぷにぷにですもん」
自分の二の腕を出し、力こぶを作るが……触ったらぷにぷにで全然ダメだった!ガックリ。
「そんなことはありません!アイリスさまから少し聞きました。タクト殿が大活躍されたと!」
え!?……アイリスが何か話したの……
「すごかったなの!ビューっと走って、ドカンとぶっ飛ばすなの!」
…………たぶんこれ感じなら大丈夫だな。
でも、これ以上情報が流れるのは良くない。
「アイリス、悪いんだけど昨日のことは黙っておいてくれないかな〜」
「なんでなの?」
アイリスは首をコテンとかわいく傾け不思議がる。
「ボクさ〜あんまり目立つの好きじゃないからさ、騒ぎになると面倒なんだよ」
「…………ん〜……いやなの!」
「えー!?なんで!」
「タクトカッコ良かったなの!みんなにもっと知ってほしいなの〜」
かわいく両手を上げてバンザイしてはしゃぐアイリス、嬉しいんだけど、俺の平穏のためには黙っていてくれないと困る。どうしたものか……
「タクト殿…良いではないですか!もし良ければ王国騎士団に推薦しますが」
「いえ!いいです!ありがたいお言葉ですが遠慮させて頂きます」
そんなの絶対に嫌に決まっているだろう!危なくて、怖くて、大変な騎士団なんて平穏とは対極の世界だ!
「そうですか…もしも気が変わりましたら、いつでも言って下さい」
ダリアさんの目はマジで冗談をまったく言っている雰囲気じゃないぞ!……そんな目で見ないでーー!
「ねぇ!ねぇ!タクト、前みたいにビュンビュン速く走ってるタクトが見たいなの」
俺の手を掴みブンブンと振ってねだるアイリス。
「アイリス……それは出来ない!」
「えーーなんで?なんで?」
「アイリス……それはな……そっちの方がカッコイイから」
「………どう言うことなの?」
アイリスは分からず、うん?うん?う〜ん?と疑問符が3つくらい出て見える。
「聞いてくれアイリス、目立ったらダメなんだ!隠れてひっそりと、あくまで自分の利益のためではなく他人の為に働く、そう言うの人のことをヒーロー……正義の味方って言うんだ!ボクはそれになりたい、だからそのお願いは聞けない!」
アイリスはポカーンとしている。
「…………ふ〜ん……タクトはすごいなの!でもよくわかんない!私…タクトがすごいってみんなに言いたいなのー」
ガックリ……ダメだった…説得失敗……
「はぁ〜……アイリス頼む!二人の秘密ってことであんまり言わないでくれるかな〜」
仕方ない、シンプルに頼もう。アイリスも俺の嫌がることはしないだろう。
「ん〜ん〜……タクトと二人の秘密なの?」
「うん、二人の秘密だ!」
ま〜タリアさんが目の前に居るけどね。
「分かったなの!タクトと私の二人の秘密なの〜」
可愛く両手を上げてバンザイしてはしゃぐアイリス、あれ〜?上手くいったぞ!もしかして二人の秘密が良かったのか?
俺は首を傾げるが、アイリスが嬉しそうな姿を見て、ま〜良いかと考えるのを止めた。
それからアイリスと話をしながら領主邸の通路を歩いていると、領主邸のメイドに止められた。
「タクト様、ヴァルト辺境伯がお呼びです。大変申し訳ありませんが、ご足労願えませんでしょうか」
どうやら領主様が俺をお呼びだ。何を言われるのやら……なんて誤魔化そう………