第５３話 アイリスのお姉さんはお怒りです！
「あの〜それがどうだって言うの？」
「はぁ〜これを知らないのか！無知はこれだから困る」
シスコンは呆れて物も言えないとため息をつく。
正直ムカッとしたが、実際知らないので黙って受け入れた。
「タクトくんはあの紋章見たことないかな」
アンディーはどうやらあの短剣のことを知っているようだ。
「え……なんとなく見覚えはある気はするんだけど…」
「そうだろうね。それなりの町ならだいたいあるはずさ」
えーっと………ん〜……ふう？……はぁ？………あ！
分かった！この紋章、町の警備塔にあった！
「そう言うこと、ただあれは王国騎士団の紋章ではなく、法の番人…王国裁判団の紋章だよ。しかもその柄の紋章からするとイリス教聖騎士団で裁判官の資格を得たようだね。この資格を持つ者は国で数人程しかいない超エリートを意味している」
「え〜っとつまり超エリート様がすごいのは分かったけどだからどうなのよ？」
「そうだな、簡単に言うと彼女は裁判を行わず執行の許可を得ている。つまり私達が罪人と彼女が判断すればその場で斬られても文句は言えないと言うことさ〜」
「へー………それってヤバいじゃん！アンディー逃げた方がいいんじゃないか！」
「いやいや、何で私だけが犯罪者扱いされているんだい、彼女は君も含めて言っている」
「いやいや、ボク悪いことしないんで、一緒にしないで頂きたい」
「タクト……距離を離してきたね」
俺とアンディーは不毛なやりとりにイラついたのか、彼女の圧が強くなって来たので向き直る。
「お前達どうやら私を馬鹿にしているようだな、今すぐにお前達を叩き斬っても良いんだぞ！」
シスコンさんがお怒りのご様子、顔は見えませんが、さてどうしたものか、ここは変に話を取り繕うより正直に話した方が良いだろう。
「落ち着いてシスじゃない。えーっとルナさんで宜しかったかな？」
「それで構わない。すべてを正直に話せ！」
俺はルナさんにこれまでの経緯を説明した。パーティー会場でアイリスがローブの男に攫われたこと、それを追いかけて偶然会ったアンディーと協力してアイリスを助けたこと、そしてアイリスを生贄にゴエティアが悪魔を召喚しようとしたことを。
「ふ、ふ、ふ、ふざけるな！アイリスを生贄にするだと、ゴエティアの奴ら全員ぶっ殺してやる！」
ヒィ〜……ルナさんがお怒りだ〜狂ったようにガンガン周りの物に当たっている。こぇ〜、だけど大事な妹さんが酷い目に遭わされたわけで怒るのは当たり前か、でもちょっと落ち着いてー！
「アンディーこれはどうすれば良いんだ？」
「知らん、取り敢えず逃げよう」
「これは逃げたら追いかけられるやつじゃないのか」
「だがここに居ても斬られそうだぞ」
再びどうしたものかと考えていると、トコトコトコと小走りでアイリスがやって来た。
「ルナお姉ちゃん、落ち着いて私はここに居るなの元気なの」
「おー天使だ！私の天使がここに降臨されたのだ」
ワナワナと身体を震わせて感動するルナさん。お怒りモードが一気に鎮静化、もう大丈夫そうだな。これからは全部アイリスに任せよう。そう俺は思った。
「あの〜なんだ、二人がアイリスを助けてくれたのだな、感謝する…ありがとう」
「タクトありがとうなの！もう一人のお兄ちゃんもありがとうなの！」
ふぅ〜二人から感謝され、なんとか話が出来る状態になったな。
「どういたしまして、それで早く戻りたいんだけど、そもそもここはどこなんだ？」
俺とアイリスは飛ばされて来たから、ここがどこか分からないし帰り道も分からない。
「あ〜ここかい、ここはマルクト北西ニ十キロほどに位置する森の中だよ」
アンディーが教えてくれた。でも改めて思うけどすごいな~領主邸から一瞬でその距離を移動したのか欲しいな〜その魔法。
「へーそんなに移動していたのか、ちなみにアンディーは瞬間移動出来たりするの？」
「そんな事出来る訳無いだろ。この手の移動手段は多く発見はされているが、それは長い歴史の中でだ。瞬間移動出来る魔法を扱えるのは王都の宮廷魔術師、しかも上位の者だけだろうね」
あ〜そっか、そうだよな瞬間移動出来れば便利だと思ったけど、でも待てよ！ルナさんは俺達が来てからそれ程の時間も経っていないのにここに居るってことは、出来るんじゃないか瞬間移動。
「あの〜ルナさん、もしかして瞬間移動出来たりしませんか？」
「いや、すまないが出来ない」
「え！？そうなんですか、それにしてはやけに早く救出に来れましたね。２０キロも離れているうえにどこに連れて行かれたか分からなかったはずなのに」
「確かにアイリスが攫われたと聞き、急いでペガサスを飛ばして来た。場所に関してはアイリスにネックレスを渡してある。すぐに分かった」
「そうですか………ん？」
あれ、今気になることを行ったよな〜なんでネックレスで場所が分かるんだ？……もしかして。
「ルナさん、アイリスが持っているネックレスに発振器を付けているんですか？」
「もちろんだ！妹を守るためには当然なことだろう。常に位置を把握し、アイリスに害する者をいち早く排除、そしていつでも会えるようにな」
この人、本当にダメなシスコンだ！
妹に関しては超自己中心的な考えで行動している。誰だよ！さっきまで犯罪者扱いしていたのは、あんたの方が余っ程危ない行動だよ！このストーカー野郎が！
………とは言えないので黙っておくが、なるほど瞬間移動は出来ないのか、それにペガサスでは精々もう一人乗れるくらいだな。
「ルナさん、申し訳ないですけど、アイリスを連れて先に戻って頂けませんか！」
「あ〜それはもちろん構わないと言うか、そうしたいのだが良いのか？」
「ええ、もちろん、アイリスの安全が第一ですからね」
「おー分かるかね！君、アイリスの、妹の素晴らしさを！」
ルナさんは俺の手を掴んでブンブンと振ってアイリスの素晴らしさについて語り出した。いや、ちょっと待って、俺は君とは違うからアイリス信者じゃないから〜
なんとか話を終わらせて、ルナさんにアイリスを連れて先に戻ってもらった。
「タクト〜先に行ってるから早く戻ってくるなの〜今度はお外にお出かけするなの〜」
アイリスが手を振って、かわいいな〜……良かった。元気が出てきたみたいだな。
それじゃ〜俺達も帰るか、２０キロ…結構遠いな。
「アンディーかえ……アンディーどうした？」
アンディーの方を見ると様子がおかしい、何かに警戒している？
「タクトくん動くな！今は危険だ！」
アンディーがマジな顔をしている。一体何があるって言うんだ？
「今晩はお兄ちゃん達」
薄暗い森の中から一人の少年が声をかけてきた。
