第51話 アイリス救出
◆アイリスの視点
何が起こったの?怖いよ〜。
私はパーティーでタクトとお話をしてると、顔色の良くないオジサンが来て、突然タクトをぶん投げたの、私は怖かったけどダリアが助けてくれた。オジサンが化け物に変わると色んなところから叫び声が聞こえて怖いよ〜
ダリアが私を守るために化け物と闘っている。私はがダリアの後ろに隠れていると、突然知らない人に腕を掴まれた。私は怖くって声をあげた。ダリアはその声を聞いて助けようとこちらに振り向く。
ダリアーダメ!後ろに!?
化け物がダリアを殴り吹き飛ばしてしまった。
「いやーーダリアー!」
私のせいでダリアが!ダリアが!
悲しんでいる時間すら私にはくれないの、
ローブを着た男が、私を連れて暗い暗い闇の中へ引っ張っぱって行った。
目が覚めると私は丸い籠の中に入れられて運ばれていた。
周りにはローブを着た顔色の悪いオジサン達いっぱい居る。
誰か……助けて……怖いよ〜
私は怖くて涙が止まらなくなった。
籠に入れられて連れて来られたのは、すごく広くて薄暗い場所、周りには松明で照らされた石像がユラユラと揺れて怖い。
少し進んだところに赤く光る魔法陣が描かれていた。私は籠ごとそこに置かれて、周りの男達は変な言葉を喋って祈りを捧げていた。
怖いよ〜助けて……パパ、ママ、ダリア……タクト
◆タクトの視点
俺はこのアジト最上階、生贄の間へと向かう。アイリスは今きっとすごく怯えているはず、急いで助けに行かないと。
俺はさらに階段を上がり続けると声が聞こえてきた。まるで呪文を言っているようなその声は不気味でしょうがなかった。
「居た!アイリスだ!」
アイリスは丸い籠に入れられて、魔法陣の中心に置かれていた。
早く助けに行きたいが、無闇に突っ込めば返り討ちにあってアイリスを助けられなくなる。ここは我慢しろ。
見る限り敵は10人、アイリスの周りを囲むように8人、こいつらは何かブツブツと呪文を唱えながら祈りを捧げている。あとの二人は祭壇で一人は大斧を磨き、もう一人は赤い仮面を付けて祭壇の準備をしていた。
「時は満ちた、我らが王に従い聖女の魂を捧げよう。穢れなき小娘に恐怖と絶望を与えよ。我らが王よ。どうかお受け取り下さい。そして我らにさらなるお力をお与え下さい」
祭壇いる男が言い終わると、大斧を持った男が立ち上がりアイリスに向かって歩き出した。
まさか!?それはダメだろうがー!
アイリスは男2人に籠から引き出されて、そのまま仰向けに倒され両手両足を押さえつけて固定される。
アイリスは恐怖で泣き叫び、その姿を見た男達は光悦した表情をうかべる。
「さー腕だ!まずは左腕を切り落とせ!」
祭壇に居る男の命令で、大斧を持った男が斧を振り上げる。
「グサッ」
斧を持った男の腕にビスが刺さる。
斧を振り下ろさないのでアイリスを押さえている男達は不審に思い見上げると、そこに一人の男が降り立った。
「アイリスに手を出すなバカ野郎共が!」
俺はアイリスを押さえている二人に蹴りを入れ吹き飛ばすとアイリスを抱えて敵から距離を取る。
「何者だ!貴様はどうやってここに……いや儀式を邪魔するとは生かしては返さんぞ!」
「うるさい!どうせ何やっても見つけたら殺すつもりだろ。それにだ!ボクの友達に酷いことをしてくれたじゃないか、ただで済むの思うなよ」
「クソガキが吠えよって、お前は挽き肉にして俺があとで喰ってやろう」
「はぁ!?何言ってるんだお前は!」
あまりにも恐ろしくそして理解の出来ない言動、こいつらは相当ヤバい組織のようだ。
「タ…ク…ト…?……タクト!タクト!タクトー!怖かったよ〜(泣)」
俺の胸に顔を擦りつけるように抱きつくアイリス。
「ヨ〜シヨシヨシ…よく頑張ったな!怖い思いしただろ。来るのが遅くなって悪かった。もっと早く来るべきだった」
俺はアイリスの頭を撫でながら、徐々に怒りが込み上げっていくのを感じた。
「アイリス、少し下がって待っててくれ、ボクがあのバカ共にお仕置きしてくるからな〜」
「ダ、ダメなの、逃げるなの、タクトが殺されちゃうなの」
アイリスは俺に抱きつき離してくれない。きっと俺のことを心配してくれているんだろう。
「アイリス、ボクは絶対に大丈夫、ボクって案外強いから、ボクのカッコいいところ見ててよな」
俺はアイリスをひと撫でして敵のいる方へと歩いて行く。
「ほぉーずいぶんと大見得を切ったものだ、それはこれを見ても言えるのかな、やれ!お前ら」
祭壇にいる仮面の男が指示すると、さっきまで居た普通の人間が黒い化け物に変異した。これはパーティーで暴れていた奴だ!
取り敢えずヘルメットを着用するとブンッと目の前に長いムチのような腕が通り過ぎた。化け物は一人一人個体によって腕の形状が違う。剣の形やハンマーみたいな奴までいる。
「上等だコノヤロー、全員ぺたんこにしてやるよ!カンナーハンマーくれー」
「タクト、ハンマーや、ホイな!」
俺は飛んで来たハンマーを受け取ると集中しイメージをそれぞれの個体につけてハンマーを振った。
戦いは九回振っただけで片付いた。全員ペッタンコに潰れてしまった。前も思ったけどえげつない威力、そして扱いの難しさ、離れた位置を攻撃するハンマーは空間把握がしっかりしないと上手く発動しない。その為今まであまり多用出来ていなかった。
「わーいすごいなの!タクトは超強いなの〜」
アイリスが両手をあげて飛び跳ねて喜んでいる。
笑顔が見れたのは良かったけど、あまり少女に見せる光景じゃないんだけど。
「驚いた!お前のようなクソガキがそんなスキルを持っていたとは、どうやら見えないが何らかの方法で遠距離攻撃をしているようだな。良いだろう私が相手だ、覚悟しろ」
仮面の男は仮面を外す。そしてそれを投げると叫ぶように唱える。
「我が契約に応えよ!我が王パイモン様に従える悪魔よ、王のために力を貸すのだ!」
男の顔は赤くなり額から二本の角が生える。まるで鬼のような姿に変異した。
「ガハハハハ、お前を喰い殺してやるぞ!」
鬼と化した男は傍にある石像を掴むと、こちらに向かって投げる。
まともに当たれば大怪我間違いなしだけど、ヘルメットの力で難なく躱す。
「今度はこっちの番だ!このままハンマーでぺしゃ………あれ?」
あの男が3人に……イヤ5人……イヤ10人に増えた!?
「どれが本物か分からなければ、そのハンマーで攻撃出来まい」
チッ、ちょっと目を離した隙に………なーんてな!
俺はメガネをかける。
「あ!左から3番目が本物ね!」
数十秒過去の映像を確認、そそくさと男が移動する姿を見ることが出来た。
「なに〜バカな!?なぜ分かった」
男は仰天しているが、そんなことは教えるわけがない。
「ま〜あの世で反省したら、いつか教えてやるかもな
『ハンマークラッシュ』」
男はペシャンコに潰れた。
「タクトーー」
俺に取り込むようにアイリスが抱きついて来た。
「タクト、カッコいい!すっごいすっごい強かったなの」
「ヘヘッ、そうだろボクって、結構強いんだ〜」
アイリスがあまりにも褒めてくれたから照れるぜ。
それからさっさとここをおさらばしたくて、アイリスと脱出を試みるのだが、まだ下の階層には多くの敵がいるはず、慎重に行かないと。
「う〜ニャムニャム………すこい……なの」
現在アイリスは俺の背中で眠っている。
かなり疲れていたので、気を失うように眠ってしまった。こんな時に……とは思うがあれだけのことがあったのだ。相当疲労しているはず、仕方ないことだな。
そろそろ下の階層のはず………なんだこりゃ〜!?
階段を降りた先には数十人…いや百人以上の人が斬られて転がっていた。全員ここの奴らだとは思うけど、誰がこんなことを、アンディーが倒してくれたのか?
俺は警戒しながら進んでいくと、そこには壁に磔にされたアンディーと白銀の騎士が立っていた。