第443話 現せし最後の敵、そしてボクの平穏な生活は続く
ネビエルのスキルボムが爆発するまで、残り数秒と言ったところだが、俺は冷静になるよう努めた。
なんせ失敗すれば発動しないどころか、場合によったら消えてしまう恐れがあるとイリスには脅されている。
作業服を使う。まずは心を静め、周囲に意識を向ける。ただし周囲に意識を向けると言っても見るのではなく感じ、そして空間を感知し認知する。これが作業服を使う下準備の一つ。
そしてここからが最もこのスキルの難しいところ。
まずはメガネをかける。
そして時を遡り自分の足跡を辿る。
視えた!感じろ!そして空間を支配するんだ!
空間を通して時を越える。
…………………▽
『作業服………時空間複写発動』
「うぉりゃー
りゃりゃりゃ…
りゃりゃりゃ…
りゃりゃりゃ…
りゃりゃりゃ…
りゃりゃりゃ…
りゃりゃりゃ…
りゃりゃりゃ…
りゃりゃりゃ…」
複数の人の声がそこらじゅうから広がる。
その声は同一人物で聞いていてちょっとキモい。
ま〜全員自分なんだけどね!
ネビエルの周りには五十人の俺がドリルを高速回転させながら突っ込む。周りにある羽を空間ごと破壊しながら全員でただだた前へと進む。
「終わりにしようネビエル。さようなら」
気は進まない。でも救うにはこれしかない。俺達はドリルをネビエルに向けて攻撃する。360度全方位の攻撃躱せるわけもない。ネビエルの悲しそうな叫び声を聞きながら、俺はその身体が光の粒子となって消えるまで回し続けた。
「はぁ〜やってらんねぇ〜。胸糞悪い」
人の悪意に触れ悲しみのあまり堕天使に堕ちた天使ネビエル、こう言っちゃ〜なんだけど成仏してください。
この時、俺は知らなかったけど、粒子となって消えたネビエルをイリスが回収、天使として転生させる。
「ふわぁ〜〜〜……よく寝たわ」
目の前に配管が現れ、目を擦りながらカンナが迫り上がってくる。
「のんきなことを、メッチャ疲れたぞ。少しは労ってくれよカンナさん」
「すまん!すまん!タクトはようやったわ。ウチはタクトならやれるって信じとったでぇー!」
「そうかい、それなら嬉しいよ!ほい!」
俺が軽く手を上げるとカンナがハイタッチして勝利を分かち合う。
「えへへ、二人は仲が良くて羨ましいな」
「ん?……アトラス動いて大丈夫か?無理すんな」
アトラスは足を引きずりながらこちらに歩いて来る。
「うん、大丈夫だよ。身体中が軋むように痛いけど、死ぬようなことはないから」
アトラスは大人の姿のままだ。ネビエルが離れれば元に戻るかと思ったけど、時間が経てば治るのか、それとももう元には………
「タクト、そんな難しい顔をしないで、この姿は自分のせいなんだから、君が気にすることじゃないよ」
アトラスの言う通りだけど、なんとか出来ないか、どうしても考えてしまう。
「それよりタクト、この勝負ボクの負けだよ。約束通り貴族や王族にこれ以上手は出さない。もちろん国の人達にもね」
スッキリとした様子のアトラスは笑顔で言った。
「おう。約束を守ってくて感謝するよ。本当ならお前には納得がいかないことだらけだろう。それでも止まってくれるなら、ありがとうだ」
「ふふっ、そうだね!納得がいかないことがいっぱいだよ。でも復讐からくる国の再生はきっと上手くはいかないだろうから、タクト、この国のことは頼んだよ」
「いや、それは断る!ボクは平穏な生活を過ごしたいんだ。これ以上王族だの貴族だのに関わりたくないし国なんか大きな物は背負いたくないね」
「えーー、タクトが王様やってくれたら、ボクも安心出来るのに〜」
「はっ!勝手なことを言うな!でもま〜少しはお前の願い叶えてやるよ」
「え?それってどう言う意味…え!?…………」
俺は配管を空中に設置、アトラスの真正面に穴の中が見えるようにする。そして中に居る人物を見たアトラスは動きを止めた。
「随分と大きくなったな。アトラス、私が死んでだいぶ時が経ったようだな」
「父さん………会いたかった。ボク……謝りたかったんだ。悲しくって寂しくって我慢が出来なかった。きっと父さんは復讐なんて望んでいないし、こんな酷いことまでして生き返られてほしいなんて思っていないと分かっていたのに………」
涙を流しながらアトラスは呟くように謝罪する。でもそんな姿を優しい眼差しで見守っていた。
「アトラスは優しいんだ。私のために苦しませてしまって本当にすまなかった」
「そんなことないよ父さん!全部ボクが悪いんだよ」
「いや〜私が悪いんだ」
「違う!ボクだよ!」
はっ!………似た者親子だな。
このままだと永遠に繰り返しそうだな。
「二人とも冷静になってくれ、このままだと話が進まないぞ」
「いや〜すまないタクトくん、つい感情的になってしまった」
アトラスの父親アペトスさんは頭をかきながら照れたようにしぐさをする。
「タクト本当にありがとう!父さんに会わせてくれるなんて」
「そんな大したことはないさ。父さんと好きなだけ話をすればいい、時間はボクが作ってやる。ただま〜あまり長くなり過ぎるなよ。アペトスさんが成仏しそこねるかもしれないからな」
「うん!分かった」
大人の姿になってもアトラスのしぐさは変わらず、俺は少し苦笑いしてしまう。
「おう。僕達は離れているから親子水入らずで話をしな」
そう言って振り返りカンナと移動しようとした時だった。こちらに向かって一人の女性が歩いて来ているのに気がついたのは……
………誰だ?
「見つけた。私はあなたが欲しい………」
消え入りそうな声で何かを言っている。
うつむきながら黒髪の長い女性はドレスのスカートを揺らしながらこちらに向かってゆっくりと歩いてくる。まるでホラー映画に出てきそうなおばけが想像出来る。
「えーーっとどちら様ですか?こっちはちょっと取り込んでて出来ればあとにして欲しいんですけど」
その女性はなにも答えない。でも変わりにアトラスが口を開く。
「タクトあの人………ソロモンだよ」
なに!?………俺は目を見開きその女性を見る。
不思議な気配だ。そこに居るのに何も感じない。
この人……もしかして幽霊じゃないのか?
「へぇーー……あなたがソロモンさん、お話はかねがね。お会い出来て光栄というべきか、それとも会いたくなかったというべきか、あんた一体何をしに来た」
彼女はゴエティアの創設者、アトラス達九王を倒した俺を倒しに来たのかもしれない。もしそうなら大ピンチだぞ!もう魔力が残ってない。
彼女はスーッと頭を上げ、少し頭を傾け口を開いた。
「あなたは死者の世界に行けるのかしら?」
「……………え!?あ!はい………うぎゃ!?」
ソロモンの質問に答えると………次の瞬間、まるで瞬間移動したかのように突然目の前にソロモンが現れびっくり!?ガシッと強い力で両肩を掴まれる。アイテテテ………
「あなたを私に頂戴!」
「んなもん出来るかー!いきなり何言ってるんだアンタは!」
「ん……それなら力尽くで……」
「ちょっと待てソロモン、慌てるな!まずは話をさせろ」
「ん!なにを話すと言うの……」
こんなこと言っておいてなんだが、話すことはまだ考えていない。だけど力尽くとか言われたら100%負ける。なんとかして落ち着かせないと、そもそもなんで彼女はあんなことを言った。彼女の目的はなんだ?…………いや待てよ。思い出した。
「もしかしてお姉さんに会いたいんですか?」
彼女はブンブンと首を縦に振る。
ぶっちゃけ見た目が怖いんだけど。一応あっていたみたい。それにしてもお姉さんって百年以上前に亡くなった方だと思うんだけど、まだあの世にいるのか?
「あの〜ソロモンさん、もしかするとお姉さんはすでに転生しているのでは………」
「そんなことは〜ないわ!」
ソロモンは目が飛び出んばかりに目を見開き、俺の顔を覗き込む。本当はこの人かなり美人なんだろうけど、化け物に食べられそうなレベルの恐怖「を感じさせる。
「そ!そうですよね。ソロモンさんがここに居ますもの。まだ未練があってあの世を彷徨ってますよ!うん!間違いない」
俺が慌てて肯定するとソロモンは満足そうに俺から離れた。
この後、俺は半強制的にソロモンのためにあの世に居るかも分からないお姉さんを探す旅に出る。それは恐ろしく過酷な旅でありマジな地獄だった。いったい俺の平穏な生活はいつになったら送れるのだろうか?
こうして俺のドタバタ生活は続く。
長い間ご愛読頂きありがとうございます(◡ω◡)
徐々にではありますが書けるようになれて嬉しく思います。次作はまだ書いてはいませんが、また絶対に投稿します。お暇な時間が御座いましたら是非読んでください。宜しくお願い致します。