第441話 拳を振る覚悟
はぁ〜………上手く行って良かった〜。
俺は内心ホッとしていた。
新スキル『作業服』
コイツがまた使い勝手が悪いこと悪いこと。
修行の際には何度も失敗したもんだ。
それに魔力の消費も尋常ではない。
それゆえにあまり多用出来るスキルではない。
本当に困ったスキルである。
だから今回は上手く発動して本当に助かった〜。
正直失敗していたらと思うと恐ろしい。
まだ戦いは終わってはいないけど、アトラスの胸に精密ドライバーを当てている。何かをしようとしても俺の方が絶対に速い、もう勝ちは見えている。
でも、一応確認しておこう。
「アトラスどうする?負けを認めないか……」
俺は優しい声で問いかける。
「そうみたいだね。ボクの負けか、はぁ〜全然こうなるなんて思わなかったよ。タクトは強いな〜」
アトラスは想いふけるようにして呟く。
「よし!それじゃ〜負けを認めるんだな!」
「うん!降参だよ。ボクの負けでいいよ。あ〜悔しいな〜。ボクも修行すれば良かったのかな〜?」
「ま〜そうかもな。オススメはしないけどな」
アトラスは負けを認めた。しかもあっさりと、もっとごねるかと思っていたから、少々拍子抜けだな。
アトラスが負けを認めたので、精密ドライバーを戻そうとするとなぜか止められる。
「タクトボクは負けたんだ。情けは無用だよ。だから最後までやってほしいかな」
アトラスが何を思ってそう言ったのか、深くは分からなかったけど、自分がやってきたことに責任を取ろうとしている。その表情は真剣なものだった。
だったら、俺は自分の出来ることをしないといけないな。
「そんじゃ〜覚悟は出来ているんだろうな!」
「うん!大丈夫、今は悪い気分じゃないから」
「そっか、それなら良い」
アトラスは真剣な顔をしていたけど、一瞬笑みを浮かべ、そしてまた真剣な顔に変わった。
俺はアトラスに視線を向け確認するように精密ドライバーを左に回す。アトラスほどの魔力の持ち主であれば、抵抗され弱らせる出力に限界があるはずなのに、今回は最後まで回すことが出来た(スキル完全無効化)。それはアトラスが負けを認め抵抗をしなかったことを意味した。
「なんか変な感じだな。力が入らないや。これがタクトのスキルなんだね。すごいな〜」
アトラスがえらく褒めてくれる。最初は絶対負けないようなことを言っていたのに、ここまで潔いと反応に困る。
ゾクッ!…………やっぱり来たか。
アトラスの中から滲み出るように、彼が今まで取り込んだ者達の魂が浮き出る。そしてその中でも一際は強い力を持った魂が現れた。
「ネビエル……」
堕天使ネビエルはアトラスから出ると空中に浮き、エネルギー体の身体を安定させていた。
「イリスからお前の話は聞いている。もう疲れただろ。お前は天に返してやるよ!」
俺は魔力を高め戦闘態勢に入ると作業服が淡い光を放つ。
作業服のスキルはまだ使い慣れていないから、こうやって魔力を事前に込めておくと成功率が上がる。
ネビエルは体勢が整うと、アークフィールドを展開し自身を包み込むと、バチバチと音を立てアークフィールドに帯電、図太い雷撃砲をこちらに向かって放つ。
俺はアトラスと自身の前に空間障壁を張りそれを受け止めた。予想があっていて良かった。ネビエルの攻撃には空間に干渉する力はない。だからそう簡単には空間障壁は破られないってわけよ!とは言え、長居は無用だ。俺は傍に配管を設置し、アトラスを抱えて穴に入る。空間転移で少し離れた位置に移動し、アトラスを岩にもたれさせ座らせた。
「そんじゃ〜ちょっくら言ってくるわ」
「うん!分かった………タクト面倒ばっかりかけてごめん」
「ん?良いって良いって、ネビエルが出て来るのは分かってやったことだ。お前が気にすることじゃないよ」
「フッ……そんなことないと思うけど、ありがとう。すごく助かっちゃった」
「ん〜ま〜謝られるよりかは感謝された方が良いな。そんじゃ〜改めて言ってくるけど、アトラス、まだ終わってかないから、ここで大人しくしていろよ」
「うん、心配しないで、間違っても自害して逃げようなんてこれっぽっちもしていないから……タクトいってらっしゃい」
俺はアトラスに軽く手を降ってネビエルが居る戦場へと向かった。
さて……どうやって倒そうか。
ネビエルの身体は二回りほど大きくなり、体長五メートルの化け物となっていた。アトラスから解放され今の堕天使ネビエルは何を思い行動しているのか?それは俺には分からない。でも俺は戦う。そこに救いがあると思い拳を振る覚悟をするのだ。