第440話 決着のとき……
アトラスとの格闘戦は熾烈を極めた。アトラスの一撃一撃が命を落とすほどの威力があり、そのプレッシャーは尋常な物ではない。しかし、だからこそ俺の気持ちが燃え上がるように熱くなって行く。俺自身が数々の死線を越え、異世界に来る前のただの一般人ではなく、一人の戦士に変わったことを感じる。
「喰らえハンマークラッシュ」
アトラスが拳を振り上げた瞬間を狙いハンマーを直接横っ腹にぶち込む。
「そうはさせないよ!」
アトラスは膝を突き出しハンマーを受け止める。普通なら膝が砕けそうなものだが、アトラスは平気そうな、いや…それどころか楽しそうな顔をしている。その今までにない変化に驚きつつも……なぜかワクワクしている自分もいた。
だからもう少しこの戦いを楽しみたいところだけど、実際はそんな余裕はない。魔力の大半を使っている。これ以上の長期戦は負ける可能性を高くしてしまう。
俺は精密ドライバーを取り出す。
いつも強敵を相手に大活躍の救世主のような道具。
この道具は空間内にあるものの出力調整が出来る。
これだけの接近戦なら当てるチャンスはある。
動きを止めてアトラスのユニークスキルスペースイーターの出力を弱める。
アトラスの動きは速く捉えるのは難しいと思えたが、動きのキレはなく素人に毛が生えた程度の動き、このことからまともに訓練を受けたことがないことが分かる。俺は精密ドライバーを当てるために大きな隙を作ることにした。
まずはナイフを取り出し最小限のモーション、手首のスナップだけで投げる。最小の動きであるが、ナイフのスキル空間加速で凄まじい速さでアトラスに向かって飛んでいく。
それをアトラスは難なく躱すが、やや体勢が崩れたところをビスを付けたプラスドライバーを突き出し追撃する。
しかし……あっさりと躱された。
多分やろうとしていたことが予測されていた。
流石にプラスドライバーを使い過ぎたか、ま〜いいけど、だって俺もここまでは予想通りだもん。
「アトラス……左に気をつけた方がいいぞ!」
俺の一言が一瞬フェイクに感じたろうが、気配を感じたアトラスは動かざるおえない。
俺がさっき投げたナイフは躱されてしまったが、その行き先に配管を設置し、アトラスの左後ろかり飛び出すように空間転移させていた。
「くっ」
アトラスは右後ろに回避しようとするが逃さない。
俺はプラスドライバーを手首を曲げてアトラスに向け、そして付けていたビスを飛ばす。流石に動きの速くなったアトラスでも躱すことはできず、ビスが腹部に刺さり動きを止める。
あと一撃!精密ドライバーを突き出し攻撃体勢に!
「そうはさせないよ!」
アトラスの身体から黒いオーラを湧き上がり、それは大きな口のように広がり俺を包み込もう(食べよう)としていた。
『スペースイーター』
アトラスのユニークスキル、取り込まれれば全てを奪われる。俺の精密ドライバーでスキル効果を下げるのが早いか、アトラスが俺を喰らい取り込むのが早いか勝負!
「ごめんね!ボクの勝ちだよ………タクト」
俺は黒いオーラに包まれ動けなくなっていた。ほんのほんの数センチの差であったが、俺の精密ドライバーは届かなかった。残念だ。残念で仕方ない。
…………と!普通なら思うだろう。
でも今の俺はそうではない。え!なんでだって?
それはせっかく準備したのに使えなかったらガッカリするだろ。特に新しい物のお披露目の時は………
…………『作業服発動』…………『時空間複写』
◆アトラスの視点
タクトを食べちゃった………この後どうしょうかな。
だってボクはタクトを取り込むつもりはない。
力を一時的に奪って負けを認めさせる。
「タクトごめんね。少し苦しいと思うけど我慢してね」
ボクは黒いオーラに包まれたタクトに手をかざし、タクトの力を取ろうとした時……後ろから声がした。
「アトラスさ〜ん、何をあやまっているのかな?」
この声は!?ボクは驚き勢いよく振り返る。
「なぁ!?……なんでここにタクトが……じゃ〜この中は……」
スペースイーターで捉えた黒いオーラの中を意識を飛ばし確認………居ない!……え!?いつの間に逃げられたんだ。
「油断は禁物だぞ!アトラスさん、ビスロック」
一瞬でボクの四肢にビスが刺さり空間に固定された。動けないボクにゆっくりと精密ドライバーを向け胸に突きつけるタクト………勝負はついた。
ボクの負けだよ。タクト………




