第439話 アトラスは不思議に思う
ライトをパイモンの額に当て光を照射、悪魔を浄化する光でパイモンを倒せるはずだったのだが、少し様子がおかしい。
「ん?……何も言わない」
今までの悪魔はライトの光を浴びると苦しみで叫び声やうめき声を出していたのに無言だ。まさか効いていない!?
俺は不安になりパイモンの顔を覗き込むと、ギロッと大きな目をこちらに向ける。
怒ってるわ!?……でもなんで効いていないんだ?
「やってくれおったな人間、最悪の気分である」
あら?もしかして、逆に冷静にさせちゃった。
流石は九王と言われる悪魔さん……強いわ。
「余にこれ程の無礼を働いたのだ。万死に値する。苦しみ燃え尽きよ」
もしかして身体を燃え上がらせて俺を焼くつもりだな!?
でも!……少し遅かったね。俺は案外冷静なのだ。
俺はパイモンのこめかみ精密ドライバーを当てる。
「悪いがあんたに用はない!消えてくれ」
パイモンの力を弱らせライトの照度を上げる。
パイモンの僅かうめき声が聴こえ、身体中に生えている羽がボロボロと剥がれていく。
「ごめんね!手間掛けさせちゃったみたいで」
「ホントだよ!さっさと目を覚ませってんだ!」
「うん!ありがとうタクト、でも良かったの?さっきならボクを倒すチャンスはいくらでもあったのに」
アトラスは不思議に思っていた。まるで自分を助けようとしているタクトの行動に、あまりにも理解が出来なかったから、ついぼーっとしてしまう。そしてタクトからの返答を聞き更に頭を混乱させる。
「はぁー!?随分とボクのことを舐めているようだな〜アトラス、それじゃ〜まるで油断や失敗した時しかお前に勝てないみたいじゃないか、言っておくが、ボクの真の実力を出せば余裕でお前を倒せるんだ!覚悟しろよ!」
俺はビシッとアトラスに指を向けて言ってやった。
俺の方が強いと、正直半分は虚勢だが、もう半分は違う。俺にはまだ秘策はある。
「……………タクトってバカなの?」
「なんだよ!随分な言いようだな。こっちはお前に勝つために地獄の修行をしてきたんだからな。不完全燃焼で終わらせるなよ」
「そっか……ボクのために……いいよ!ボクの全力を見せてあげる。ただその前にカンナちゃんを見てあげて」
アトラスはニッコリと笑う。
俺はその顔を見て薄い笑みを浮かべた。
「おう!サンキュー、それじゃ〜ちょっと行ってくるわ」
俺は軽くアトラスに手を振り、配管を設置、空間転移でカンナのところへ移動する。
移動した先ではカンナが地面にうつ伏せでぐったりとしていた。はぁ〜!?なんてことだ。俺は膝が砕けそうなほど衝撃を受けるも、早く…早く…カンナを助けないと、倒れそうな心を奮い立たせ、俺はカンナの下へと向かう。
「カンナー!カンナ起きてくれ!」
俺は必死に声をかける。
「…………」反応がない。
カンナ、そんなお前…もしかして……
「スゥ〜……スゥ~……スゥ〜」
……………はぁ?……これって寝てる?
定期的に上下動く身体と寝息……百パーだ!百パー寝てる。コノヤロウー!人を心配させておいて〜。
うつ伏せのカンナを起こすとなぜか半笑いで眠っていた。一体何の夢を見ているのやら、ややイラッとしながらも安堵が上回り俺は自然と笑みが溢れる。
俺はカンナの頭を撫でてゆっくりと地面に寝かせると、手をカンナの額に近づけ中指に力を入れる。
「デコピーン!」
「あ!いた〜!」
バチンっと良い音が響く。
カンナはガバっと上半身を起き上がらせ。一言。
「タクト〜もうちょっと寝かせてぇ〜やぁ〜」
コイツ寝ぼけてんな!はぁ〜!まぁいいや。
カンナの無事がよ〜く分かったからな。
俺はカンナを抱き上げ立ち上がる。配管で空間転移し離れた位置にカンナを寝かせると、再び戦場へと向かう。
「カンナちゃんは大丈夫だった?」
「ん?ま〜無事だったよ。予想以上に……」
「ん?よく分からないけど良かったよ。それじゃ〜始める?」
「おう。そうだな。準備は万端みたいだしな」
俺の冷や汗が止まらなくなって来た。
アトラスは更に変化していた。
彼はまだ子供だったはずなのに、その姿は青年の姿に変わっていた。身長が伸び短かった髪の毛が腰のあたりまで伸びている。
「ボクの意思が身体に影響を及ぼしたみたい。急に大きくなって驚いちゃったよ。でも今はそんなことはいいかな。早くタクトと闘いたい」
アトラスはぐぅっと前傾姿勢になり、その膨大な魔力を闘気に変える。
「来い!アトラス」 俺も戦闘態勢になる。
手袋で空間障壁を張る。ただし今回はいつものように広範囲ではなく腕に集中、まるでガントレットのように腕の守りを固める。
アトラスは俺に向かって飛び拳を振る。その拳には先程までと同じように空間への干渉力があり、俺が使う空間障壁が破壊されやすい。だから俺は拳が当たる少し手前の空間を瞬間的に障壁に変え受けた。すると障壁は破壊されたが、威力は激減しそれを受け止めることが出来た。
でも安心は出来ない。タイミングを誤れば大怪我確実の破壊力がある攻撃を精神を削るような精密な作業で対応しなければならないのだから。