第438話 殺意の塊
「シネーー!」
パイモンは獣のように唸り翼をこちらに向けて振り下ろす。俺は折れた腕を庇いながらもヘルメットで空間加速、横に躱した。しかし離れようとする俺に追撃、パイモンは横蹴りをする。俺は前面に空間障壁、蹴りを受け止めるが1秒でそれを破壊された。
「うげぇ!?このヤロウ〜」
俺は倒れるように背を反らしなんとか躱すが、このままだとマズイ、倒れそうな体勢で地の精霊に頼み地面を水平型エスカレーターのように動かし距離を取って逃げた。
「イチチ……たく、そろそろお腹一杯なんだけどな」
俺は折れた腕に絆創膏を貼りつつパイモンの更なる変異を警戒して見ていた。
パイモンの黒い翼が全身に侵食し、毛むくじゃらな赤い鳥の化け物に変異していた。
「今度は何なんだ?」
パイモンは翼を大きく広げ、火の灯った羽をミサイルのように俺に向かって直線的に飛ばして来る。
『ドリル(空間破砕)』
俺は警戒しながらその攻撃を受け止める。羽を受け切るとパイモンは更に追撃、開けた口が赤くなり、まるでレーザーのような高温の火炎放射を発射する。
『配管(空間転移)』
レーザーの直線上に配管を設置し、出口の配管を真上に向けて、レーザーを回避した。
「ん?………おかしいな……これだけか?」
今の攻撃はどちらもかなり高い威力を持っていたが、直線的で分かりやすく、防ぐにしても躱すにしても容易だった。どう言うつもりだ?
違和感を感じている俺をよそにパイモンが一直線にこちらに向かって飛んで来る。
『空間障壁』
自分の前面に展開、それをパイモンは紙を引き千切るようにあっさりと破壊される。これは力が魔力が強いと言うのが問題ではなく。感じる……空間に干渉する力を、これのせいで破壊されるのか、たぶん安全靴による空間反射も効きづらい。これは守るよりも攻めあるのみ。
俺はハンマーを片手に持つ、パイモンの動きは速いが空間加速を最大まで上げ対応、翼による斬撃に羽を飛ばす攻撃、そしてたま〜に火を吹く攻撃などなどの強烈な猛襲、それをギリギリところで躱し、時には空間障壁を一点集中され強度を上げて受け飛ばす。
「うおぉりゃーー!」
僅かな隙間を狙いハンマーを脇腹に叩き込む。
ゴンッと硬い物に当たる音と共にパイモンの身体が浮く。体勢を崩し更に大きな隙が出来た。
チャンスだ!今なら黒い翼が切断でき……あれ?
姿が大きく変わり過ぎて翼はどこ?分からん。
俺が思考を巡らせていると、逆に今度は俺が動きを止めてしまい隙を作ってしまった。パイモンの接近状態からの炎のブレスを直撃した。
「ゴオオオオオ…………………アチチチチチチ」
躱せないと思って、動きを止めていたからそのまま安全靴の空間反射で弾こうと思ったけど、案の定完全に反射は無理だった。アッチィ〜!
火傷を負いつつ走って逃げると、当然のように追いかけて来た。
「うわぁ〜ヤバい〜」
俺は逃げながらビスをばら撒き、触れると空間停止がかかるように自動制御をインプットする。
「グググッ…ドン……グググッ…ドン……」
パイモンはビスなどお構い無しでこちらに向かって来るが、ビスの効果でそれなりに動きを抑えられている。これなら引き離せる。
ほんの少しだけど考える時間が作れる。改めて考えよう。黒い翼を切り落とせば、アトラスを戻せると思っていたが、姿が変異したせいで黒い翼は全身を侵食し更に赤く変わった。お陰でどこを攻撃するべきか分からなくなった。なんとかアトラスを表に出す方法はないか?
「ボッ…ボッ…ボッ……………」
炎を纏った羽が飛んで来る。
あ〜ウザい!パイモンは攻撃の手を緩めない。
「シネ!シネ!シネ!………」
コイツは本当に殺意の塊かよ!それ以外何も感じないぞ!そうか!?だからこんなに直線的な攻撃ばっかり……コイツは俺を殺すことしか考えていない。
同時に思ったのは、パイモンがこれだけ表に出てるんだから、どこを攻撃するとか気にせず浄化の攻撃をして弱めれば良いんだ。
やや考え過ぎていたことに呆れつつも、何をすれば良いか決まれば、対応方法はそれほど難しくはない。
今のパイモンは冷静さがなく直線的な行動なので簡単に攻撃が当たるだろう。まずは地の精霊にお願いしてパイモンの足元を急上昇してもらう。するとパイモンは上空飛ばされ、俺も追うように飛び上がる。この時動きを止めるためプラスドライバーでビスを飛ばしながら飛ぶのだが、それだけでこの化け物を止めるのには物足りない。ハンマーを振り両サイドから空間圧縮、パイモンは空中で完全に動きを止めた。俺はパイモンの肩口に乗るとライトを顔面にぶち当てる。
「はぁ〜い!お待たせ〜………そろそろお目覚めの時間だよ。さっさと目を覚ませやぁ!アホンダラ!」
俺はライトのスイッチを入れる。