第436話 濃厚な死の気配
アトラスの様子が変わり大きな黒い拳がこちらに接近する。それを空間障壁で受け止めたのだが……
「なぁ!?」
「え!?」
黒い拳は空間障壁をあっさりと打ち破る。
「アカン!はぁ〜ふぅーー!」
カンナは息を浅く吸い息を俺に向かって吹いた。
「カンナおまえ!?」
俺はカンナの息に吹き飛ばされ離れていく。そして黒い拳がカンナを殴り飛ばした。
「カンナーーー!」
攻撃を受けたカンナは飛ばされ地面に激突、勢いよく転がり動きを止めた。こんな高い位置から落ちただけでもただではすまないのに殴り落とされた。くそ〜カンナ……生きていてくれ!今行く。
俺は空間障壁を足場にカンナが落ちた場所へ向かって飛ぶ。しかしそれを阻む者が現れた。
「くそー!退け!殺すぞ」
俺は焦りと怒りで見えていなかったが、この時アトラスの姿は大きく変貌していた。肌が褐色に変わり白い翼は小さくなり、かわりに黒い翼は3倍の大きさになっていた。
「余に向かって申す言葉とは思えぬ。死は嫌いではないが、自分ではなく。人に向けるものだな」
初めに思ったのは誰だ。
喋り方も声も違う。
そしてアトラスにはなかった濃厚な死の気配。
死の商人が放つものと同じ。
完全に別物に変わった。
「あんた誰だか知らないが退いてくれないか、早くカンナのところに行きたいんだ」
「うーん、さっき飛ばした彼女か、恐らく死んでいる放っておきなさい。それよりも……」
「うっせぇ!退け」
俺は構わず、そいつをハンマー(空間衝撃)で殴る。
「話は最後まで聞くものだぞ。若者よ」
ハンマー(空間衝撃)はあっさりと黒い翼で受け止められた。焦りで大雑把な攻撃ではあったが、こうもあっさりと受け止められるとは、俺はその危険性を感じ、徐々に頭が冷静になっていく。
「やるな。あんた、それでアトラスはどうした」
「アトラス少年か、少し眠ってもらっておる。余と同じようにな。もう起きることはないかもしれぬが」
口元がほんの少し上がり笑う少年
「そうか、それであんた誰だ!」
「おぉ、すまない。名を名乗っておらんかったな。余はパイモン…悪魔である」
「なん…だと!?」俺は驚く。
パイモン……ゴエティア九王の一人、アトラスが取り込んだはずなのに、さっき攻撃した白い翼が影響して、アトラスから主人格がパイモンに入れ替わったのか。
「どうした?そのように驚いて、余を知っておるのか?」
「あ!失礼……えーあなたは有名人ですよ。その名前はよく聞いています」
「そうであったか、それは嬉しく思う。それでそちは余の敵であるか」
「さ〜どうでしょうか、それよりも退いて頂けます?」
「うむ、それは出来ぬな」
「なんでですか、あなたそんなに不都合ではないでしょう」
「そちの言う通り不都合はない。しかしな、そちの顔を見ておるとゾクゾクするのだ。あの少女が心配であろう。こうしている間にも死へと向かっておるかもしれぬからな。余はそのような者を見ると喜びを感じるのだ。だから通せないのだ。すまんな」
「あんた謝る気ないだろう。はぁ〜それならいい、今度こそ力尽くで通らせて貰う」
まずはプラスドライバーでビスを連射し、相手のでかたを見つつ、一つでも当たり動きを止めたら、その大きく黒い翼をニッパーで切断してやる。そうすればアトラスの意識が戻るはず。
俺はビスをパイモンに向けて飛ばした。
パイモンはそれに対して手を前にかざし何かを唱える。
何をやったか分からなかった。
パイモンの手のひらに小さな炎が灯ったと思ったら、ビスが空中でゆっくりと停止する。
俺は未知の攻撃ゆえに動けずにいた。
「どうした。もう良いのか?それとも余の力に恐れを抱いたのか?分からぬとは怖かろう……」
やや支離滅裂な言葉の中に、相手を畏怖させ楽しもうとしていることが読み取れる。徐々にパイモンの性質、恐ろしさを感じていた。
「そ〜れ、受け取りなさい」
手のひらに灯していた炎をそっとこちらに向けて飛ばす。動きは速くない。十分に躱せるし、仮に受けても大した怪我にはならない攻撃なのに、それなのに先程の現象が頭をよぎる。
受けるのは危険だな。
俺は躱して距離をおくことにする。
しかし、すでに俺は何らかの力を受けていた。
遅い……下がろうと飛んだにも関わらず。その動きは非常に遅く、炎が徐々に近づいてくる。それも近づけば近づくほど動きが遅くなる。これは呪い……もしくは時魔法!?
ヤバい!?当たる!
炎は遅くなった俺の身体に当たり、ジューっと音を立て服に焦げ跡をつけて消えた。
「くっ……これは……」
身体がほとんど動かない。
動けなくなった俺にゆっくりとパイモンが迫る。
大きく黒い翼を高らかに伸ばし、それを硬質化刃のように変化させ、それを振り下ろす。