第429話 戦いの準備は整った
アペトスさんとの話を終えて瓶の中から外に出たいのだが、どうやって出るんだ?この場所以外は真っ暗で何も見えない。上に上がれば出られるのか?
「う〜んどうしようかな。取り敢えず呼びかけてみるか、すいませ~ん!ヘルさ〜ん!聞こえますか〜、外に出たいんですけど、どうやったら出られますか〜」
俺は上に向かって大声で言った。
するとすぐに返事が返って来る。
「うっせぇー!だまれろ。これきゃらがいいちょころなんら…………」
はぁ?……今の声……ヘルさんだよな。
もしかして酔ってる。
いや…でも、俺達が来た時周りは酒瓶だからだったけど全然そんな様子はなかったはず、何かの勘違いだな。もう一度呼んでみよう。
「お〜い!だれか〜ここから出してくれ〜」
するとまたまたすぐに返事が返って来た。
「アァァ……うりゅ〜〜しゃ〜い………のじゃ〜。めぎゃ〜ぎゅりゅぎゅりゅすりゅ〜………オェ〜きもちわる〜」
………これは先生だな。
あんたはまた……それなに酒に強くないんだから飲むなよ。なんだよ!まともなヤツは居ないのか!う〜んあと居るとしたらニキとエメリアだけど、エメリアは寝ていた。ここはニキしかいないか。
「お〜い!ニキここから出してくれ〜」
「…………………………………………」
ん?……返事が返って来ない。
聞こえなかったのか?
俺はそれから何度もニキを呼んだが結局ニキから返事が返って来ることはなかった。あとで分かったことなんだが、ヘルさんは酒で酔ったわけではなくタバコで酔っていた。昔からものによって強く酔うことがあったらしく、今回のタバコはそれに該当したようだ。そしてニキはそれに運悪く巻き込まれた。酔っていつも以上に癇癪しやすくなったヘルさんに軽いタメ口を言ってしまい怒りを買う。ヘルさんの拳骨がニキの頭に振り下ろされ沈黙、気を失ったニキには俺の声は届かなかった。俺は結局しばらく瓶の中で過ごすことになった。
…………………▽
「はぁ〜やっと出られたか」
出られて良かったのだが、どうやって俺は瓶から出たのだろうか?俺は突然外に追い出され地面に倒れたが、横にはグッタリとしたニキ、テーブルの上には寝ゲロを吐いている先生、そしてタバコを咥えたままテーブルで伏せ寝するヘルさん、誰も起きていない。ん?いや一匹起きているヤツがいた。
テーブルの上で瓶を転がすイタズラっ子、どうやら俺を瓶から出したのはエメリアのようだ。俺はエメリアに感謝して頭を撫でる。
ん〜……さてこの後、どうするか。
ぶっ倒れている人達を見て、置いて帰りたいと思いつつも、薄情になれない俺は二人と一匹を連れて店を出た。
それからぐったりとしている人達を家に連れて帰りベットに寝かせると外に出て散歩する。
「ふぁ〜、ちょっと疲れたけど、アペトスさんのことが準備出来て一安心だ。これで心置きなく明日の戦いに専念出来る」
戦いは明日、絶対に負けられない。
勝負か……少し緊張してきた。こういう時は眠りにくいから少しは身体を動かしておくか、俺は散歩からランニングに変え走っていると大声が聞こえて来た。
「今度こそ私が勝つわ!覚悟しなさいルナ」
「いいわ!トリスタンさんを倒したその実力、私に見せてみなさいな!勝負よノルン」
炎を纏い爆発的な勢いで飛び上がるノルンに対してルナは天使の翼を羽ばたかせ鋭い移動で飛び立つ。
「わぁーーすげぇーー!」
空中で衝突する二つの剣、ノルンの勢いのある直線的な動きに対してルナは機動力の高い屈折するような左右の動きで迎え撃つ。二人ともあり得ないほど良い動きだ。俺ならあっさりと斬られてしまいそうだ。二人とも腕を上げたな。
俺はしばらく二人の戦いを眺めていた。
「二人ともなんだか楽しそうだな」
不思議なんだけど、ノルンもルナも真剣な表情で戦っている。それなのに時折口元を見ると笑っているように見えた。まるでお互いが強くなったなと称え合っているように、二人は好敵手、ライバルってヤツなんだよな。楽しそうにも見えてきた。
「フッ……二人ともほどほどにな」
俺は帰宅することにした。
二人はまだ戦っていたが終わりそうにない。
そろそろ休まないとな。
二人の戦いを見て良かった。
アトラスとの戦い、やらなければならないと思いながらも、戦いたくないと思う心が日に日に強くなっていたから、でも二人の戦いを見て憂鬱な気分が晴れやる気が出て来た。
(アトラス勝負だ!)
そしてとうとうこの日を迎える。