第427話 酒とタバコとヘル姉さん
それから2週間はあっと言う間に過ぎて行った。あまりに過酷でなんど逃げ出そうと思ったか分からないが俺はやりきった!アトラスとの勝負を明日に迎え、イリスは最終日を休養の日とした。
「ボクは生きているぞ〜〜〜!」
俺は突然叫ぶ!
周りに人がいればびっくりすると思う。
だが、言いたい。思いの丈を込めて!
俺は地獄から解放され生を実感していた。
「なにをやっておるのじゃ、あまりの過酷さにバカになったのか?」
先生の辛辣な一言が聞こえる。
「はぁ!ふざけんな!」と言い返したいところだが、言ったところで損しかないのでぐっと我慢する。
「タクトはすごく強くなったのだ!今度はあんなヤツ軽くぶっ飛ばすのだ!」
ニキはニコニコしながら嬉しいことを言ってくれる。お前は先生と違って優しいヤツだ。と思い頭を撫でる。すると何かを感じ取ったのか、先生はムスッとして強烈なキックを俺の頬に炸裂させた。う〜もう!理不尽。
俺、先生、ニキそれとポケットでお休みのエメリアはぶらぶらと散歩をしながらある場所に向かっていた。
「たぶんここに居るはずなんだけど」
俺はこの町で唯一酒が飲める飲食店の前に立っていた。そのままずくに入ればいいのだが、気合を入れないとその一歩が踏み出せない。
「タ…タクト、急に用事を思い出したのだ!」
ちょっと前からソワソワしだしたニキがわけの分からないことを言って逃げ出そうとしたので、持ち上げるとガシッと脇に抱えて逃さない。
「タクト後生なのだ!放してなのだ!」
「なにを言っているのかな〜ニキ、お姉さんと会うだけだぞ〜!怖くな~い怖くな~い」
「うっ嘘なのだ!タクトもさっきから全然進んでないのだ!」
なに!?………な〜ちゃって、知ってますよぉ〜。
俺はさっきから店の前でステップを踏んでいた。
店に入れません!だって怖いんだもん。
「オラァーーー!!!さっさと入って来ーい!」
怒号の声が店から聞こえ俺とニキはビクッと身体をさせて縮こまる。
ダメだ。もうバレてる。
これで入るしかなくなった。結果無理やり覚悟を決めることができ、俺達が店に入るとテーブルに多くの空の酒瓶を置き行儀悪く足を乗せて酒を飲んでいる女性が居た。
「おせぇーぞ!おまえら、こっちは忙しいんだ!さっさとしろー!………ゴクゴクゴク…ぷはっ!」
豪快に酒瓶を飲み干すのはヘル姉さん、ここはソウルフロンティア、なぜここにヘル姉が居るかというと当然理由がある。イリスが気を遣ってヘカテー様にアトラスの死んだ父親をあの世から探してもらうことになった。ヘカテー様は現在イリスの魔法で封印され自ら動けないため、ヘル姉に指示を出す。実際冥界な管理をやっているのはヘル姉なので適任者なのだが、こんなことを頼んで何を言われるか考えただけで怖い!
「ヘルさんご無沙汰しております」
「おう、元気していたか」
返事な感じから思ったより機嫌は悪くない。
良かった〜。
俺は胸を撫で下ろす、
「ヘル姉ヤッホーなのだ!俺はげん…ゴハッ!?」
ヘルさんが消えた!?
ヘルさんは目にも止まらぬ早さで高速移動、ニキの首根っこを掴むとボディブロー、ニキは項垂れて沈黙する。
ニキ……多分の俺のやり取りをみて明るく親しみのある接し方をした方が良いと思ってしまったんだろう。……油断したな。残念!
「ちょうど良かったぜ!例のものよこしな!」
ヘルさん……ヤンキーかよ!
相変わらずのスケバンのようなキャラ。
対応を間違えればしめられる。
「承知しました。ヘルさんなら前よりキツめの方がいいですよね」
有名な銘柄のセ◯ンスターを1カートンテーブルの空いているところに置く。一箱開けタバコを取り出すとそのままヘルさんの口に持っていく。「パク」……ヘルさんはタバコを咥え、俺はバナーを取り出しちょこっとファイア〜………タバコに火をつける。
ヘルさんは煙を一気に吸い、プハァーーと美味しそうに煙を吐いた。それを俺は満足そうに眺める。
「うっうっ……タクトどういうことなのだ。いつの間にヘル姉の扱い方を………」
ニキは腹を押さえながら弱々しく唸る。
フッ……前の経験が役に立った。
俺はヤンキーの子分Aを演じればそこそこやっていける。
「ああ〜……良い気分だ。やっぱりお前が持っているタバコは格別だぜ。お前らいつまでそこで突っ立っているんだ。座れよ」
「へい!ありがとう御座いやす」
俺は子分A子分A。
自分に言い聞かせながら近くの席に着く。
「お前らもなんか飲むか?」
「はい!頂きます」
よしよしヘルさんの機嫌は悪くはない。このまま機嫌を損ねないようにして聞かないと!
「ヘルさん、お願いした方は見つかったでしょうか?」
「ん?あぁ!それな。もちろん見つけたよ。私を誰だと思っているんだよ」
やったー!アトラスの父親アペトスさんは見つかった。