第420話 アトラスの話①
「アタタ……酷い目に遭ったぜ!」
バラクは背伸びをして凝り固まった身体をほぐす。
「さ〜てと、アトラス久し振りだが……ちゃんと説明はしてくれるんだろうな」
頭をポリポリとかきながらバツが悪そうな顔をして言った。
「うん!もちろんだよ!バラク兄さん。ゆっくりお話させて」
話は料理を食べながらすることになり、バラクも席に着いてアトラスと同じ物を食べることになった。初めのうちは二人とも黙々と食べていたが、アトラスから声をかけた。
「バラク兄さんごめんね。今まで連絡しなくって」
眉をハの字にして困ったような顔をするアトラス、その声に反応したのか、バラクは歯を食いしばり何かに耐えていた。
「なぁ〜おい!お前よ。俺がずっと探していたのを知ってたのか?」
「うん!知ってた。嬉しかったな〜。あんな顔のパラク兄さんは見たことなかったから」
「ふざけんな!」
ドンッとテーブルを叩きバラクは怒りをあらわにした。それをアトラスは驚きもせずむしろ微笑な笑みすら見えていた。
「アトラス俺がどんだけ心配してたか分かって言ってるんだろうな〜」
「うん!知ってるよ。バラク兄さんは見かけによらず昔から優しいからね」
「見かけによらずは余計だ。たくよ〜。お前……一人で復讐するつもりだったのか?」
「う〜ん、少し違うかな。ボクとしては元々はそんなつもりじゃなかったけど、色々あってね。それと一応言っておくけど復讐にかんしてはもう終わった。ボルジアは欠片も残らずこの世から消した」
「そうか……やっぱりあのおっさんかよ。俺にもやらせろってんだ。バカ野郎が!一人で全部背負いやがってよ」
「うん!ごめんバラク兄さん」
「あ〜もういい、グチグチ言っても仕方がないからな。それよりあの日、一体何があった?」
「そうだね。その話をしないとあとの話も出来ない。それじゃ〜無理だとは思うけど怒らないで聞いてね。
あの日…父さん…そしてボクがボルジアの差し金のによって殺された日、ボクらスカイ家はこの王都の守り手としてだいだい王国に仕えて来た。でもね。ボクもあの時までは知らなかった。スカイ家には裏の役割があったことに」
「裏の役割?おいおいおかしなことを言うな。まさかアペトス様(アトラスの父親)に限ってそんなことは……」
「そう思うよね。あんなに優しい父さんが常闇の顧問を務めていたなんて……」
「常闇?なんだそれ」
「そっかバラク兄さんは知らないよね。常闇は暗殺と諜報を行うこの国の闇の部隊、その組織を知るのは王族と一部の貴族のみ」
「ちょっと待て!あり得ない。でも冗談じゃないだよな」
「ボクは父さんのことでそんな冗談は言わないよ。これは代々スカイ家が担って来た役割なんだ。父さんはただそれを引き継いだだけだよ。でも優しい父さんにはきっと辛かったと思うよ。でもボクらにはそんな顔一切見せなかったけど」
「………………………」
バラクはショックで言葉も出ない。
「父さんは心を殺して常闇と言う組織に居続けた。それが出来たのは、この国を住民を守ると言う信念でやっていたから、常闇と言う組織は相手が上位の貴族であろうとも、たとえ国王であろうとも国を害すると判断されたら処理(殺害)を行う。だからボルジアの目に止まってしまった」
「ボルジアの野郎は、この国でも奪おうとしていたのか」
「うん、そうだよ。ボルジアが計画していたのはハドリアヌス国王とその家族の暗殺、もちろん目的は後継者の抹消、そうすればボルジアは自然と繰り上げ当選で国王になれる。ほんと短絡的な考えだね。バカはこれだから困る」
「…………報復なのか?」
「報復とは違うかな。これはあとで調べて分かったことだけど、父さんは何もやってない。ただそれを知ってしまっただけで狙われた。ボルジアは傲慢で臆病な男だったから」
「お前はどうやって助かったんだ。屋敷の者は全員毒に侵されて亡くなっていた。倒れている者達の中にお前がいなかった時は、攫われたと思っていたが、上手く逃げたのか?」
「んん〜」アトラスは横に首を振る。
「ボクも父さんと一緒に毒に侵された。身体が熱くて痛くて、すごく辛かった。でもねバラク兄さんそんなことはなんてことないくらい悲しかったんだ!ボクの目の前で死んだ父さんの姿を見ていたら、どうでも良くなるほど悲しくって、溢れてきた憎しみが、その時だよ。運が良かったのか?それとも巡り合わせの必然、ボクの思いが天にではなく地の底に届いたのかな?ボクの憎しみが悪魔を呼んだ。それも九王と言われる大物悪魔パイモン。死にかけのボクに取り憑いたパイモンは毒を無効化しボクの身体を乗っ取っだんだよ。この時の記憶は結構曖昧なんだけど。その後ボクは父さんや屋敷のみんなを殺した奴らを八つ裂きにして殺した。この時の失敗は首謀者について聞かなかったこと、おかげで随分と時間をかけて見つけたよ」
アトラスは一気に喋り、少し疲れたのか息を吐き水をゴクゴクと飲み干した。
「お前……それで身体は大丈夫なのか?だって悪魔に……」
「うん!大丈夫だよ!だって食べちゃったから」
アトラスは美味しそうに舌舐めずりた。