第42話 トイレの少女
「へぇー!凄いや!城みたいに大きな教会」
ここはマルクト支部の教会、神イリスを崇める人々が集う場所、ここには常に信仰心を持つ信者が出入りし神イリスに祈りを捧げる。また怪我人や病人が出た時は病院と同じく治療も行なわれている。
この世界で回復魔法を扱えるものは基本的には教会で修行を積み習得した神官や僧侶と言った者達のみ、回復魔法はこの世界では多く存在しない。その為教会はどの国にも存在し、いかなる時も重要視されていた。
「やっと着いた」
「アポロンは教会に行きたかったのか?」
「そうだ、俺の目的はここだ、ずいぶんと寄り道してくれるから大分遅くなった」
「アハハ、ごめんつい楽しくなって」
「別に良いさ、俺はこの大聖堂でイリス様に祈りを捧げたかったんだ。お前ら一応言っておくが、中では静かにするんだぞ!良いか人にそしてイリス様に迷惑をかけるなよ!」
アポロンの目がどんどん真剣になっていく。
そうだった、アポロンは熱心な信者だった。教会で生まれ、教会で育ち、教会の教えを一身に受けた結果、スーパー信者アポロンが誕生したのだ!
「みんな、ここは神聖な場所だからな、静かに騒がず落ち着いて行動するんだよ!」
アポロンは日頃は我関せずで何も言わないが、こと教会やイリス様のことになると人が変わったように積極的になり、そして怒る!もしも教会のことについて悪く言ったり、妨害行為を行えば烈火の如く怒るだろう。それは何としても避けたい。
教会の中に入ると多くの信者や神官が居た。中はとにかく広いから迷子になりそうだ。
そのまま中に進むと中央に大きな石像が置かれていた。
ん?あれはイリス様の銅像かな?
「アポロンあの銅像ってイリス様なの?」
「…………………」
アポロンから返事がこない。なぜなら彼は自分の世界に入ってしまったからだ。今も目をキラキラさせて少年のような目を銅像に向けている。
「おう!?……大人っぽいアポロンが……」
その姿を見て少年ぽいな〜アポロンってと思ったが、そもそもアポロンも俺と同じ14歳、普通に少年だったわ。
アポロンが動きそうになかったので、俺はもう少し傍に寄り銅像を見上げる。
「綺麗だな、さすがは女神様とっても美人だ!」
それに女神様に言うには失礼かも知れないが、出るとこは出てて引っ込むところは引っ込んでいるスタイル抜群でとっても魅力的なお姉さんって感じ。
「なんか、タクトいやらしい目で女神様を見てない」
「いやいや、そんなわけないだろノルン」
ジトーっと疑いの目でノルンに見られる。
「タクトー貴様女神様を穢すな!天誅だ〜!」
うわぁ!?さっきまでぼぉーっとしていたアポロンが凄い勢いで詰め寄ってきた。
「いやいや、アポロン落ち着け、ボクはなんにもしていない!」
「そんなことを言って、女神様にいやらしいことをしていたんだろう!正直に言え、懺悔は俺が聞いてやる!それて天誅だ!」
アポロンが全然話を聞いてくれない〜。そもそも銅像にいやらしいことする?何が出来るって言うんだよ〜。
俺達は明らかに騒がしくった。
「君達ここは教会ですよ!お静かにお願い出来ますか!」
シスターのお姉さんが数人、俺達を囲むように睨みつける。
「「はい、すいませんでした……」」
俺とアポロンは頭を下げて平謝りする。
……………………
「くそ〜なんてことだ、神聖な教会でこんな失態を、イリス様が見ているかもしれん………うぉーー」
アポロンは失態を犯したと叫んでいる。さっきの注意されたばかりなんだから勘弁してくれ〜。あ!シスターがまたこっちを睨んでる〜
「その声はアポロンくんかな」
声をかけられた。壮年の神官さん、とっても優しい顔で微笑みかける。
「ヨハネ大司教、ご無沙汰しております」
アポロンが綺麗な角度のお辞儀をする。
それに習い俺とノルンもお辞儀し挨拶をする。
「セルギウス司祭は来られていないのですか?渡したい物があると連絡をしたのですが」
「いえ、ここにはいませんが、父も来ております。領主様と面会があるとのことで、明日にはこちらに顔を出すかと思います」
「そうですか、それは安心しました。彼にはどうしても受け取って欲しい物があるので助かりました」
「いえ、むしろ父はもっとこちらに顔を出すべきなのに、もう3年も……本当に申し訳ありません」
「謝らないで下さいアポロンくん、あなたの父は生まれ故郷の町を守りたくて、ここで修練を積んでいたのです。彼にとってはそれこそが最も大切なこと、それ故に町をあまり離れたくないのでしょう」
にっこりとヨハネ様は笑った。アポロンはイマイチ納得し切れないのか複雑な顔をしていた。
「アポロンくん、今日はお友達を連れて来てくれたのかな」
「はい!私がイリス様の素晴らしさを指導し、熱心な信者にしてみせます!」
「ホッホッ゙ホ、アポロンくんは相変わらずのイリス教の信者の様ですね。今後が楽しみです」
二人の楽しそうな話を聞いて昔を思い出す。
アポロンには散々イリス様がの素晴らしさを説かれた。
女神イリス、知恵と知識を司りどんな魔術をも扱う。感情は常に冷静で心優しいと言われているが実際会うことは出来ないので分からない。一応聖女様や使徒様と言われる存在は声を聞くことが出来るそうなのだが、何とも信用できない。
俺は前世の時からそれ程神と言われている存在を信じてはいなかった。特に死んだ時ですら神様には会えなかったのでますます存在を疑うようになってしまった。
「ブルッ………」
あ〜オシッコがしたい。トイレってどこだろう?
「あの〜お手洗いはどこにありますか?」
教会は広くちょっとやそっとじゃ見つからない。仕方なくヨハネ様にトイレの場所を聞く。
「お前な〜そんなことをヨハネ様に聞くな!」
アポロンを怒らせてしまった。そう言えば大司教と言えば相当上の階級の方だっけ、失礼だったかな、でもトイレくらい教えて〜。
「お手洗いですね!あちらにある通路を真っすぐ行って突き当りを曲がるとありますから、そちらでどうぞ」
ヨハネ様は特に気にした様子もなく、丁寧にトイレの位置を教えてくれた。
俺はヨハネ様にお礼を述べてトイレに向かう。
あ〜漏れる漏れる!と心の中で呟きながら慌てずゆっくりと歩き突き当りを曲がる。
「へぇー立派なトイレだな〜」
角を曲がるとエメラルドブルーの扉が現れた。ずいぶんと凝ったデザインが掘られていて、さすがは有名な大聖堂、お金がかかっておりますな〜
「おっと、あまりにも綺麗だったから見惚れてしまった!早くトイレに行かないと!」
俺は扉のノブに手をかけ開き中に入る。
「あっ!?」
…………中に入るとトイレではなく書斎だった。本棚が部屋中びっしり、俺は何を思ったのかそのまま奥へと進む。そこにはアンティーク風のデザインの凝った机に肘をつき頬を支えて不機嫌そうな顔をした少女が居た。
「……あなた誰なのかしら」
少女は俺の姿を見るとさらに不機嫌な顔をする。